捕まえた件数だけが、
7年間まったく動いていない
不正アクセスの検挙率は21.7%から6.0%へ。特殊詐欺は54.8%から16.8%へ。
どちらも、認知件数だけが増えていました。
⚡ 先に結論(5行)
- 不正アクセス行為の認知件数は、令和7年に7,190件で過去最多。前年から1,832件(34.2%)増えました。いっぽう検挙件数は431件で、前年より132件減っています。
- 検挙率は令和2年の21.7%から、令和7年の6.0%へ。認知が2.56倍になる間に、検挙件数は0.71倍になりました。
- 同じことが特殊詐欺でも起きています。認知件数は令和2年の13,550件から令和7年の42,900件へ3.17倍。検挙件数は7,424件から7,188件で0.97倍。検挙率は54.8%から16.8%に落ちました。
- 数字を並べて気づくのは、検挙件数だけがほとんど動いていないことです。特殊詐欺は7年間6,600〜7,424件の範囲に収まり、変動係数はわずか4.5%。同じ期間の認知件数は47.2%も振れています。
- あなたが読み取るべきこと:捜査の量には上限があるように見えます。増えた分は、そのまま「捕まらない事件」になっています。被害に遭ってから取り返す道は、年々細くなっていると考えたほうがいいでしょう。
📌 一言でいうと ── 増えたのは事件の数だけで、捕まえられる数には天井がありました。
📋 目次
📖 この統計は誰が出しているか
少し変わった成り立ちの資料です。
法律が、毎年の公表を義務づけている
不正アクセス禁止法の第10条第1項に、「国家公安委員会、総務大臣及び経済産業大臣は……毎年少なくとも一回、不正アクセス行為の発生状況……を公表するものとする」と書かれています。この記事で使うのは、その法律に基づいて毎年出される公表資料です。
令和8年3月12日に、3大臣の連名で令和7年分が公表されました。
3大臣の連名ですが、「発生状況」の部分は都道府県警察から警察庁への報告を集計したものです。総務省や経済産業省が測った数字ではありません。両省が直接関わるのは、資料後半の「アクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」です。「経済産業省によると不正アクセスが増えた」と書くのは、正確ではありません。
この記事では、あわせて特殊詐欺の統計も使います。こちらは警察庁が別に公表しているもので、以前この連載で「捕まる詐欺と捕まらない詐欺」として扱いました。今回はその続きにあたる話になります。
📉 検挙率は6.0%になった
まず、数字を並べます。
📊 不正アクセス行為の認知件数と検挙件数
📊 認知・検挙・検挙率
| 年 | 認知件数 | 検挙件数 | 検挙率 |
|---|---|---|---|
| 令和2年 | 2,806 | 609 | 21.7% |
| 令和3年 | 1,516 | 429 | 28.3% |
| 令和4年 | 2,200 | 522 | 23.7% |
| 令和5年 | 6,312 | 521 | 8.3% |
| 令和6年 | 5,358 | 563 | 10.5% |
| 令和7年 | 7,190 | 431 | 6.0% |
※ 検挙率は認知件数と検挙件数から筆者が算出したものです。
令和3年の28.3%から、令和7年の6.0%へ。4年で4分の1以下になりました。およそ17件に1件しか検挙に至っていない計算になります。
🧱 検挙件数には天井がある
ここがこの記事の中心です。
グラフをもう一度見てください。赤い線(認知)は激しく上下しているのに、緑の線(検挙)はほとんど水平です。
これを数字にすると、はっきりします。変動係数——平均に対してどれくらい振れているかを示す指標です。
📊 認知件数と検挙件数の振れ幅
| 範囲 | 平均 | 変動係数 | |
|---|---|---|---|
| 認知件数 | 1,516〜7,190件 | 4,230件 | 55.8% |
| 検挙件数 | 429〜609件 | 512件 | 14.0% |
認知件数は最小と最大で4.7倍も違うのに、検挙件数は429件から609件の範囲に収まっています。幅にすると180件です。
検挙率が下がったのは、検挙が減ったからではない
検挙率6.0%という数字を見ると、「警察が捕まえなくなった」と読みたくなります。でも数字はそう言っていません。検挙件数は6年間ほぼ一定です。令和7年の431件は、令和3年の429件とほとんど同じ水準です。
変わったのは分母のほうでした。事件が2.56倍に増えて、処理できる数が変わらなかった。その結果として、率が下がっています。
なぜ検挙件数が一定なのか、統計に説明はありません。ただ捜査には人手と時間がかかり、その量は年によって急には変えられない——という事情は想像がつきます。だとすれば、これは能力の上限を示していることになります。
🔁 特殊詐欺でも、同じことが
別の犯罪で確かめます。
この連載では以前、特殊詐欺の検挙率を扱いました。同じ枠組みで、最新の数字まで並べます。
📊 特殊詐欺の認知・検挙・被害総額
| 年 | 認知件数 | 検挙件数 | 検挙率 | 被害総額 |
|---|---|---|---|---|
| 令和元年 | 16,851 | 6,817 | 40.5% | 316億円 |
| 令和2年 | 13,550 | 7,424 | 54.8% | 285億円 |
| 令和3年 | 14,498 | 6,600 | 45.5% | 282億円 |
| 令和4年 | 17,570 | 6,640 | 37.8% | 371億円 |
| 令和5年 | 22,884 | 7,212 | 31.5% | 908億円 |
| 令和6年 | 31,280 | 6,838 | 21.9% | 1,991億円 |
| 令和7年 | 42,900 | 7,188 | 16.8% | 3,241億円 |
検挙件数は7年間、6,600件から7,424件の範囲にあります。変動係数は4.5%。同じ期間の認知件数は47.2%も振れているのに、です。
特殊詐欺 認知
13,550 → 42,900
3.17倍
特殊詐欺 検挙
7,424 → 7,188
0.97倍
不正アクセス 認知
2,806 → 7,190
2.56倍
不正アクセス 検挙
609 → 431
0.71倍
📊 検挙率の推移(2つの犯罪)
2本とも、同じ方向に落ちています。そして特殊詐欺の被害総額は、この間に285億円から3,241億円へ11.4倍になりました。
👮 人数で見ても、同じだった
件数の数え方の問題ではないか、確かめます。
「検挙件数」は、1つの事件から複数が計上されることもある指標です。そこで「検挙人員」——実際に何人が検挙されたか——でも見てみました。
📊 検挙人員の推移
| 範囲 | 平均 | 変動係数 | |
|---|---|---|---|
| 特殊詐欺の検挙人員 | 2,374〜2,861人 | 2,552人 | 7.0% |
| 不正アクセスの検挙人員 | 235〜259人 | 252人 | 4.1% |
| 参考:特殊詐欺の認知件数 | 13,550〜42,900件 | — | 47.2% |
人数で見ても、ほとんど動いていません。不正アクセスの検挙人員は5年間235〜259人の範囲で、変動係数はわずか4.1%。件数の数え方の問題ではなく、実際に検挙できている人の数が一定だということになります。
被害額が11.4倍になった理由も、分解できる
特殊詐欺の被害総額は285億円から3,241億円へ11.4倍になりました。この11.4倍は、2つの要因の掛け算です。
件数が3.17倍、そして1件あたりの被害額が3.59倍。3.17 × 3.59 = 11.4。1件あたりは211万円(令和2年)から756万円(令和7年)に増えています。件数も増え、1件あたりも大きくなった——両方が同時に起きていました。
📊 特殊詐欺 1件あたりの被害額
| 年 | 令和元 | 令和2 | 令和3 | 令和4 | 令和5 | 令和6 | 令和7 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1件あたり | 187万 | 211万 | 195万 | 211万 | 397万 | 636万 | 756万 |
1件あたりが跳ねたのは令和4年から令和5年にかけてです(211万円→397万円)。SNS型投資詐欺とSNS型ロマンス詐欺が統計に加わった時期と重なります。この2手口は1件あたり1,000万円を超えるため、平均を大きく押し上げます。
令和元年から令和4年までは187万〜211万円で安定していました。それが3年で3.6倍です。検挙の側は同じ人数で対応し続けているのに、1件あたりの被害は大きくなり続けている——この非対称が、被害総額11.4倍の正体でした。
📊 何が増えたのか
不正アクセスの中身を見ます。
📊 不正アクセス後に行われた行為(件数)
| 区分 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 |
|---|---|---|---|---|---|
| インターネットバンキングでの不正送金等 | 693 | 1,096 | 5,598 | 4,342 | 4,747 |
| 証券会社のインターネット取引での不正取引等 | 0 | 0 | 0 | 2 | 1,484 |
| インターネットショッピングでの不正購入 | 349 | 227 | 93 | 180 | 228 |
| 合計 | 1,516 | 2,200 | 6,312 | 5,358 | 7,190 |
3年間ゼロだった区分が、1年で1,484件になりました。令和6年の時点ではわずか2件です。
令和7年の増加分1,832件のうち、証券だけで1,484件。81.0%を単独で説明します。つまり令和7年の急増は、ほぼ「証券口座が新しく狙われ始めた」ことによるものでした。統計に新しい犯罪カテゴリが出現する瞬間が、そのまま記録されています。
ちなみに令和6年版の資料には「インターネットオークションの不正操作」という区分がありましたが、令和7年版では消えています。件数の多い順に載せる方式のため、区分そのものが年によって入れ替わります。
🔑 手口も、捕まる人も変わった
検挙された事件の中身です。
検挙された不正アクセス行為399件のうち、どうやってIDとパスワードを手に入れたかが集計されています。
📊 識別符号窃用型の手口(本文に明記された2区分)
| 手口 | 令和3年 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 | R6→R7 |
|---|---|---|---|---|---|
| パスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手 | 153 | 203 | 174 | 84 | −90 |
| フィッシングサイトから入手 | 70 | 10 | 41 | 77 | +36 |
令和6年には4.24倍の差があったのが、令和7年には1.09倍。ほぼ並びました。この連載でフィッシングが20年で22.7倍になったことを書きましたが、その結果が検挙統計にも出てきた形です。
📊 検挙された被疑者の年齢(令和7年・248人)
| 年齢 | 令和3年 | 令和5年 | 令和7年 | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| 14〜19歳 | 60 | 73 | 81 | 32.7% |
| 20〜29歳 | 87 | 103 | 91 | 36.7% |
| 30〜39歳 | 43 | 53 | 41 | 16.5% |
| 40〜49歳 | 30 | 21 | 23 | 9.3% |
| 50歳以上 | 15 | 9 | 12 | 4.8% |
| 計 | 235 | 259 | 248 | 100% |
10代と20代で69.4%。そして14〜19歳は5年間で60人から81人へ、唯一一貫して増えている年代です。資料には最年少10歳、最年長65歳と記されています(10歳は14歳未満のため検挙人員には計上されていません)。ほかに14歳未満の少年7人が触法少年として補導されています。
🧰 何ができるか
数字から出てくることを。
🛡️ 「あとで取り返す」を前提にしない
検挙率6.0%、特殊詐欺で16.8%。被害に遭ってから犯人が捕まる確率は、年々下がっています。検挙されたとしても、失った金銭が戻るとは限りません。入口で止めるほうが、圧倒的に確実だという当たり前の話が、数字で裏づけられた形です。
🔐 金融サービスの認証を、いま見直す
令和7年の増加分の81.0%が証券口座でした。銀行だけでなく、証券・暗号資産・決済サービスも同じ入口です。普段ログインしないサービスほど後回しになりがちですが、多要素認証をまだ設定していない口座がないか——今日確認できます。
🎣 パスワードは「盗まれる前提」に切り替える
手口はパスワード管理の甘さ(84件)からフィッシング(77件)へ移りました。複雑なパスワードを作っても、本人が偽サイトに入力してしまえば無意味です。強度を上げるより、入力する画面へのたどり着き方を変えるほうが効きます。ブックマークか公式アプリから開く、それだけです。
👦 10代が3割を占めている
検挙された被疑者の32.7%が14〜19歳、最年少は10歳です。加害の側にも子どもがいます。「他人のIDでログインする」ことが犯罪だと知らないまま入口に立つ子がいる、ということでもあります。被害の話だけでなく、加害の話も伝える必要があります。
捜査が手を抜いているわけではありません。検挙件数は6年間ほぼ一定です。問題は、事件のほうが2.5〜3.2倍に増えたことです。増えた分は、そのまま「捕まらない事件」になります。だから対策の重心は、事後の回復ではなく、事前の防止に置くしかありません。
📝 注意点とまとめ
この数字の限界を、正面から書いておきます。
検挙率は厳密な対応ではない
本記事の検挙率は、同じ年の認知件数と検挙件数を割ったものです。 実際にはある年に認知された事件が、翌年以降に検挙されることもあります。 年をまたぐ分のずれは補正していません。
認知件数の定義が広い
資料の注記によれば、認知件数には被害届のほか、余罪として確認されたもの、 報道を踏まえて事業者から確認したものも含まれます。 1つの事案から多数の件数が計上されることがあります。
3大臣連名だが警察庁のデータ
「発生状況」は都道府県警察から警察庁への報告です。 総務省・経済産業省が測った数字ではありません。 両省が関わるのは資料後半の研究開発の状況です。
2つの犯罪は別の統計
不正アクセスと特殊詐欺は別々に公表されているもので、 重なる事案もあれば、まったく別の事件もあります。 本記事では並べていますが、合算はしていません。
「天井」は解釈である
変動係数4.5%・14.0%は計算結果ですが、 それを「捜査能力の上限」と読むのは筆者の解釈です。 統計に理由は書かれていません。年数も6〜7点と少ないままです。
中位カテゴリは使っていない
行為別・手口別の表はPDFからの抽出でラベルと行の対応が確定できない部分がありました。 本記事では本文に件数が明記されている区分のみを掲載しています。
ここまで見てきたことを、もう一度まとめます。
不正アクセスの検挙率は6.0%
認知7,190件に対し検挙431件。令和2年の21.7%から4分の1以下になりました。
検挙件数だけが動いていない
6年間429〜609件(変動係数14.0%)。特殊詐欺も7年間6,600〜7,424件(同4.5%)でした。
特殊詐欺の被害総額は11.4倍
285億円から3,241億円へ。検挙率は54.8%から16.8%に落ちました。
令和7年の増加は、8割が証券口座
3年間ゼロだった区分が1,484件に。増加分1,832件の81.0%を単独で説明します。
この2つの統計を並べたとき、最初に目がいったのは6.0%と16.8%という低さでした。ですが数字を追ううちに、もっと気になったのは検挙件数の動かなさです。
特殊詐欺の検挙件数は、令和元年から令和7年まで6,817・7,424・6,600・6,640・7,212・6,838・7,188。認知件数が2.5倍になっても、この列はほとんど同じ数字を並べ続けています。ここに、いまの限界が出ているように見えます。
もうひとつ書いておきたいことがあります。この記事の数字は、どれも「捕まえる側」の話です。ですが被害に遭った人にとって本当に重要なのは、お金が戻るかどうかでしょう。検挙されても被害額が回復するとは限りません。検挙率6.0%という数字は、回復の見込みの上限にすらならない——そう考えておくのが安全だと思います。
検挙率が下がったことを「警察の怠慢」と読むのは、この数字からは支持されません。検挙件数は減っていないからです。起きている事件の量が、対応できる量を超えた——数字が示しているのはそこまでです。そのうえで私たちにできるのは、自分の口座とパスワードの入口を、今日のうちに固めておくことだと思います。


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