証券口座を狙うフィッシングが1か月で600倍に急増
警察庁の一次データが示す、2025年”お金の入り口”を狙う詐欺の実態
📋 目次
💬 数字で見る「フィッシング大国」ニッポン
本題に入る前に、まず全体像を押さえておきましょう。
フィッシングって、そんなに増えているの?
日本国内でフィッシング対策協議会に寄せられた「フィッシング報告」の件数は、2019年にはわずか5万5,787件でした。それが2025年には245万4,297件。6年間で約44倍にまで膨れ上がっています。前年(2024年)の171万8,036件と比べても、1年間で+42.9%という伸び方です。もはや「たまに来る怪しいメール」ではなく、日常的に誰の元にも届きうる規模の脅威になっています。
2019年
55,787件
2025年
2,454,297件(約44倍)
前年比
+42.9%
そもそも「フィッシング」とは?
銀行員や証券会社の担当者などになりすまして偽のメールやSMS(ショートメッセージ)を送りつけ、本物そっくりの偽サイトに誘導してID・パスワードやクレジットカード番号を盗み取る手口です。魚を「釣る(fishing)」ことになぞらえて名付けられました。誰でも一度は受け取ったことがあるかもしれない、身近な脅威です。
なぜここまでフィッシングが増え続けているのでしょうか。理由の一つは、攻撃側にとってのコストの低さです。偽サイトの作成やメールの一斉送信は自動化しやすく、送りつける相手が多いほど、わずかな確率でも”引っかかる”人が出てきます。加えて近年は、新NISA(少額投資非課税制度)の開始などをきっかけに証券口座を新しく開設した人が増えており、投資に不慣れな利用者ほど本物と偽物の見分けがつきにくい、という背景もあると考えられます。
この記事では、フィッシングの中でも2025年に急激な伸びを見せた「証券口座を狙うフィッシング」に焦点を当て、それがどのような被害につながっているのか、そして今日からできる対策までを、警察庁の一次データにもとづいて解説します。ネット証券やネットバンキングを利用している方はもちろん、まだ使っていない方や、ご家族の資産管理が気になる方にも役立つ内容です。
📊 証券口座フィッシング、5月に急増のピーク
2025年、最も急激な変化が起きたのがこの分野です。
なぜ「証券口座」が狙われるのか
2025年に入り、証券会社になりすましたフィッシングメールの報告が急増しました。1月はわずか104件でしたが、そのわずか4か月後の5月には7万3,857件——年間を通じて突出した水準に達しています。株式や投資信託の口座は、乗っ取られると口座内の資産を勝手に売却されたり、不正な取引に悪用されたりする恐れがあるため、攻撃者にとって”うまみ”の大きい標的だと考えられます。
📈 証券口座を騙るフィッシング報告件数(2025年・月次推移)
※ 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」図表24(証券会社をかたるフィッシングメール報告件数)をもとに作成。
この時期に何があったのか
4〜5月に何が急増の引き金になったのかは、警察庁のデータからは断定できません。ただ、フィッシングを含む詐欺の手口は、投資への関心が高まる時期や話題性のあるニュース(決算発表・相場の変動・新しい制度の開始など)に便乗する傾向があるとされています。「最近、投資関連の話題をよく見る」と感じる時期こそ、フィッシングメールへの警戒を一段引き上げるタイミングだと考えておくとよいでしょう。
証券口座が乗っ取られると、何が起きるのか
ID・パスワードが盗まれて口座に不正ログインされた場合、想定される被害にはいくつかのパターンがあります。まず①口座内の資金や保有株式が本人の知らないうちに売却・出金されるという被害ですが、証券口座に登録されている出金先の銀行口座は、基本的に口座名義人本人の銀行口座です。そのため、証券口座だけを乗っ取っても、送金先は結局本人の口座になってしまい、攻撃者はお金を得られません。実際に金銭を奪うには、証券口座とひもづく銀行口座(ネットバンキング側)をセットで乗っ取る必要があります。
一方、証券口座単体の乗っ取りだけでも成立してしまうのが、②流動性の低い銘柄の売買に悪用され、株価操縦の”踏み台”にされるケースです。乗っ取った口座から薄商いの銘柄に不自然な買い注文・売り注文を出させて株価を意図的に変動させ、攻撃者自身が別途保有する内外のポジション(海外市場での売買を含む)で利益を得る——という株価操縦目的の悪用だと推測されます。この場合、本人が直接お金を失うわけではなくても、不審な取引の当事者として証券会社から利用制限を受けたり、事情確認の対応に時間を取られたりすることがあります。口座の残高が少ない、あるいはまだ入金していない場合でも、この種の”踏み台”にされるリスクはゼロではありません。「自分は大きな資産を持っていないから狙われない」というのは、必ずしも正しい考え方ではありません。
🕵️ フィッシングの先で起きていること
盗まれた情報は、最終的に「詐欺」という実害に姿を変えます。
フィッシングは”入り口”に過ぎない
フィッシングメールで盗まれた情報は、最終的に金銭的な実害につながります。警察庁の統計では、SNSを通じて勧誘される投資詐欺(SNS型投資詐欺)やロマンス詐欺(SNS型ロマンス詐欺)の被害が、2025年に過去最悪の水準に達しました。証券口座フィッシングの急増と、こうした詐欺被害の拡大は、同じ2025年に同時に起きている出来事です。
📊 詐欺認知件数の推移(特殊詐欺全体を100とした場合の相対比較)
| 詐欺の種類 | 2024年 | 2025年(暫定) | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 特殊詐欺 全体 | +37.1% | ||
| SNS型投資詐欺 | +48.7% | ||
| SNS型ロマンス詐欺 | +46.6% |
※ バーの長さは「特殊詐欺全体2025年(42,900件)」を100%とした相対値。2025年の数値はすべて警察庁公表の暫定値です。
被害額で見ると、さらに深刻
件数だけでなく被害額も急増しています。SNS型投資詐欺の被害額は2024年の871.1億円から2025年は1,274.7億円(暫定)、SNS型ロマンス詐欺は400.9億円から552.2億円(暫定)に拡大しました。この2つを合わせた約1,827億円は、特殊詐欺全体の被害額(約3,241億円)の56%に達し、もはやSNS型の詐欺が被害額の”主役”になりつつあります。さらに2025年には「ニセ警察詐欺」という新しい手口も独立集計されるようになり、被害額は985.4億円(暫定)にのぼります。
典型的な手口のパターン
SNS型投資詐欺では、著名人になりすましたSNS広告やメッセージアプリのグループへの勧誘から始まり、最初は少額の”儲け”を見せて信用させ、徐々に高額な入金を要求する、といった手口が典型例として報告されています。「必ず儲かる」「今だけ特別」といった言葉には、まず疑いの目を向けることが大切です。
新顔の脅威「ニセ警察詐欺」とは
2025年分から新たに独立して集計されるようになった「ニセ警察詐欺」は、警察官や検察官をかたって電話をかけ、「あなたの口座が犯罪に使われている」「逮捕を回避するには資産を移す必要がある」などと偽り、指定の口座への送金やキャッシュカードの引き渡しを迫る手口です。実在の警察機関が電話やメールで送金・カード提出を求めることはありません。「警察」「検察」を名乗る相手から金銭やカードの話が出た時点で、いったん電話を切り、警察相談専用電話などの公的な窓口に自分からかけ直して確認することが唯一確実な対処法です。
この勢いは2026年に入っても衰えていません。2026年1〜3月の3か月間だけで、ニセ警察詐欺2,204件、SNS型投資詐欺3,397件、SNS型ロマンス詐欺1,308件が認知されており(いずれも暫定値)、2025年からの増加傾向がそのまま続いていることがうかがえます。
🏦 もう一つの脅威、ネットバンキング不正送金
狙われているのは証券口座だけではありません。
銀行口座も同時に狙われている
同じ2025年、インターネットバンキングの不正送金も急増しています。2025年上半期(1〜6月)だけで発生件数2,593件、被害額42.2億円。前年同期比でそれぞれ+50.1%、+73.1%という伸びです。
発生件数(上半期)
2,593件(+50.1%)
被害額(上半期)
42.2億円(+73.1%)
個人 1件あたり平均
約77万円
法人 1件あたり平均
約3,034万円
法人の1件あたり被害額は個人の約39倍
発生件数では法人はわずか75件(全体の3%未満)ですが、被害額は22.75億円と、個人被害者2,518人分の被害額19.49億円に迫る規模です。1件あたりに換算すると、個人平均の約77万円に対し、法人は約3,034万円。中小企業の経理担当者や個人事業主にとっても、決して他人事ではない数字です。
なぜ法人口座の被害はここまで大きくなるのか
法人口座は個人口座に比べて残高や取引金額の規模が大きく、一度不正送金が成立すると被害額も跳ね上がりやすい構造にあります。加えて、経理担当者が日々多くの振込業務を処理している企業ほど、1件の不審な取引に気づきにくいという事情もあります。取引先や経営者になりすましたメールで振込先の変更を指示する「ビジネスメール詐欺」的な手口と組み合わされるケースも報告されており、振込先口座の変更依頼は、メール以外の手段(電話など)でも必ず本人確認をする社内ルールを設けておくことが有効な備えになります。
🛡️ 今日からできる5つの対策
難しい設定は不要です。まずはここから始めましょう。
まずは「見分け方」を知ろう
対策の第一歩は、怪しいメールに気づけるようになることです。以下の特徴があるメール・SMSは、フィッシングを疑いましょう。
緊急性を煽る文面
「口座が凍結されます」「24時間以内に手続きを」など、読み手を焦らせて冷静な判断をさせない文面は典型的な手口です。
微妙に違うURL
公式ドメインに似せた紛らわしいURLが使われます。リンクをタップする前に、表示されているURLをよく確認しましょう。
不自然な日本語・体裁
機械翻訳のようなぎこちない文章や、ロゴ画像の画質が粗いなど、細部に違和感があるケースが多く見られます。
認証情報の入力を求める
パスワードやワンタイムパスワードをメール経由のフォームに入力させようとする時点で、100%フィッシングと考えて構いません。
次に「行動」に移そう
見分け方を知ったら、次は実際の対策です。以下の5つは、どれも数分あれば設定できます。
📱 公式アプリ・ブックマークからログインする
メールやSMS内のリンクは踏まず、普段からブックマークしている公式サイトや公式アプリからアクセスする習慣をつけましょう。
🔐 二段階認証(2FA)を必ず設定する
パスワードが盗まれても、二段階認証があれば不正ログインを防げる可能性が高まります。証券会社・銀行のほとんどが無料で提供している機能です。
🔔 ログイン通知・取引通知をオンにする
身に覚えのないログインや取引があった際、すぐに気づけるようにしておくことが被害の拡大を防ぐ鍵になります。
🧊 「儲け話」「緊急連絡」は一度立ち止まって疑う
SNSやメッセージアプリ経由の投資の誘い、恋愛感情を利用した送金依頼、警察や公的機関を名乗る緊急連絡は、まず一呼吸置いて内容を疑いましょう。
👨👩👧 家族・周囲と情報共有する
特に高齢の家族がいる家庭では、こうした手口の存在をあらかじめ話しておくことが、いざという時の被害防止につながります。
本記事で紹介した2025年の詐欺件数・被害額の一部(SNS型投資詐欺・SNS型ロマンス詐欺・ニセ警察詐欺・特殊詐欺全体など)は、警察庁公表の暫定値です。今後の確定値公表により数値が変動する可能性があります。
証券会社や銀行が、メールやSMSでID・パスワード・ワンタイムパスワードの入力を求めることはありません。それらしいメールが届いても、記載されたリンクは絶対にクリックせず、必ず公式アプリやブックマークからアクセスしてください。不安な場合は、メール内の連絡先ではなく、公式サイトに掲載された電話番号に自分で連絡して確認しましょう。
次の4つに「はい」と答えられれば、基本的な備えはできています。□ 二段階認証を設定した □ 取引・ログイン通知をオンにした □ 公式アプリ経由でログインする習慣がついた □ 家族と手口について話し合った
❓ よくある質問(FAQ)
読者の方からよく寄せられる疑問にお答えします。
証券口座や銀行を騙るフィッシングメールが届いたら、どうすればいい?
リンクはクリックせず、メールごと削除して構いません。心配な場合は、公式アプリやブックマークからログインし、口座に不審な動きがないか確認しましょう。多くの証券会社・金融機関には、フィッシングメールを転送・報告できる専用窓口が用意されています。
もし誤ってID・パスワードを入力してしまったら?
気づいた時点ですぐに、公式サイト・公式アプリからパスワードを変更してください。二段階認証が未設定であれば、この機会に設定しましょう。少しでも不安があれば、証券会社・銀行のサポート窓口に連絡し、口座の利用制限やログイン履歴の確認を依頼するのが安全です。ためらって時間が経つほど、被害が広がるリスクが高まります。
SNSで知り合った人から投資の話を持ちかけられました。信じてもいい?
「必ず儲かる」「元本保証」といった話を持ちかけてくる時点で、詐欺を疑うべきサインです。金融庁の登録を受けていない業者からの勧誘や、SNS・メッセージアプリだけで完結する取引、実際に会ったことのない相手からの送金依頼には、特に注意してください。
高齢の家族が心配です。何を伝えればいい?
「知らない番号からの電話やメールで、お金や個人情報の話が出たら、まず家族に相談する」というシンプルなルールを共有しておくことが最も効果的です。相手が急がせようとするときほど、いったん電話を切って確認する習慣を持ってもらいましょう。
証券会社や銀行から、本当にメールで連絡が来ることはあるの?
あります。ただし、正規のメールには「本文中のリンクからパスワードを入力させる」ような導線は基本的に含まれません。キャンペーン案内や取引の通知メールが届いた場合でも、内容が気になるときはメール内のリンクを使わず、あらためて公式アプリやブックマークからログインして同じ情報が表示されるか確認する、という一手間を習慣にすると安心です。
被害に遭った・遭いそうになったときの相談窓口
すでに被害に遭った、またはお金をだまし取られそうになった場合は、一人で抱え込まず、以下の窓口に相談してください。警察相談専用電話「#9110」(緊急でない相談)、フィッシング対策協議会(不審なメール・サイトの情報提供)、そして口座をお持ちの証券会社・金融機関のサポート窓口です。すでに送金してしまった場合は、金融機関への連絡が早いほど、口座凍結などの対応につながる可能性が高まります。
📝 まとめと出典
数字が示していたのは、決して他人事ではない現実でした。
📊 起きていること
- フィッシング報告 → 6年で約44倍
- 証券口座フィッシング → 1月から5月で600倍超
- SNS型投資詐欺 → 被害額1,274.7億円(暫定)
🛡️ 今すぐできること
- メール内リンクを踏まず公式アプリ経由でログイン
- 二段階認証・取引通知を設定
- 「儲け話」「緊急連絡」を一度疑う
2025年は、証券口座を狙うフィッシングとSNS型詐欺の被害が、示し合わせたように同時に急拡大した年でした。件数や金額の大きさだけを見ると不安になるかもしれませんが、対策自体は決して難しいものではありません。公式アプリからのログインを徹底し、二段階認証を設定する——このシンプルな習慣が、統計上の「1件」に自分が含まれることを防ぐ最も確実な方法です。
詐欺の手口は、統計に表れた瞬間にはすでに次の”進化形”が生まれていると言われるほど、変化のスピードが速い分野です。だからこそ、特定の手口を丸暗記するよりも、「急かされたら疑う」「リンクではなく公式アプリから確認する」「一人で判断せず相談する」という3つの基本姿勢を身につけておくことが、最も長く効果を発揮する備えになります。この記事が、ご自身やご家族の資産を守るきっかけになれば幸いです。


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