同じ「特殊詐欺」の中に
正反対の犯罪が2つ入っている
預貯金詐欺の被害者は97.0%が65歳以上、うち82.4%が女性。
SNS型ロマンス詐欺は18.0%だけが65歳以上で、70.3%が男性でした。
⚡ 先に結論(5行)
- 「特殊詐欺」は13の手口の総称です。被害者に占める65歳以上の割合を手口別に見ると、キャッシュカード詐欺盗99.4%から融資保証金詐欺5.3%まで、まったく別の分布をしています。
- 高齢者を狙う手口ほど、被害者に女性が多くなります。預貯金詐欺は65歳以上のうち82.4%が女性。件数200件以上の9手口で、高齢者率と女性比率の相関はr=+0.956でした。
- ところが金額は逆です。SNS型投資詐欺の1件あたり被害額は1,343万円。いっぽう預貯金詐欺は97万円、キャッシュカード詐欺盗は109万円。高齢者率と1件あたり金額の相関はr=−0.689です。
- SNS型の2手口だけで、件数の42.4%、被害額の63.1%を占めます。1件平均1,258万円。対して古典的な3手口(オレオレ・預貯金・キャッシュカード詐欺盗)は件数12.4%、金額3.9%、1件平均265万円でした。
- あなたが読み取るべきこと:「特殊詐欺に気をつけて」という一言では、もう届きません。高齢の親に伝えるべき話と、現役世代の自分が気をつけるべき話は、別の犯罪の話です。
📌 一言でいうと ── 高齢女性から小さく取る犯罪と、現役男性から大きく取る犯罪が、同じ名前で呼ばれています。
📋 目次
📖 このデータは何か
あまり見られていない表があります。
手口ごとに、被害者の年齢と性別を数えている
警察庁が公表している特殊詐欺の統計には、「認知件数」「被害総額」といった見出しの数字のほかに、被害者の年齢・性別構成という表が付いています。13の手口それぞれについて、11の年齢層 × 男女で集計された表です。
ニュースで報じられるのはたいてい合計値です。手口ごとに割ってみると、まったく違う景色が出てきます。
📊 令和8年1〜3月の特殊詐欺(13手口・11,093件)
| 手口 | 認知件数 | 被害総額 |
|---|---|---|
| SNS型投資詐欺 | 3,397 | 456.1億円 |
| ニセ警察詐欺 | 2,204 | 222.4億円 |
| 架空料金請求詐欺 | 1,556 | 43.4億円 |
| SNS型ロマンス詐欺 | 1,308 | 135.9億円 |
| オレオレ詐欺 | 788 | 30.4億円 |
| 還付金詐欺 | 639 | 13.6億円 |
| キャッシュカード詐欺盗 | 356 | 3.9億円 |
| その他の特殊詐欺 | 271 | 13.3億円 |
| 預貯金詐欺 | 234 | 2.3億円 |
| 交際あっせん詐欺 | 160 | 6.0億円 |
| 金融商品詐欺 | 91 | 9.6億円 |
| 融資保証金詐欺 | 77 | 0.6億円 |
| ギャンブル詐欺 | 12 | 0.5億円 |
| 合計 | 11,093 | 937.9億円 |
※ 令和8年の数値は暫定値です。還付金詐欺のみ「被害総額(既遂のみ)」として集計されています。
わずか3か月で11,093件、937.9億円。ここから、被害者の顔ぶれを見ていきます。
👵 高齢者率が99.4%から5.3%まで割れる
まず、年齢から。
📊 被害者に占める65歳以上の割合(手口別)
上の3つは、ほぼ全員が高齢者です。キャッシュカード詐欺盗99.4%、預貯金詐欺97.0%、オレオレ詐欺93.1%。10人中9人以上という水準です。
いっぽう下のほうを見ると、SNS型ロマンス詐欺は18.0%、SNS型投資詐欺は26.7%。高齢者は少数派で、被害者の7割以上が65歳未満です。
グレーで示した4手口(金融商品91件、交際あっせん160件、融資保証金77件、ギャンブル12件)は認知件数が少なく、割合が大きく振れます。ギャンブル詐欺の50.0%は12件のうち6件という意味です。以降の分析では、原則として認知件数200件以上の9手口を使います。
👩 高齢者を狙う手口ほど、被害者は女性
もうひとつの軸が、きれいに重なります。
この統計は、65歳以上の被害者のうち男女がどれくらいかも出しています。
📊 65歳以上の割合と、そのうちの女性比率(認知件数200件以上の9手口)
| 手口 | 件数 | 65歳以上 | うち女性 | うち男性 |
|---|---|---|---|---|
| キャッシュカード詐欺盗 | 356 | 99.4% | 80.2% | 19.8% |
| 預貯金詐欺 | 234 | 97.0% | 82.4% | 17.6% |
| オレオレ詐欺 | 788 | 93.1% | 76.2% | 23.8% |
| 還付金詐欺 | 639 | 71.4% | 53.7% | 46.3% |
| ニセ警察詐欺 | 2,204 | 39.7% | 58.4% | 41.6% |
| 架空料金請求詐欺 | 1,556 | 30.9% | 33.0% | 67.0% |
| SNS型投資詐欺 | 3,397 | 26.7% | 33.0% | 67.0% |
| SNS型ロマンス詐欺 | 1,308 | 18.0% | 29.7% | 70.3% |
| その他の特殊詐欺 | 271 | 16.9% | 28.6% | 71.4% |
※「うち女性/うち男性」は、65歳以上の被害者に占める構成比です。
2つの軸が、きれいに連動しています。高齢者率が高い手口ほど女性が多く、低い手口ほど男性が多い。この9手口での相関はr=+0.956です。
預貯金詐欺
65歳以上 97.0%
うち女性 82.4%
キャッシュカード詐欺盗
65歳以上 99.4%
うち女性 80.2%
SNS型投資詐欺
65歳以上 26.7%
うち男性 67.0%
SNS型ロマンス詐欺
65歳以上 18.0%
うち男性 70.3%
年齢層まで細かく開くと、対比はもっと鮮明になります。2つの手口を並べてみます。
📊 被害者の年齢層と性別(構成比・%)
| 年齢層 | 預貯金詐欺(234件) | SNS型ロマンス詐欺(1,308件) | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 男 | 女 | 計 | 男 | 女 | 計 | |
| 20〜39歳 | 0.4 | 0.4 | 0.9 | 10.9 | 5.0 | 15.9 |
| 40〜49歳 | 0.4 | 0.0 | 0.4 | 12.2 | 10.5 | 22.6 |
| 50〜59歳 | 0.4 | 0.4 | 0.9 | 20.2 | 11.0 | 31.2 |
| 60〜69歳 | 0.0 | 1.3 | 1.3 | 15.6 | 6.5 | 22.1 |
| 70〜79歳 | 5.1 | 12.8 | 17.9 | 5.0 | 2.1 | 7.2 |
| 80〜89歳 | 8.1 | 59.4 | 67.5 | 0.7 | 0.2 | 0.8 |
| 90〜99歳 | 3.8 | 7.3 | 11.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
預貯金詐欺の被害者は、80代の女性だけで59.4%を占めます。70代以上をまとめると96.5%。ほぼ「80代の女性を狙う犯罪」と言っていい形です。
いっぽうSNS型ロマンス詐欺は、50代が31.2%、40代が22.6%。40〜50代だけで53.8%です。最も多いのは50代の男性(20.2%)。80代女性59.4%と50代男性20.2%——同じ「特殊詐欺」の中で、これだけ違います。
手口の性質を考えると、納得できる部分もあります。オレオレ詐欺や預貯金詐欺は、自宅の固定電話にかけて、家にいる人を狙います。いっぽうSNS型は、SNSを使っている人にしか届きません。接触の手段が、そのまま被害者層を決めています。
💰 ところが、金額は逆だった
ここが、この記事でいちばん意外な部分です。
被害総額を認知件数で割って、1件あたりの被害額を出します。
📊 65歳以上の割合と、1件あたり被害額(200件以上の9手口)
📊 1件あたり被害額(多い順・9手口)
| 手口 | 1件あたり | 65歳以上 |
|---|---|---|
| SNS型投資詐欺 | 1,343万円 | 26.7% |
| SNS型ロマンス詐欺 | 1,039万円 | 18.0% |
| ニセ警察詐欺 | 1,009万円 | 39.7% |
| その他の特殊詐欺 | 492万円 | 16.9% |
| オレオレ詐欺 | 386万円 | 93.1% |
| 架空料金請求詐欺 | 279万円 | 30.9% |
| 還付金詐欺 | 212万円 | 71.4% |
| キャッシュカード詐欺盗 | 109万円 | 99.4% |
| 預貯金詐欺 | 97万円 | 97.0% |
SNS型投資詐欺の1件あたり1,343万円に対し、預貯金詐欺は97万円。約14倍の開きです。そして高齢者率は逆に、26.7%と97.0%。「高齢者ほど大きな被害に遭っている」というイメージとは、逆の結果になりました。手口の性質を考えれば理由は想像できます。キャッシュカードを受け取ってATMから引き出す方式には、1日の引き出し限度額という上限があります。いっぽう投資名目の振込には、その種の天井がありません。
📊 SNS型2手口が、金額の6割
件数と金額を分けて見ると、はっきりします。
📊 2つのグループの比較
| SNS型2手口 (投資・ロマンス) | 古典3手口 (オレオレ・預貯金・CC詐欺盗) | |
|---|---|---|
| 認知件数 | 4,705件 | 1,378件 |
| 件数シェア | 42.4% | 12.4% |
| 被害総額 | 592.0億円 | 36.6億円 |
| 金額シェア | 63.1% | 3.9% |
| 1件あたり | 1,258万円 | 265万円 |
| 65歳以上 | 18.0〜26.7% | 93.1〜99.4% |
| 65歳以上のうち男性 | 67.0〜70.3% | 17.6〜23.8% |
SNS型の2手口だけで、被害額の63.1%を占めます。件数では42.4%ですから、1件あたりが大きいぶん、金額シェアがさらに膨らんでいます。
いっぽう古典的な3手口は、件数12.4%に対し金額はわずか3.9%。報道でよく取り上げられ、注意喚起の中心にもなってきた手口ですが、金額で見ると全体の25分の1です。
どちらを軽く見るという話ではない
誤解のないように書いておくと、金額が小さいから軽い被害だ、という話ではありません。預貯金詐欺の97万円は、年金で暮らす世帯にとって決定的な金額になりえます。失う痛みは、金額の絶対値では測れません。
ここで言いたいのは対策の設計の話です。金額を減らしたいならSNS型、被害者の数を減らしたいなら手口ごとに別の打ち手が要る——目的によって、狙うべき場所が変わります。
🏷️ 2つの犯罪を、1つの言葉で呼んでいる
ここまでを整理します。
👵 古典型(オレオレ・預貯金・CC詐欺盗)
- 被害者の93.1〜99.4%が65歳以上
- そのうち76.2〜82.4%が女性
- 1件あたり97〜386万円
- 接触は電話・訪問
- 件数12.4% / 金額3.9%
📱 SNS型(投資・ロマンス)
- 65歳以上は18.0〜26.7%だけ
- 高齢被害者の67.0〜70.3%が男性
- 1件あたり1,039〜1,343万円
- 接触はSNS・マッチングアプリ
- 件数42.4% / 金額63.1%
被害者の年齢が違い、性別が違い、金額の桁が違い、接触の手段も違う。共通しているのは「対面せずにだまして金を出させる」という定義だけです。
だから「特殊詐欺に気をつけて」は届かない
この言葉を聞いたとき、多くの人はオレオレ詐欺の映像を思い浮かべます。高齢の女性が電話を受け、現金を渡す——あの絵です。その絵を持っている40代の男性は、自分が対象だと思いません。
ですが実際には、SNS型投資詐欺の被害者の73.3%は65歳未満で、1件あたり1,343万円を失っています。注意喚起が届いていない層に、いちばん大きな金額が集まっているという形になっています。
🧰 何ができるか
数字からそのまま出てくることを。
👵 高齢の家族には「電話とカード」の話をする
オレオレ・預貯金・キャッシュカード詐欺盗は、93.1〜99.4%が65歳以上、うち約8割が女性です。この3つは電話がきっかけで、最後にカードか現金を手渡すという共通点があります。「カードを取りに来る人は全員詐欺」——伝えるならこの一点で足ります。
📱 現役世代は「自分が本命」だと知る
SNS型投資詐欺は被害者の73.3%が65歳未満、1件あたり1,343万円。金額の6割超はこちらに集まっています。「詐欺は高齢者の問題」という前提のままでいると、いちばん大きい的が無防備になります。
💸 「儲け話」と「恋愛」は、同じ引き出しに入れる
SNS型投資とSNS型ロマンスは、被害者像も金額もよく似ています(1,343万円と1,039万円、男性67.0%と70.3%)。入口が違うだけで、行き着く先は同じ「送金してください」です。片方だけ警戒しても意味がありません。
📊 ニュースの「特殊詐欺◯億円」を分けて読む
合計値だけでは、何が起きているか分かりません。手口別に見ると、被害者も金額も別の犯罪です。統計は手口ごとに公表されているので、気になる手口だけを追うことができます。
高齢の親に伝えるべきことと、自分が気をつけるべきことは、別の話です。親には「電話とカード」、自分には「SNSで始まる儲け話と恋愛」。同じ「特殊詐欺」という言葉でひとまとめにすると、どちらにも刺さらない注意喚起になります。
📝 注意点とまとめ
この数字の限界を、正面から書いておきます。
3か月分・暫定値
年齢・性別の表は令和8年1〜3月の集計で、令和8年の数値は暫定値と原典に明記されています。 年間の傾向とは限りません。3か月分を4倍して年換算するようなことも、本記事ではしていません。
件数が少ない手口は使っていない
ギャンブル詐欺12件、融資保証金77件、金融商品91件、交際あっせん160件は 割合が大きく振れるため、相関の計算からは除外しています。 本文の相関値は200件以上の9手口によるものです。
1件あたり金額は筆者の計算
被害総額÷認知件数で算出したもので、公表値ではありません。 また還付金詐欺だけ「被害総額(既遂のみ)」という別の定義で集計されており、 他の手口と厳密には揃っていません。
警察が把握した被害だけ
認知件数は警察に届いた被害です。届け出ていない被害は入りません。 恥ずかしくて言えないという心理が働きやすい手口ほど、 実態より小さく出ている可能性があります。
相関は因果ではない
r=+0.956やr=−0.689は9つの手口の間の関係であり、 個人について何かを言うものではありません。 また手口の数が9つと少ないため、1つの手口の位置で値が動きます。
「なぜ」は書かれていない
なぜ手口で被害者像が割れるのかは統計に説明がありません。 「接触手段が被害者層を決めている」「引き出し限度額が上限になる」という説明は、 手口の性質からの筆者の推測です。
ここまで見てきたことを、もう一度まとめます。
高齢者率は、手口で99.4%から5.3%まで割れる
キャッシュカード詐欺盗99.4%、預貯金詐欺97.0%、オレオレ詐欺93.1%に対し、SNS型ロマンス詐欺は18.0%でした。
高齢者を狙う手口ほど、被害者に女性が多い
預貯金詐欺は65歳以上のうち82.4%が女性。9手口での相関はr=+0.956でした。
ところが1件あたりの金額は逆
SNS型投資詐欺1,343万円に対し預貯金詐欺97万円。約14倍の差で、相関はr=−0.689です。
SNS型2手口が、金額の63.1%
件数では42.4%。古典3手口は件数12.4%・金額3.9%でした。
この表を最初に開いたとき、探していたのは「特殊詐欺の被害者は何歳くらいか」という単純な数字でした。全体では65歳以上が39.9%です。その1行だけを見ていたら、何も分からないままだったと思います。
手口ごとに割った瞬間に、99.4%と18.0%が同じ表に並んでいるのが見えました。平均の39.9%は、ほぼ全員が高齢者の犯罪と、ほとんど高齢者がいない犯罪を足して2で割った数字だったわけです。
平均値は、そこに実在しない被害者像を作ります。65歳以上が39.9%という数字からは、80代の女性も50代の男性も見えてきません。この統計がわざわざ手口別に集計されているのは、たぶんそのためです。
この表は警察庁がふつうに公表しているExcelファイルに入っています。ニュースで報じられるのは合計値ですが、手口別の内訳は誰でも見られます。ご自身や家族に関係のありそうな手口だけを追いかけるほうが、「特殊詐欺全体」の数字を見るよりずっと役に立ちます。


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