「サイバーフォートレスIV」×「CTF上級編10」をMITRE ATT&CKで読み解く
自作した2つのゲームには、それぞれ「キルチェーン」が仕込まれています。段階の数は7と5で違いますが、なぜ違うのか——MITRE ATT&CKの14戦術に照らして棚卸ししてみました。
📋 目次
🔗 2つのゲームに共通する「キルチェーン」という考え方
無意識に同じフレームワークを2回使っていました
なぜ今さらこの2つを比べるのか
当サイトには、道を7段階に色分けしたタワーディフェンス「サイバーフォートレスIV」と、5フェーズの侵入を一本道で体験する「CTF上級編第10話・レッドチーム演習」があります。どちらも別々の目的で作った教材ですが、あらためて見直すと、どちらも「攻撃を段階の連鎖として描く」という同じ発想を使っていました。今回はこの2つを、MITRE ATT&CKの物さしで正面から読み解いてみます。
当サイトのMITRE ATT&CK連載総論で解説した通り、ロッキード・マーティン社の「サイバーキルチェーン」は攻撃を7段階の大きな流れで捉えるモデル、対してMITRE ATT&CKはその各段階を具体的な技術レベルまで細かくカタログ化したもの——「キルチェーン=攻撃の大きな筋書き」「ATT&CK=各場面の詳細な技の辞典」という関係です。今回はその一歩先として、「自分で作った2つのゲームは、この辞典のどこに位置するのか」を具体的に検証します。
検証の対象は2つ。1つは「守る側」のシミュレーションであるサイバーフォートレスIV、もう1つは「攻める側」のシミュレーションであるCTF上級編10です。同じ「攻撃を段階の連鎖として描く」という発想を、視点を変えて2度実装していたことになります。守備と攻撃、両方の視点から同じ地図を眺めることで、ATT&CKという枠組みの輪郭がより鮮明に見えてくるはずです。
この記事でわかること
サイバーフォートレスIVの7段階とCTF上級編10の5段階が、それぞれMITRE ATT&CKのどの戦術(Tactic)に対応するか、そしてなぜ両者の段階数が違うのかを、表と図解で整理します。
この記事の検証方法
表中の段階名・色・フェーズ構成は、いずれも実際のゲームのソースコード(キルチェーンの定義配列やフェーズごとのUI表示テキスト)を直接確認して転記しています。記憶や想像ではなく、実際に動いているコードそのものを一次情報として引用しました。
🏰 サイバーフォートレスIVの7段階を読み解く
道の色がそのままATT&CKの戦術になる
複数のセキュリティ機器(FW/WAF/EDR/SIEM等)を配置して侵入を防ぎ切るタワーディフェンス「サイバーフォートレスIV」では、敵が進む道が「偵察→デリバリ→初期侵入→権限昇格→横展開→C2指令→目的実行」の7段階で色分けされており、より手前の段階で道を遅らせるほど「封じ込めランク」の評価が高くなる仕組みです。
🏰 サイバーフォートレスIV キルチェーン7段階(ゲーム内の色を再現)
| 段階 | ATT&CK戦術 | 戦術ID | 代表的な技術例 |
|---|---|---|---|
| ① 偵察 | 偵察 | TA0043 | T1595 能動的なスキャン |
| ② デリバリ | (初期アクセスの一部) | TA0001 | T1566 フィッシング |
| ③ 初期侵入 | 初期アクセス | TA0001 | T1190 公開アプリの悪用 |
| ④ 権限昇格 | 権限昇格 | TA0004 | T1068 脆弱性を利用した昇格 |
| ⑤ 横展開 | 横展開 | TA0008 | T1021 リモートサービスの悪用 |
| ⑥ C2指令 | 指揮統制(C2) | TA0011 | T1071 標準アプリ層プロトコル |
| ⑦ 目的実行 | 影響(Impact) | TA0040 | T1486 データ暗号化/T1496 リソースハイジャック |
「デリバリ」と「初期侵入」は、実は同じ戦術
表を見ると、ゲームでは別の色に塗り分けられている「デリバリ」と「初期侵入」が、ATT&CKの戦術としてはどちらも同じ「初期アクセス(TA0001)」に属することです。ロッキード・マーティン社のキルチェーンは「配送」と「侵入成功」を別の場面として描くものの、ATT&CKはそれを1つの戦術にまとめています。7段階のうち、純粋なATT&CK戦術としては6つに対応する、というのが正確な言い方です。
権限昇格から認証情報までの詳細は連載第4回(防御回避・認証情報編)、横展開は第5回(探索・横展開編)、C2から影響までは第6回(C2・持ち出し・影響編)でそれぞれ詳しく解説しています。7段階を自分の目で確かめたい方は、サイバーフォートレスIVで遊んでみてください。道が7色に変わっていく様子と、早期遮断で評価が上がる仕組みを体感できます。
ゲーム内の敵キャラクター(スクリプトキディ・DDoS Bot・クリプトジャッカー・ランサムウェア等)も、この7段階のどこかに対応する行動を取るよう設計されています。たとえば偵察担当のスクリプトキディは開始10秒だけ移動速度が2倍になる「偵察ダッシュ」を行い、C2担当のボットマスターは20秒ごとに増援を呼ぶ——という具合に、キャラクターの挙動そのものがキルチェーンの各段階を表現しています。
このゲームで配置できる機器(FW/WAF/EDR/SIEM/MFA/VPN/ハニーポット)にも、それぞれ得意な段階があります。ファイアウォールは偵察〜デリバリの入口を狭め、WAFは初期侵入(Webアプリの悪用)を食い止め、EDRは権限昇格〜横展開の兆候をエンドポイントで検知し、SIEMは複数のログを相関させてC2通信の兆候を拾い上げる——という具合に、7段階の色分けは配置する機器選びとも連動する設計です。実務のセキュリティ投資でも「どの段階を厚くするか」という発想で予算配分を考えると、多層防御の抜け漏れに気づきやすくなります。
🧭 CTF上級編「レッドチーム演習」の5段階を読み解く
守る側ではなく、攻める側の視点から
CTF上級編全10話の最終回である第10話「レッドチーム演習」は、プレイヤーが攻撃者側となり、架空の企業「Vela Corp」を5つのフェーズで攻略する構成です。使う脆弱性はどれも上級編の過去の話で学んだもの(SSRFは第2話、IAM権限昇格は第6話、XXEは第8話)で、最終回はそれらを1本の侵入チェーンにつなぐ構成になっています。
🧭 CTF上級編10 侵入チェーン5フェーズ
| フェーズ | 使われた技術 | ATT&CKの狙い | 戦術ID |
|---|---|---|---|
| ① 偵察 | 公開資産の棚卸し | 偵察 | TA0043 |
| ② 初期侵入 | SSRFで内部メタデータへ | 初期アクセス | TA0001 |
| ③ 権限昇格 | IAM権限の危険な組み合わせ | 権限昇格 | TA0004 |
| ④ 横展開(表記) | XXEで内部設定ファイルを読む | 認証情報アクセスに近い | TA0006 |
| ⑤ 目的達成(表記) | AES-256-GCMで復号 | 収集に近い | TA0009 |
④⑤は、ゲームとしての「わかりやすさ」を優先した表現です
④のXXEは、実際には同じサーバー内にある設定ファイル(file:///vault/velacorp/unlock.conf)を読んでいるだけで、別のホストへ移動してはいません。ATT&CKの定義に厳密に照らすと、これは他ホストへ移る「横展開(TA0008)」ではなく、保管されていた認証情報を見つけ出す「認証情報アクセス(TA0006)」(T1552 保護されていない認証情報)に近い動きです。⑤の復号も、システムを破壊・妨害する「影響(Impact)」というよりも、目当てのデータにたどり着く「収集(Collection)」(T1005 ローカルシステムからのデータ)と呼ぶ方が正確でしょう。侵入の「物語」としては④⑤も自然な流れですが、ATT&CKの戦術ラベルとしては言葉を使い分ける必要があります。実務でも起きやすい混同です。
全10話を通してこの侵入チェーンを自分の手で辿りたい方は、CTF上級編第10話・レッドチーム演習をお試しください。目的実行の復号はブラウザのWeb Crypto APIによる本物のAES-256-GCM処理ですが、対象はページ内の架空データのみで安全に体験できます。
各フェーズにはヒント機能と得点評価があり、ヒントを使わずに解くほどスコアが高くなる仕組みは上級編の過去9話と共通しています。
この最終回だけの特徴として、各フェーズの答え(合言葉)は前のフェーズで得た情報がヒントになっており、前工程を飛ばして後工程だけを解くことはできません。実際の侵入テストやレッドチーム演習でも同じで、初期アクセスに成功して初めて権限昇格の糸口が見え、権限昇格に成功して初めて横展開の対象が見える——という「前の段階の結果が次の段階の入力になる」連鎖こそが、キルチェーンという言葉の本質です。
⚔️ なぜ段階数が違うのか|守るゲームと、攻めるゲーム
7と5、その差は想定するシナリオの違い
サイバーフォートレスIVは「不特定多数の踏み台・ボットが、社内ネットワークに向かって侵入してくるのを防ぎ切る」立場のゲームです。侵入者は外部からネットワーク経由でやってくるので「届ける」デリバリが必要で、居座り続けて外部と通信を続けるためC2も必要です。一方CTF上級編10は「1人の攻撃者が、1つのWebアプリを順番に攻略していく」立場のゲームです。プレイヤーは最初からアプリの前に立っており、メールや不正ファイルで「届ける」必要はなく(デリバリ不要)、対話的に操作するため裏でひそかに指令を送り続ける通信チャネルも不要です(C2不要)。同じ「侵入からゴールまでの一本道」というキルチェーンの発想を使っていても、「何を」シミュレートしているかによって、必要な段階の数は変わります。
🔍 2つのキルチェーンを重ねて見る
偵察
両方にあり
初期アクセス
両方にあり
権限昇格
両方にあり
横展開/認証情報
両方にあり(解釈が違う)
C2
IVのみ
影響/収集
両方にあり(性質が違う)
実務でのATT&CK活用も同じです
ある侵害事例を分析するとき、14戦術をすべて律儀に埋める必要はありません。攻撃者がどの経路で侵入し、何を目的にしていたかによって、当てはまる戦術だけが浮かび上がってくる——それがATT&CKを「チェックリスト」ではなく「辞典」として使うということです。今回の2つのゲームの比較は、それを図らずも証明しています。
この違いは、実際のインシデント対応報告書を書くときにも影響します。たとえば「攻撃者は横展開によって認証情報を窃取した」と書いてしまうと、読み手(監査担当者や上位のCSIRT組織)は「他のホストに侵入された」と誤解しかねません。正しくは「攻撃者は認証情報アクセスによって、後の横展開に使えるクレデンシャルを窃取した」のように、段階ごとの主語を分けて書く必要があります。
ATT&CKを「通知表」にしない
SOCやIR担当者が侵害調査でATT&CKマッピングを行うとき、「14戦術のうち何個埋まったか」を成果指標にしてしまうことがあります。しかし今回の比較が示す通り、シナリオによっては最初から当てはまらない戦術(サイバーフォートレスIVにおけるデリバリ・C2、CTF上級編10における狭義の横展開)が存在するのが自然です。埋まっていない戦術イコール見落としではなく、シナリオ上そもそも通らない経路かもしれない、という前提を持つことが大切です。
🏁 まとめ|実務での使い方とゲームで確かめる
攻撃は「点」ではなく「線」で起きる
7段階と5段階、数は違っても根っこにあるのは同じ考え方です。攻撃は単発の出来事ではなく連鎖としてつながっており、連鎖である以上、どこか1箇所を断ち切ればその先には進めません。サイバーフォートレスIVの「早期遮断ほど高評価」という採点ロジックも、CTF上級編10の「5つのフェーズのどこか1つでも防げばクラウンジュエルには届かない」という設計も、どちらもこの「多層防御」の発想をゲームメカニクスに翻訳したものです。
当サイトの3本柱戦略でいえば、この記事は柱A(DFIR/OSINT実務者向けハブ)と柱C(体験型コンテンツ)を接続するスポーク記事にあたります。ブログ記事と体験型教材が別々に存在しているだけでは、読者は両方にたどり着けないことがあります。今回のように、既存の教材をあとから実務フレームワークで読み解く記事を挟むことで、「遊んで終わり」ではなく「遊んだ後に実務の言葉で振り返る」という橋渡しができます。同じ手法は、当サイトの他の戦略ゲーム(ゼロトラスト建築ゲームやSOCタクティクス等)にも応用できるはずです。教材を作る側にとっても、公式フレームワークは「答え合わせ」の道具として機能する、というのが今回の一番の収穫でした。
🛠️ 自分の現場で試すには
身近な事例を1つ選ぶ
侵害事例のニュースやCTFの1問など、身近な題材を1つ選びます。
時系列で分解する
「攻撃者は何をして」「次に何をして」と、3〜5個の動作に分割します。
ATT&CKの戦術表と照合する
分割した動作をこの記事の表(またはMITRE公式サイト)と照合し、戦術IDを当てはめます。当てはまらない動作があれば、それは「その事案では起きなかったこと」として記録しておきます。
🧭 次に読む
🛡️ 実務に繋げる
Q. ATT&CKの戦術IDって覚える必要がありますか?
覚える必要はなく、必要な時に調べて使えれば十分です。この記事の表のように「自分が扱っている事象がどの戦術に当たるか」を都度確認する使い方で十分実務に活かせます。
Q. ゲームの説明とATT&CKの正式な定義が違う場合、どちらを信じればいいですか?
ゲームや教材は理解のための単純化・演出を含みます。正式な定義を確認したい時は、必ずMITRE公式のATT&CKサイトの戦術・技術の定義に立ち返ってください。この記事の④⑤の指摘のように、教材側の表現が「物語としての自然さ」を優先している箇所もあります。
Q. サイバーフォートレスIVとCTF上級編10、どちらから遊べばいいですか?
「攻撃を防ぐ側」を体感したいならサイバーフォートレスIV、「攻撃する側の思考」を体感したいならCTF上級編10(および上級編シリーズ全10話)がおすすめです。両方遊ぶと、同じ攻撃チェーンを攻守両方の視点で見られます。
Q. 他にキルチェーンを扱っているコンテンツはありますか?
経営視点でキルチェーンの各段階を防ぐ「キルチェーン防衛」というシミュレーターもあります。あわせてご覧ください。
Q. この記事のIDや分類は、当サイト独自の基準ですか?
段階名やゲームの色分け・スコアリングは当サイトオリジナルの実装です。一方でMITRE ATT&CKの戦術名・戦術ID(TA00xxおよびT1xxx形式の技術ID)はMITRE公式のATT&CKフレームワークに基づく一般的な分類で、当サイト独自のものではありません。


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