やさしいサイバーセキュリティ|AIと暮らし・仕事
そのAIの案内、
そのまま信じて大丈夫?
偽サイト、なりすまし、うっかり入力。
「AIの悪用」ダッシュボードから、身近な危険と今日できる対策を読み解きます。
「便利そうなAIを入れようとしたら、知らない操作を求められた」「上司の声で、急いで送金してと言われた」「仕事の資料をAIに貼り付けても大丈夫?」。AIに関係する危険は、特別な技術を使う人だけの話ではありません。
まず覚えたいのは、知らない命令を実行しないこと、大切な依頼は別の連絡先で確かめること、情報を入れる前に立ち止まることです。難しい専門用語を覚える前に、この3つを日常の行動にしておきましょう。
01|ページからわかること危険は「攻撃者のAI」と「自分たちのAI利用」の両方にある
参照したのは、国内 情報漏えいダッシュボードの「AIの悪用」タブです。国内と海外の事例、公的機関の対策を、組織の種類に合わせて確認できるページです。[1]
攻撃者がAIを使う
だますための材料や、攻撃の道具を作る
偽のメール、声や顔の偽装、偽情報、攻撃ツールなどにAIが使われる場合です。自分がAIを使っていなくても、受け手として狙われる可能性があります。
自分たちのAIの使い方
入力する情報や、任せる操作が入口になる
大切な情報を入力する、AIが示したリンクや手順を信じる、AIの道具に広い権限を渡す、といった利用場面に関係する危険です。
この分け方から読み取れるのは、「偽物を見破る力」と「AIを使うときの決まり」の両方が必要だということです。文章の自然さだけを見たり、AIに「安全にして」と頼んだりするだけでは、対応しきれません。
02|手口の見取り図9つの手口を、身近な言葉で理解しよう
ページの組織向けカードを、読みやすく言い換えました。表の順番は危険度の順位ではありません。右の欄は、手口を理解するために本記事で整理した注意点です。[1][2]
| 手口 | どんな危険? | 注意したいこと |
|---|---|---|
| AIを入口にした偽サイト | AIツールの導入や、AIの答えにあるリンクから偽の案内へ進ませる。 | 導入元を確かめ、意味のわからない命令を実行しない。 |
| AIで作る偽情報・偽の組織 | 記事や人物、団体の外見を整え、本物らしく見せる。 | 元の発表と発信者を確かめてから共有する。 |
| AIの道具をだます | AIが読む文章などに細工をして、意図しない操作へ誘導する。 | 読める情報と、実行できる操作を絞る。 |
| AIで作る攻撃ツール | 情報を盗むプログラムなどの作成にAIを使う。 | 更新、認証、バックアップなど基本の備えを続ける。 |
| 生成AIへの情報入力 | 個人情報や業務情報を、確認が不十分なまま渡してしまう。 | サービスの扱いと組織のルールを確認してから使う。 |
| 写真の性的な偽画像への加工 | 児童生徒などの写真を、性的な偽画像に悪用する。 | 被害画像を広めず、本人を責めずに相談につなぐ。 |
| AIによる侵入作業の自動化 | 複数の作業を進めるAIに、侵入の手順などを担わせる。 | 管理担当者が外部公開機器や権限、記録を確認する。 |
| AIで書く偽メール | 相手に合わせた文章で、偽サイトや添付ファイルへ誘導する。 | 自然な日本語でも、別の経路で依頼を確かめる。 |
| 声や顔を偽装した送金指示 | 知人や上司に似せ、急な送金などを頼む。 | 前から知っている連絡先で本人に確認する。 |
「ディープフェイク」は、本物らしく見えるように作り替えた映像・画像・音声などのこと。「AIエージェント」は、目的に合わせて道具を使い、複数の作業を進めるAIのことです。偽情報や誤りがすべてAI製だと、見た目だけで判断することはできません。
03|場面で考える「何をするよう求められたか」に注目する
ここからの会話や場面は、手口を説明するための架空の例です。実際に公表された事例や資料は、区別して紹介します。
場面1|「AIを入れるために、この命令を貼り付けて」
「無料のAIツールを使うには、この文字列をパソコンの操作画面に貼り付けてください」
こう案内されたら、いったん止まってください。「コマンド」は、パソコンに処理をさせる命令文です。コピーして貼るだけでも、情報を盗むプログラムを動かすことがあります。
偽の確認画面やエラー対処を装い、利用者に命令を実行させる手口は「ClickFix(クリックフィックス)」と呼ばれます。ラックは2025年5月19日、複数の顧客でこの手口による被害を観測したと公表しています。これはAI専用の手口ではありませんが、AIツールの導入などを入口にする危険を理解する助けになります。[3]
止まるポイント:画面の指示に従う前に、提供元の公式案内と一致するか確認する。わからなければ担当者へ相談する。
正規のソフトでも命令文を使って導入する場合はあります。だからこそ、命令文があることだけで偽物と断定せず、誰の案内なのか、何をする命令なのかを確かめます。ダッシュボードにも、AIサービスの共有ページを偽の案内の置き場所にした事例が載っています。サービスのURLが正規でも、利用者が作った共有内容まで公式の案内とは限りません。[1]
場面2|「自然なメール」「知っている声」だから安心?
「急ぎの支払いです。今日だけ振込先が変わりました。会議中なので、このメッセージで進めてください」
文章が自然でも、声や顔が知っている人に似ていても、それだけでは本人確認になりません。送金や口座変更を求められたら、いつもの確認手順を続けることが大切です。
実際の公表例:香港政府の2024年6月26日の回答では、2024年1月に、幹部を装った偽のビデオ会議に関係する詐欺が届け出られ、約2億香港ドルの損失が生じたと説明されています。警察は、公開された映像や声を使って会議映像が作られたとみています。これは海外の事例です。[4]
止まるポイント:相手が今回知らせてきた番号ではなく、以前から把握している連絡先で確認する。職場では、口座変更や送金を別の人も確認する運用にする。
メールでログインを求められたときも、メッセージ内のリンクから進まず、登録済みのブックマークや公式アプリから確認します。警察庁も、この方法を勧めています。[6]
場面3|「要約してほしい」だけでも、情報を外へ渡している
「この相談記録を、短くわかりやすくまとめて」――名前や連絡先が残った資料を、そのままAIに入力。
この場合に見直したいのは、入力先が、その情報を渡してよい相手なのかです。「画面上で相談するだけ」という感覚でも、サービス側へ情報を送っています。
個人情報保護委員会は、事業者が個人情報を入力する際、利用目的の達成に必要な範囲かを確認するよう注意喚起しています。行政機関等では、利用目的のために必要最小限かの確認が求められます。また、入力する個人データ等が学習に使われないかなどの確認も必要です。[5]
止まるポイント:使ってよいサービスと情報の範囲を先に確認する。説明や練習には、個人や取引先を特定できない架空の資料を使う。
名前だけ消しても、住所、相談内容、所属などの組み合わせから人がわかる場合があります。「名前を消したから大丈夫」と決めつけず、資料全体を見直しましょう。学習に使わない設定だけで、社内ルールや保存・共有の確認が不要になるわけでもありません。
場面4|AIに仕事を任せるほど、渡す権限を考える
「届いたメールを読んで、必要な返信も送って」――AIに、メールの閲覧と送信の両方を任せる。
AIが外部のメールやWebページを読むとき、その中に「別の場所へ情報を送って」といった不正な指示が紛れ込む場合があります。読むべき文章を、従うべき命令として扱わせようとする手口が「プロンプトインジェクション」です。[8]
たとえるなら、資料を読む係に渡した書類の中に「倉庫の鍵を渡してください」という指示が混ざるようなものです。AIに広い操作権限があるほど、誤った判断が実際の送信や変更につながるおそれがあります。
止まるポイント:最初は「読む」「下書きを作る」範囲から始める。外部への送信、削除、支払いなどは、内容と宛先を人が確認してから進める設計にする。
これは本記事からの運用上の提案です。英国NCSCも、プロンプトインジェクションへの対応では、危険と影響を小さくする考え方を示しています。注意書きだけに頼らず、接続先や権限など、仕組みの側でも制限することが大切です。[8]
04|数字を正しく読む件数が多いから危険、0件だから安全、とは言えない
このページは、報道や発表などから集めた事例を確認するためのものです。すべての被害を把握した統計でも、あなたの職場が被害に遭う確率を示すものでもありません。[2]
- 「新しく確認した6件」は、直近7日間に発生した6件?
- 違います。ページに新しく確認・追加された事例の表示です。事例の発生日、報道・公表日、確認された日は分けて読みましょう。
- 「国内0件・海外7件」は、日本では起きないという意味?
- 違います。このページで集めた根拠の内訳です。未公表や未収集の事例まで含めて、存在しないと証明する数字ではありません。
- 月別グラフが増えていたら、攻撃も急増している?
- そのグラフだけでは言えません。収集開始は2026年8月で、それ以前の月との件数差には、集めた量の違いがあります。
- 手口別の数を足すと、事例全体の数になる?
- 必ずしもなりません。1件が複数の手口に当てはまると、それぞれで数えます。分類・AIの役割・組織の種類のグラフには、国内の漏えい事件を含めないという集計範囲の違いもあります。
- カードの先頭が、一番被害に遭いやすい手口?
- 危険度のランキングではありません。数え方の説明では、国内の根拠の数、根拠の合計、最新事例の新しさを順に使って並べています。
また、ページの説明では、事例の確認や手口・対策の整理にAIを用いています。仕事の判断や研修で使うときは、事例の詳細と出典を開き、何が確認され、何が不明なのかまで読むと、誤解を減らせます。[2]
05|今日の使い方自分たちの場面に合わせて、1つ決める
- 「あなたの組織は?」を選ぶ。自治体、医療・介護、学校、民間企業など、自分の職場に近い種類から見ます。
- 「今やる対策3つ」を読む。誰が担当するかを決め、できているか確かめます。機器の更新は管理担当者に確認します。
- 身近な手口のカードを1枚開く。説明、対策、根拠の事例、出典の順に読むと理解しやすくなります。
- 職場や家庭での行動を1つ決める。「送金先の変更は電話でも確認する」など、迷ったときの決まりにします。
組織の種類を変えても、グラフは確認済みの全事例を対象にしています。「学校」を選んだからといって、グラフも学校の被害だけになるわけではありません。[1]
職場・家庭で確認したい5つ
- 意味のわからない命令を、画面に言われるまま実行しない。
- 送金や重要な変更は、前から知っている連絡先で確認する。
- 個人情報や仕事の資料は、入力してよいか先に確かめる。
- AIに渡す情報と、実行できる操作を必要な範囲に絞る。
- OS・アプリ・機器の更新を続け、困ったときの相談先を決めておく。
職場の管理担当者は、AIへの対策と合わせて、OSやVPNなどの更新、多要素認証、アクセス権限、バックアップも確認しましょう。AIが関係する場合でも、基本の対策を続ける意味は変わりません。[7]
06|操作・入力した後の初動何をしてしまったかで、対応を分ける
偽サイトにパスワードを入力した
公式アプリなど、確かな入口からサービスに接続し、パスワードを変更します。同じものを使っている他のサービスも変更し、提供元へ相談してください。不正送金やカードの不正利用があれば、金融機関やカード会社へ速やかに連絡します。[6]
不審な命令を実行した・ソフトを入れた
職場の端末は、すぐに管理担当者へ連絡してください。感染が疑われる場合は、LANケーブルを抜く、Wi-Fiを切るなどして通信を止め、自己判断で初期化せず、調査につなげます。警察庁のランサムウェア被害時の案内では、通信からの隔離と、調査に必要な記録を残すため電源を落とさないことを勧めています。[3][7]
AIに個人情報や社外秘の資料を入力した
追加の入力を止めて、「どのサービスへ、いつ、どんな情報を送ったか」を整理し、職場の責任者や情報管理の窓口へ報告します。削除の依頼ができるかも確認しますが、画面の履歴を消しただけで、送った情報の扱いがすべて解決したとは判断しないでください。
これは情報を渡した際の、本記事からの初動提案です。入力した事実だけで一般公開されたと断定せず、サービスの契約・保存・利用条件と、送った情報の範囲を確かめます。
自分や子どもの偽画像が出回っている
本人を責めず、画像を他人へ転送・拡散しないでください。掲載先のURLや日時などを控え、サービスの通報窓口や警察、学校などの信頼できる相談先へつなぎます。性的な画像を、証拠のつもりで周囲へ配り直すことも避けましょう。
被害を広げないための本記事からの提案です。危険が迫っている場合は、安全の確保を優先してください。
覚えておきたい合言葉
実行する前に確認。
大切な依頼は別の連絡先で確認。
情報を入れる前に確認。
AIが関わっているか見抜けない場面でも、「何を求められているか」「情報やお金がどこへ行くか」を確かめる習慣は役立ちます。
参考資料・出典
ダッシュボードの表示と数え方を確認し、対策は以下の公表資料で補いました。ダッシュボードに収録された全事例を、本記事が独立に再検証したものではありません。数値は参照時点の記録で、今後変わります。場面の会話は架空です。
- やさしいサイバーセキュリティ:国内 情報漏えいダッシュボード「AIの悪用」(2026年10月21日確認、データ日付2026年10月20日)。掲載手口・件数・画面の説明。
- 同:数え方と用語「AIの悪用の数え方」。集計対象、国内・海外・不明の区分、重複集計、表示順など。
- ラック:ClickFixの被害をJSOCの複数のお客様にて観測(2025年5月19日)。不正な命令を実行させる手口と対応。
- 香港政府:LCQ9: Combating frauds involving deepfake(2024年6月26日、英語)。偽のビデオ会議に関係する詐欺事例と、電話などによる確認の助言。
- 個人情報保護委員会:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(2023年6月2日、PDF)。個人情報等の入力に関する注意。
- 警察庁:フィッシング対策。公式アプリ等の利用、入力してしまった場合の対応。
- 警察庁:ランサムウェア被害防止対策。更新、認証、権限、バックアップ、感染時の隔離など。
- 英国NCSC:Prompt injection is not SQL injection (it may be worse)(英語)。外部の文章に含まれる指示への誘導と、危険・影響を抑える考え方。

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