パスワードを変えても
不正送金が止まらないのはなぜか
Cookieを盗まれた後、日本の金融機関はどこまで守ってくれるのか。14社+地銀74行を実際に調べました。
⚡ この記事の結論(先に5行)
- パスワードを変えても、多要素認証やパスキーを設定していても、Cookieを盗まれた攻撃者は追い出せないことがあります。盗まれているのは鍵ではなく「入館証」だからです。
- 入館証を無効にできるかを決める要素は7つあります。そのうち本当に重要な4つは、調べた金融14社すべてが公開していませんでした。
- つまり「対策がしっかりした金融機関」を、利用者が外から見分けることはできません。この記事もその方法は提供できません。
- ただしあなた自身が打てる手はあります。感染したら「パスワード変更」ではなく「全端末からログアウト」が最優先です。
- そして地銀74行を調べたところ、ネットバンキングは実質数系統に集約されていました。開示すべき相手は各銀行ではないのかもしれません。
🎯 なぜこの調査をしたのか ── そして、はっきりとは分からなかった
この記事は、調べきれなかったという報告でもあります
当サイトはこれまで繰り返し、「多要素認証を設定してください」「今ならパスキーが最善です」と書いてきました。この考えは今も変わっていません。パスキーはフィッシング詐欺に非常に強く、現時点で個人が取れる最良の対策のひとつです。まだ設定していない方は、この記事を読む前に設定してください。
ただ、調べていくうちに、どうしても引っかかることがありました。
インフォスティーラーにCookieを盗まれてセッションハイジャックされると、パスキーを設定していても関係なく入られてしまうのではないか。
パスキーは「突破される」のではなく「出番が来ない」
正確に言うと、パスキーの暗号が破られるわけではありません。認証という場面そのものが省略されてしまうのです。
🔓 認証が「素通り」される仕組み
パスキーは「入口の門番」です。門番がどれだけ優秀でも、すでに館内で使われている入館証をコピーされてしまえば、門番の前を通る必要がなくなります。だから「パスキーだから大丈夫」とは言えません。
そこで、Cookieの管理を調べようと思った
では、門を通らずに入ってきた相手を、誰が止めるのか。答えは「Cookieの有効期間を、金融機関がどう管理しているか」です。
盗まれた入館証が30分で失効するのか、丸一日使えるのか。ログアウトを押したら本当に無効になるのか。パスワードを変えたら他の端末も切れるのか。ここが設計されている会社と、されていない会社では、被害の大きさがまるで違います。
そこで当サイトは、「セッションハイジャック対策までやっている金融機関はどこか」を突き止めるつもりで、大手14社と地方銀行・信用金庫74行を調べました。それが本記事の調査です。
🚧 結論:はっきりとは分かりませんでした
調べていくうちに、はっきりした壁にぶつかりました。肝心の項目は、その金融機関に口座を持っていないと測定できません。実際にログインして、ログアウトして、パスワードを変えて、その前後で何が起きるかを確かめる必要があるからです。
そして、その測定できない項目こそが、「セッションハイジャック対策をしっかりやっている会社かどうか」を判定するのに必要な項目でした。絶対タイムアウト、ログアウト時の無効化、パスワード変更時の全セッション失効。この3つです。
公開情報でも確認できませんでした。調べた14社すべてが、この3項目を公開していませんでした。
つまり、当初の目的だった「対策がしっかりした金融機関はどこか」に、この記事は答えられません。
それでも、分かったことがあります
この調査は空振りではありませんでした。むしろ「利用者には確かめる手段がない」という事実そのものが、いちばん重要な発見でした。
金融機関を比べて安全なほうを選ぶ、という行動は、そもそも成立しません。判断材料が公開されていないからです。だからこの記事は、比較して選ぶ方法ではなく、どの金融機関を使っていても効く自衛策をお伝えします。それが第6章です。
そして副産物として、ログイン画面の作りには会社ごとに大きな差があること(第4章)、地方銀行のネットバンキングは実質数系統に集約されていること(第5章)が分かりました。どちらも、この問題を誰に問うべきかを考える手がかりになります。
📋 目次
🚪 パスワードを変えたのに、まだ入られている
この現象には、はっきりした理由があります。
「不正ログインされたのでパスワードを変えました」で、なぜ足りないのか
ニュースで見る不正送金の被害で、ときどきこんな話が出てきます。「気づいてすぐパスワードを変えたのに、その後も操作されていた」。これは被害者の対応が遅かったからではありません。そもそもパスワード変更が効かない仕組みの攻撃だからです。
盗まれているのは「鍵」ではなく「入館証」
ネットバンキングにログインすると、銀行はあなたのブラウザに小さなデータを渡します。これがCookie(クッキー)です。正確には「セッションCookie」と呼ばれるもので、中身はランダムな文字列です。
これが何をしているかというと、「この人はさっきログインを済ませた本人です」という証明書の役割です。ページを開くたびにパスワードを聞かれないのは、このCookieをブラウザが毎回自動で提出しているからです。
🔑 パスワードとCookieは、まったく別のもの
ここが肝心なところです。パスワードを変える行為は「玄関の鍵を交換する」ことに相当します。これから入ってくる人は止められます。でもすでに館内にいる人には何の影響もありません。
攻撃者を追い出すには、銀行側が「発行済みの入館証を無効にする」処理をしてくれる必要があります。そして、その処理をしてくれるかどうかが、この記事の本題です。
どうやってCookieが盗まれるのか
この手口で使われるのがインフォスティーラー(Infostealer/情報窃取型マルウェア)と呼ばれる種類のウイルスです。日本語では「情報を盗むウイルス」くらいの意味で、近年国内外のセキュリティ機関から繰り返し注意喚起が出ています。
🎣 パソコンが感染する
「便利なフリーソフト」「動画のダウンロードツール」「割れたゲーム」「偽のブラウザ更新」などを入り口に入ってきます。広告経由や、YouTubeの説明欄に貼られたリンク経由も多く報告されています。
🍪 ブラウザの中身をまとめて持ち出す
保存されたパスワード、入力履歴、そしてログイン済みのCookieを一括で抜き取ります。処理は数秒で終わります。画面には何も出ません。
📦 盗まれたデータが売買される
「ログ」と呼ばれる単位でまとめられ、闇市場で取引されます。買った人が、あなたのCookieを自分のブラウザに読み込ませます。
🏦 ログイン画面を通らずに入られる
IDもパスワードも入力しません。ワンタイムパスワードも聞かれません。すでに「ログイン済み」の状態を丸ごとコピーしているからです。
ここが一番の誤解ポイントです。二段階認証やワンタイムパスワードを設定していても、この攻撃は止められません。認証は「ログインするとき」に効くもので、攻撃者はログイン処理そのものを飛ばしているからです。パスキーを設定していても同じです。
「じゃあ二段階認証は無意味なのか」というと、そうではありません。パスワードだけを盗まれたケース、フィッシングでIDとパスワードを入力してしまったケースには、しっかり効きます。効く攻撃と効かない攻撃があるだけです。設定はしてください。
🧩 生き残りを決める7つの要素
Cookieを盗まれた後、被害が広がるか止まるかを決めるもの。
入館証を盗まれた後の話です。銀行側の設計次第で、被害が数分で止まることもあれば、何日も続くこともあります。専門家が見るポイントは7つあります。順に、できるだけ噛み砕いて説明します。
放置すると切れる
Idle Timeout(無操作タイムアウト)
操作しないまま一定時間が過ぎるとログアウトされる仕組み。ほとんどの金融機関が採用しています。ただし「攻撃者が操作し続けている」場合、この時計はリセットされ続けるので、攻撃者は切れません。
操作していても切れる
Absolute Timeout(絶対タイムアウト)
ログインしてから何時間経ったら、操作中でも強制的に終了させる仕組み。①をすり抜ける攻撃者を止められる、数少ない手段です。「8時間経ったら誰であろうと再ログイン」という設計です。
入館証を途中で交換する
Session Rotation(セッションの振り直し)
一定時間ごと、あるいは振込画面に進んだタイミングなどで、Cookieの中身を新しいものに交換し、古いものを無効にする仕組み。盗まれた入館証の有効期間が短くなります。
大事な操作で聞き直す
重要操作での再認証
振込・出金・パスワード変更のときに、ワンタイムパスワードや生体認証を改めて要求する仕組み。入館証だけでは金庫を開けさせない、という考え方です。これは日本の金融機関がとても得意な分野です。
ログアウトが本物か
サーバ側でのセッション無効化
「ログアウト」を押したとき、あなたのブラウザから消すだけなのか、銀行のサーバ側でも「この入館証は無効」と登録するのか。後者でなければ、盗まれた入館証はログアウト後も使えてしまいます。
パスワード変更で全部切れる
全セッションの一括失効
パスワードを変えたとき、他の端末でログイン中の状態もまとめて切るかどうか。切ってくれるなら、パスワード変更が攻撃者の追放になります。切らないなら、冒頭の「変えたのにまだ入られている」が起きます。
Cookieの守り方
Secure / HttpOnly / SameSite
Cookieに付ける3つの「札」。暗号化された通信でしか送らない/ページ内のプログラムから読ませない/他サイトから送らせないという指定です。盗まれにくさが変わります。
インフォスティーラー対策として本当に効くのは ②⑤⑥
①は攻撃者が操作を続ければ回避されます。④は最後の砦として重要ですが、残高や取引履歴を見られること自体は防げません。「盗まれた入館証を無効にする」という意味で効くのは、②Absolute Timeout・⑤ログアウト時の無効化・⑥全セッション失効の3つです。
📉 14社を調べた結果①:4項目が全社ゼロ
メガバンク・ネット銀行・証券会社の公開情報を、同じ手順で全社調べました。
調べたのは、三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行・りそな銀行・楽天銀行・ドコモSMTBネット銀行(旧 住信SBIネット銀行)・PayPay銀行・ソニー銀行・auじぶん銀行・SBI証券・楽天証券・マネックス証券・松井証券・野村證券の14社です。
各社の公式サイト、よくあるご質問、利用規定、操作マニュアルを全社まったく同じ手順で調べ、7つの要素それぞれについて「具体的な数値まで書いてある/存在だけ書いてある/見つからない」を記録しました。
📊 7つの要素は、どれだけ公開されているか(14社中)
| 要素 | 公開している社数 | 状況 |
|---|---|---|
| ① 放置で切れる | ただし分単位まで書いているのは3社だけ | |
| ② 操作中でも切れる | 1社も見つからず | |
| ③ 入館証の交換 | 1社も見つからず | |
| ④ 重要操作の再認証 | 全社が公開。日本の金融機関の強み | |
| ⑤ ログアウトの無効化 | それも「言及がある」程度 | |
| ⑥ 全セッション失効 | 1社も見つからず | |
| ⑦ Cookieの守り方 | 1社も見つからず |
※ 2026年9月9日時点。公開Web上を規定の手順で探索した結果です。
「0社」は「やっていない」ではありません。「公開情報から確認できなかった」という意味です。各社とも社内では設定しているはずです。ただし利用者には、それを確かめる方法がありません。この記事が問題にしているのは、実装の有無ではなく、確かめられないことのほうです。
「開示の量」を点数にすると、最高でも14点中5点
7つの要素それぞれを「数値まで明記=2点/存在だけ言及=1点/見つからない=0点」で採点しました。これは安全性の点数ではなく、「どれだけ説明しているか」の点数です。
🏅 情報公開スコア(満点14点)
| サービス | 開示スコア | 特徴 |
|---|---|---|
| 松井証券 | サービス別に分単位で明記。停止機能の注意書きまで公開 | |
| PayPay銀行 | 「10分で自動ログアウト」と明記 | |
| マネックス証券 | 「30分」を明記。FXは60分 | |
| 三菱UFJ銀行 | 数値はないが説明が具体的 | |
| auじぶん銀行/ドコモSMTBネット銀行/楽天銀行/楽天証券/三井住友銀行/ソニー銀行 | 「一定時間」止まり | |
| みずほ銀行/野村證券/りそな銀行 | 言及が最小限 | |
| SBI証券 | 該当ページに到達できず |
※ 開示の量の点数であり、安全性の順位ではありません。
分単位まで公開しているのは3社だけ
PayPay銀行が「操作をしないまま10分以上経過し、自動的にログアウト」、マネックス証券が「操作をしてから30分間はログインした状態」、松井証券が「一定時間(約30分)経過すると自動的にログアウト」と明記しています。残る8社は「一定時間」表現です。
調べていて気になったこと
2社で、かつて公開されていた情報に、いま到達できない状態を見つけました。
りそな銀行には「(セキュリティ)操作を行っていない場合、自動的にログアウトされる時間を教えてください。」というよくあるご質問のページが存在します。しかし開くと別のページへ自動転送され、転送先には時間の記述がありません。検索エンジンには元のタイトルだけが残っています。
SBI証券では「スマートフォンサイトは何分で自動的にログアウトされますか?(60分で自動ログアウト)」というページが検索エンジンに登録されているのに、そのURLを開くと「お探しのページは見つかりません」と表示され、トップページへ戻されます。
これは両社を非難する話ではありません。サイトのリニューアルやFAQ統合のときに起きやすい、ごくありふれた事故に見えます。ただ、利用者からすると「昔は答えがあったのに、今は探せない」状態です。両社には確認を依頼する予定です。復旧したら本記事も更新します。
🧪 14社を調べた結果②:ログイン画面の外部プログラム
ログインする前の画面で、どれだけ他社のプログラムが動いているか。
ログイン画面に「他社の社員」が何人立っているか
ウェブページは、そのサイトが書いたプログラムだけで動いているとは限りません。アクセス解析、広告効果の測定、チャットサポート、A/Bテストなどのために、外部の会社のプログラムを読み込んで、自分のページの中で動かしています。これ自体はごく普通のことです。
ただしログイン画面では意味が変わります。ブラウザは「これは銀行が書いたプログラム」「これは広告会社のプログラム」を区別しません。同じページに載った時点で、全部が同じ権限を持ちます。
そのうえ、これらのプログラムは銀行のサーバに保存されているわけではありません。利用者がログイン画面を開くたびに、外部の会社のサーバへ取りに行って、返ってきたものをその場で実行しています。中身を毎回検査してはいません。
🔧 なぜ「本数」が問題になるのか
実際に14社のログイン画面を1回ずつ開いて、外部から読み込まれたプログラムの配信元の会社の数を数えました。結果には大きな差がありました。
📊 ログイン画面で動く外部プログラムの配信元数(少ないほうが良い)
| サービス | 外部プログラムの配信元 |
|---|---|
| 松井証券 | |
| auじぶん銀行 | |
| SBI証券 | |
| ソニー銀行 | |
| 楽天証券 | |
| りそな銀行 | |
| マネックス証券 | |
| ドコモSMTBネット銀行 | |
| 三井住友銀行 | |
| PayPay銀行 | |
| 三菱UFJ銀行 | |
| 野村證券 | |
| 楽天銀行 | |
| みずほ銀行 |
※ 2026年9月9日・未ログイン状態・Cookie同意バナー未操作での1回の観測です。日や条件で本数は変動します。
これは攻撃の入口がいくつあるかを数えた数字であって、事故が起きた記録ではありません。今回の調査では、実際に被害が起きたことを示す事実は一切確認していません。
さらに、この数には不正検知など「守るために入っている」プログラムも含まれています。実際、三井住友銀行・りそな銀行・auじぶん銀行・SBI証券・楽天証券には不正検知系のプログラムが入っていました。単純なランキングとして扱えない理由です。
合わせて確認した「ブレーキ」
外部プログラムが暴走したとき、ブラウザ側で止める仕組みがあります。CSP(コンテンツセキュリティポリシー)といって、「このページでは、この会社のプログラム以外は実行しない」とあらかじめ宣言しておくものです。
調べたところ、これを効かせていたのは三菱UFJ銀行とりそな銀行の2社だけでした。
2つの表は、並べて読むと意味が変わります
外部プログラムが10本以上あり、かつブレーキもない、という組み合わせが7社ありました。松井証券・auじぶん銀行・SBI証券・ソニー銀行・楽天証券・マネックス証券・ドコモSMTBネット銀行です。
逆に三菱UFJ銀行は、外部プログラムが3本と少なく、ブレーキも効かせていました。りそな銀行は外部プログラムが18本と多いものの、ブレーキは効かせています。
🏗️ 地銀74行:実は数系統しかなかった
「銀行ごとに違うシステム」だと思っていたら、そうではありませんでした。
ここからは地方銀行・信用金庫の話です。全国の地方銀行・第二地方銀行・信用金庫から74行を選び、ネットバンキングの入口を調べました。その結果、65行について使っているシステムを特定でき、そのうち62行が、ごく少数の共通システムを使っていました。
証拠は、ログイン画面のURLそのものです。たとえばこうなっています。
parasol.anser.ne.jp/ib/index.do?PT=BS&CCT0080=0119 → 秋田銀行
parasol.anser.ne.jp/ib/index.do?PT=BS&CCT0080=0129 → 足利銀行
parasol.anser.ne.jp/ib/index.do?PT=BS&CCT0080=0138 → 横浜銀行
parasol.anser.ne.jp/ib/index.do?PT=BS&CCT0080=0158 → 京都銀行
parasol.anser.ne.jp/ib/index.do?PT=BS&CCT0080=1688 → 尼崎信用金庫
各行のログインアドレスは、この末尾4桁だけが違います。ホスト名もその手前のパスも、全行まったく同じです。そしてこの4桁の多くは、実在の金融機関コードと一致していました。01番台が地方銀行、05番台が第二地方銀行、1番台が信用金庫という体系まで揃っています。業態を越えて、同じ土台に乗っているということです。
※ すべてが金融機関コードというわけではなく、9000番台の別の番号が割り当てられている行も3行ありました(紀陽銀行・但馬銀行・静岡銀行)。また、この調査では各行の公式サイトからリンクされているアドレスを確認しただけで、番号を書き換えて他行の画面を開く行為は行っていません。
🗺️ 74行の内訳(65行の系統を特定)
| 共通システム | 行数 | 主な利用行の例 |
|---|---|---|
| NTTデータ ANSER系 | 横浜・七十七・京都・北陸・広島・福岡・足利ほか | |
| Finemax | 千葉・東邦・滋賀・伊予・中国・京葉ほか | |
| Chance地銀共同化システム | 常陽・山口・十六・南都・百十四 | |
| 「○○Gate」型 | スルガ・北洋・百五・鹿児島・高知 | |
| 「BankIK」型 | 八十二・武蔵野・琉球・阿波 | |
| その他の共通系統 | しんきん共同センター系・CrossMeetzほか | |
| 独自または判定保留 | 大垣共立・北國・島根(共通系統に一致せず) | |
| 特定できず | 入口に到達できなかった行 | |
| 合計 | 74行 | うち共通システム利用が62行、独自・保留3行、未特定9行 |
※ 系統名は観測されたアドレスに由来する呼称です。「特定できず」は独自開発を意味しません。
「うちのドメインだから独自開発」ではない
興味深いのは、自社のアドレスを使っていても、中身は共通システムだった行が12行あったことです。
東邦銀行 bb3.ib.finemax.net/0126/B/B/B/C100/KBC11BN000B000.do
伊予銀行 bb3.ib.finemax.net/0174/B/B/B/C100/KBC11BN000B000.do
千葉銀行のアドレスは自社ドメインですが、その後ろの構造は東邦銀行・伊予銀行と1文字も違いません。足利銀行にいたっては、ログインボタンの中身がページのプログラムに埋め込まれており、そこに共通システムのアドレスが書かれていました。
これが意味すること
セッション管理を実装しているのは、各銀行ではなく共通システムの提供元です。つまり地方銀行に「Absolute Timeoutは何時間ですか」と聞いても、答えられない可能性があります。
裏を返せば、1つの共通システムに問題が見つかれば数十行に同時に波及し、1つ改善すれば数十行が一斉に良くなります。
🛡️ では、あなたは何をすればいいのか
銀行を選び直すことはできません。でも、できることはあります。
この記事は「対策がしっかりした金融機関の見分け方」を提供できません。肝心の3項目(②⑤⑥)はどこも公開しておらず、外から測る方法もないからです。「この銀行なら安心」と書ける材料が存在しません。
そこで発想を変えます。どの金融機関を使っていても効く、あなた自身の手を紹介します。
❶ 感染に気づいたとき、最優先は「パスワード変更」ではない
ここが一番実用的な話です。ウイルス感染が疑われるとき、多くの人はまずパスワードを変えます。順番が違います。
🔌 まず、その端末をネットから切り離す
Wi-Fiを切る、LANケーブルを抜く。盗み出しが進行中なら、まず止めます。
📱 別の安全な端末から「全端末からログアウト」を実行する
これが最優先です。盗まれた入館証を無効にする、利用者に唯一できる操作だからです。「ログイン履歴」「利用端末管理」「セキュリティ設定」あたりのメニューにあります。
見当たらなければ、次の❷へ。
🔑 そのあとでパスワードを変更する
順番が逆だと、パスワードを変えた直後にまた入られる可能性があります。変更は「全ログアウトの後」です。
📞 金融機関に電話する
「ウイルス感染でセッションCookieを盗まれた可能性がある」と伝えます。この言い方をすると、担当者に状況が正確に伝わります。取引の一時停止もお願いできます。
❷ 「全端末からログアウト」ボタンがあるか、今のうちに確認しておく
これがこの記事で唯一おすすめできる「金融機関の見比べ方」です。実装の中身は分かりませんが、ボタンがあるかどうかは、あなたがログインすれば自分の目で確認できます。
✅ 探す場所
- セキュリティ設定
- ログイン履歴
- 利用端末の管理
- ご登録内容の変更
🔍 探す言葉
- 「全端末からログアウト」
- 「すべての端末で解除」
- 「他の端末を強制ログアウト」
- 「デバイスの管理」
📋 ついでに見るもの
- 前回ログイン日時
- ログイン履歴の一覧
- ログイン通知メールの設定
❓ 無かったら
- 問い合わせ窓口で聞く
- 「異常時にセッションを一括で切る方法は?」
- 回答がなければ記録しておく
問い合わせること自体に意味があります
利用者が誰も聞かない機能は、優先度が上がりません。「盗まれたときに全部切る方法はありますか」と聞く人が増えれば、金融機関側の開示と実装が動きます。今回の調査で分かった一番の問題は、この情報が「聞かれていない」ことかもしれません。
❸ そもそも感染しないための、地味だが効く3つ
フリーソフトの入手先を絞る
感染経路としてよく報告されているのが「便利なフリーソフト」「動画ダウンロードツール」「解除版ソフト」です。検索結果の広告枠や、動画の説明欄のリンクからの誘導も報告されています。公式サイトか、正規のストアからだけ入れる。この習慣だけでも、遭遇する機会をかなり減らせます。
ネットバンキング専用の環境を作る
普段使いのブラウザとは別のブラウザ(別プロファイル)を用意し、そこでしか金融機関にログインしない。Cookieはブラウザごとに分かれているので、普段使いの方が感染しても、金融機関のCookieは持っていかれにくくなります。
用が済んだら必ずログアウト
×ボタンで閉じるのではなく、ログアウトボタンを押してから閉じる。サーバ側で無効化してくれる金融機関なら、これが盗まれたCookieを無効にします。してくれない場合でも、損はありません。
「感染したら、パスワード変更より先に、全端末からログアウト」。この順番だけ覚えておけば、被害を止められる可能性が上がります。
📐 この調査の限界と、次に必要なこと
何が言えて、何が言えないかを正直に書きます。
言えること
公開情報で確認できる範囲と、その差
言えないこと
実装の有無・安全性の順位
時点情報
2026年9月9日の1回の観測
対象範囲
パソコンのWeb版のみ
すべてログインする前の観測です。アカウントを作らず、ログインも試みず、通常のブラウジングの範囲だけで調べました。したがって、ログイン後のCookieがどう管理されているかは一切分かりません。
外部プログラムの本数は1回の観測値です。Cookie同意バナーは押していないので、同意するとさらに増える会社があります。日や条件でも変わります。
スマートフォンアプリは対象外です。アプリは仕組みが違い、Web版よりログイン状態が長く保たれる傾向があります。本来はそちらのほうが重要ですが、通信の中身を見るには踏み込んだ操作が必要なため、今回は範囲外としました。
「開示していない=実装していない」ではありません。この記事で何度も書いてきたことですが、最後にもう一度書いておきます。今回明らかになったのは実装の欠如ではなく、利用者が確かめる手段の欠如です。
本当に必要なのは、業界としての開示ルールかもしれません
栄養成分表示のように、「無操作タイムアウト◯分/絶対タイムアウト◯時間/パスワード変更時に全セッション失効:あり」といった表示が定型化されていれば、利用者は比べられます。今は各社バラバラで、そもそも大半が書いていません。
そして地銀74行の調査が示すとおり、その表示を作るべき主体は個々の銀行ではなく、共通システムの提供元かもしれません。
📝 まとめ
持ち帰ってほしいことを、5つに絞りました。
盗まれているのは鍵ではなく入館証
だからパスワードを変えても、二段階認証を設定していても、すでに入っている攻撃者は止まりません。
追い出せるかを決める要素は、利用者から見えない
7項目のうち本当に重要な4項目を、調べた14社すべてが公開していませんでした。
だから「安全な銀行選び」はできない
この記事も、その方法は提供できません。できるふりをする記事があったら疑ってください。
代わりに、あなたが打てる手がある
「全端末からログアウト」ボタンの場所を今のうちに確認しておく。感染時はパスワード変更より先にそれを押す。
問い合わせることが、状況を動かす
利用者が聞かない機能は改善されません。窓口で聞いてみてください。
お使いのネットバンキングにログインして、「全端末からログアウト」に相当する機能があるか探してみてください。あった場合は、その場所を覚えておく。無かった場合は、それも重要な情報です。
実際に探してみた結果を教えていただけると、この記事の続報に反映できます。

パスキー対策は、いまや「あって当然」のセキュリティ対策になりつつあります。
そこで今回は、顧客の財産を守るもう一つの壁として、Cookie管理、つまりセッションハイジャック対策を各社がどこまで行っているのかを調査しました。
ただし、実際に調べてみると大きな壁がありました。各社のアカウントを持っていなければ、ログイン後の挙動やセッションの失効条件など、肝心な部分まで確認できないケースが多かったのです。
そして調査を進めるなかで、もう一つ強く感じたことがあります。
各社には、顧客がアカウントを作る前の段階から、
「当社では、セッションハイジャック対策としてこれだけのことを実施しています」
と、もっと積極的に公開してほしいのです。
これは、調査の限界に対する負け惜しみではございません。
「情報公開スコア14点満点」の章を読んでいただければ分かると思いますが、実際に調査してみると、Cookie管理やセッション保護について具体的に公開している企業は、決して多くありませんでした。
パスキーや多要素認証だけでなく、ログインした後のセッションをどう守っているのか。
そこまで含めて公開することが、これからの金融サービスに求められる「安心の見える化」ではないかと感じています。


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