二段階認証でも乗っ取られる理由|Cookie窃取の仕組みと対策

数え直しシリーズ / テレワーク統計 × 認証脅威44件

パスワードの次に盗まれるもの

「二段階認証を入れたのに乗っ取られた」。盗まれているのは、パスワードではありません。

Cookie窃取 多要素認証 テレワーク 総務省 通信利用動向調査 一次データ

先に結論

  1. 二段階認証が守るのは「入口」だけ。通ったあとに配られる通行証(Cookie・セッショントークン)は守られていません。
  2. 通行証を盗まれると、認証をやり直さずに入られます。攻撃者はパスワードも認証コードも知らないままで済みます。
  3. 直近の認証まわりの報告44件のうち16件(36.4%)が、この「ログイン後」を狙う手口でした。
  4. テレワークは減っていません。「一部の人がたまに社外から」という形が増えました(使う人が10%未満の企業が48.7%→52.2%)。危ないのはテレワークそのものではなく、通行証の持ち運びやすさです。
  5. 今日やること:お使いのサービスで「連携しているアプリ」と「ログイン中の端末」を開いて、心当たりのないものを解除してください。

「うちは二段階認証を入れているから大丈夫」——そう思っている方に、まず1つだけ知っておいてほしいことがあります。

二段階認証は「入口」を守る仕組みです。入口を通ったあとのことは、守っていません。

この記事では、総務省の統計と、当サイトが集めている認証まわりの攻撃報告44件を重ねて、いま何が起きているのかを整理します。難しい用語は、そのつど言い換えます。

⚠ 補足:この記事は「テレワークが漏えいを起こす」という話ではありません

統計を見ても、「テレワークをすると情報が漏れる」という関係は確かめられません。この記事が示すのは別のことです。ログイン後の”通行証”が、会社の外へどれだけ持ち運べる状態になっているか——そこが本当のリスクであり、テレワークの統計はその「持ち運びやすさ」の広がりを教えてくれる、という話です。

CHAP1

第1章 / 全7章

ログインの「後」に配られるもの

遊園地を思い浮かべてください。

入口では、チケットと本人確認をします。ここが厳しいほど、他人が勝手に入ることはできません。これがID・パスワードと、二段階認証にあたります。

無事に入場できると、手首にリストバンドを巻いてもらえます。園内では、このリストバンドを見せるだけで、どのアトラクションにも乗れます。いちいち入口の本人確認をやり直したりはしません。

このリストバンドが、Cookie(クッキー)やセッショントークンと呼ばれるものです。

二段階認証が守るのは「入口」だけ 入口のチェック ID・パスワード 二段階認証 通行証が配られる Cookie セッショントークン 中は通行証だけで メール・ファイル 管理画面 攻撃者が狙うのは、ここから右側 通行証を盗めば、入口のチェックはもう受けなくていい

ここが問題です。リストバンドを盗まれてしまったら、泥棒は入口の本人確認を受けずに園内へ入れてしまいます。 顔写真つきの身分証をいくら厳しくチェックしても、リストバンドの盗難は防げません。

実際の攻撃も同じ形をしています。パソコンに入り込んだウイルスが、ブラウザに保存されたCookieを丸ごと抜き取る。すると攻撃者は、パスワードも二段階認証のコードも知らないまま、あなたとしてメールやファイルにアクセスできてしまいます。

覚えておきたい言葉

Cookie(クッキー)=ログイン済みであることを示す、ブラウザに保存される小さな通行証。
セッショントークン=同じく「この人はもう確認済み」を表す合言葉。
更新トークン=通行証の有効期限が切れたとき、自動で新しい通行証をもらうための引換券。これが盗まれると、長期間ずっと入り放題になります。

第1章 おわり — 次は第2章
CHAP2

第2章 / 全7章

テレワークは減っていない。薄く広がった

通行証が持ち出される場面を考えると、真っ先に浮かぶのがテレワークです。では、テレワークは今どうなっているのでしょうか。

総務省の「通信利用動向調査」(企業編)を、2023年から2025年まで並べてみました。

指標2023年2024年2025年
テレワークを導入している企業49.9%47.3%50.1%
導入企業のうち、使う人が従業員の30%以上30.9%29.9%28.1%
導入企業のうち、使う人が従業員の10%未満48.7%48.9%52.2%

読み取れることは2つです。

ひとつ。導入している企業の割合は、ほとんど変わっていません。 49.9%から50.1%です。「テレワークは終わった」という印象とは違います。

ふたつ。しかし中身は変わりました。 社内の多く(30%以上)が使う会社は30.9%から28.1%へ減り、逆にごく一部(10%未満)しか使わない会社が48.7%から52.2%へ増えています

ここでの「頻度」は、あなたが週に何日在宅か、ではありません

この統計が数えているのは「会社の中で、テレワークを使う人がどれくらいの割合か」です。個人が週何日在宅勤務をしているか、という調査ではありません。混同されやすいので、先に断っておきます。

つまり全体像はこうです。全社をあげてリモート、という形は減り、「一部の人が、たまに社外から」という形が増えました。

ここから1つの仮説が立ちます。全社的にリモートをする会社ほど、専用のパソコン、管理されたブラウザ、申請のルール、トラブル時に通行証を無効にする手順が整っているはずです。 逆に、月に数回だけ数人が使う会社では、そうした仕組みが「例外扱い」のまま残りやすいのではないか——という見立てです。

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CHAP3

第3章 / 全7章

業種で「持ち歩き方」が違う

業種ごとに見ると、形の違いがはっきりします。2025年の数字です。

業種導入率30%以上が使う
(導入企業のうち)
広く使っている
企業の推定
外出先で働く
仕組みの導入
情報通信92.8%69.4%64.4%26.4%
金融・保険81.9%48.9%40.0%28.3%
不動産66.3%44.5%29.5%24.8%
建設57.8%24.3%14.0%21.4%
製造54.5%13.9%7.6%18.6%
運輸・郵便32.5%11.2%3.6%6.9%

「広く使っている企業の推定」は、導入率 ×(導入企業のうち30%以上が使う割合)で計算した参考値です。正式な統計項目ではなく、この記事のために2つの数字を掛け合わせたものです。

ここで製造業に注目してください。広く使っている企業は7.6%しかないのに、外出先で働く仕組み(モバイルワーク)の導入は18.6%あります。 比べると2.4倍です。

業種外出先で働く仕組み ÷ 広く使う企業読み取れること
製造2.4倍全社では使っていないのに、外に持ち出す仕組みだけはある
=現場・出張・移動先で通行証が動く
運輸・郵便1.9倍
建設1.5倍
金融・保険0.7倍社内に広く行き渡っている=「量」の問題
情報通信0.4倍

同じ「テレワークのリスク」でも、対策の中身が変わります。

  • 情報通信・金融=多くの人が社外から使う。だからへの対策(強い認証を全体へ)
  • 製造・建設・運輸=使う人は少ないが、現場や移動先へ持ち出す。だから持ち出しの管理(共有端末に通行証を残さない)

もうひとつ、意外なのが製造業の「薄い層」の増え方です。「導入しているが、使う人は10%未満」に当たる企業は、製造業全体の29.2%(2023年)から34.1%(2025年)へ増えています。営業・保守・設計・管理職だけが、月に数回だけ社外から接続する——そういう使われ方が広がっている可能性があります。

第3章 おわり — 次は第4章
CHAP4

第4章 / 全7章

直近44件は何を報告しているか

ここまでは「持ち出しやすさ」の話でした。では実際に、いまどんな攻撃が報告されているのでしょうか。

当サイトでは、認証まわりのニュースや技術記事を自動で集めています。直近で集まった44件を、手口ごとに分けました。

手口件数どんな攻撃か
情報を盗むウイルス
(インフォスティーラー)
8パソコンに入り込み、ブラウザに保存されたパスワードやCookieをまとめて盗む
本物そっくりの中継サイト
(AiTM/リアルタイムフィッシング)
4偽サイトが本物への通信を中継する。本物の画面で認証させるので、二段階認証も通ってしまい、その通行証を横取りされる
連携アプリの許可を悪用
(OAuthトークン窃取)
3「このアプリにアクセスを許可しますか」に許可させ、正規の引換券を手に入れる
通行証そのものの窃取
(セッショントークン窃取)
1ログイン済みの合言葉を直接盗んで再利用する
4つの合計 = 16件(44件中の36.4%)いずれもログインを通ったあとを狙っている

44件のうち約3分の1が、「ログイン後の通行証」を狙う手口でした。

とくに2番目のAiTMは、多くの人の想像を裏切ります。偽サイトが本物のログイン画面を中継するため、あなたは本物の画面で、本物の二段階認証を正しく通します。 それなのに、その結果として発行された通行証だけが、途中で抜き取られるのです。

🚨 重要:「二段階認証が成功した=本人で、安全な端末」とは限りません

これがこの記事でいちばん伝えたいことです。認証が成功したという事実は、その瞬間、正しい合言葉が入力されたことしか証明しません。その後に配られた通行証が、誰の手元にあるかまでは保証しないのです。だから「全員に二段階認証を入れたから安心」では止まらない攻撃が出てきています。

攻撃の流れをまとめると、こうなります。

順番起きること
1社外の端末やブラウザが狙われる(自宅のパソコン、現場の共有端末など)
2パスワード・Cookie・端末に残った認証情報が盗まれる
3二段階認証を通したあとの通行証・引換券が手に入る
4クラウドサービス・メール・ファイルへ、そのまま入り続けられる

この44件は「発生率」ではありません

44件は、ニュースや技術記事を集めた結果です。日本で何件起きたか、どれくらいの確率で被害に遭うかを示す数字ではありません。 「いま、どのテーマが注目されているか」を知るための材料として読んでください。この点は第6章でもう一度触れます。

第4章 おわり — 次は第5章
CHAP5

第5章 / 全7章

外に出るのは、場所だけではない

ここで、まったく別のデータを重ねてみます。当サイトが集計している国内の情報漏えい731件です。

このうち137件は、自社ではなく委託先など「外部の会社」が起点で起きたものでした。この137件と、それ以外の594件で、原因の内訳を比べます。

区分件数うち攻撃が原因
(不正アクセス・ランサムウェア)
割合
外部の会社が起点1374129.9%
自社内で発生5948614.5%

外部の会社が起点の場合、攻撃が原因である割合は2.07倍でした。(統計的なブレを見込んだ範囲は1.50倍〜2.85倍。この範囲が1倍をまたいでいないので、偶然の差とは考えにくい、という意味です)

ここで気づくことがあります。テレワークと外部委託は、まったく別の話に見えて、行き着く先が同じです。

何を越えるのか結果として起きること
テレワーク場所の境界を越える会社の外に、正規のIDと正規の通行証がある状態になる
外部委託組織の境界を越える

どちらも最後は同じ問いになります。「会社の外にある正規の通行証を、どこまで信用するか」です。だから対策も、場所ごと・取引先ごとにバラバラに考えるより、ID と通行証を管理する場所を1つにまとめるほうが筋がいい、ということになります。

第5章 おわり — 次は第6章
CHAP6

第6章 / 全7章

この数字の限界(重要)

数字を出す記事では、その数字で何が言えないかも同じ場所に書くべきだと考えています。今回は特に大事な注意が4つあります。

注意内容
「テレワークが漏えいを起こす」とは言えないこの記事はテレワークの統計と、認証まわりの攻撃報告を並べただけです。因果関係は確かめていません。示せるのは「持ち出しやすさの広がり」と「通行証を狙う攻撃が報告されていること」が話としてかみ合う、というところまでです
44件は発生率ではないニュース・技術記事の収集結果です。日本全体の被害件数でも、被害に遭う確率でもありません。優先して調べるテーマを決めるための材料です
「広く使う企業の推定」は参考値導入率と利用者割合という2つの比率を掛け合わせた、この記事独自の計算です。正式な統計項目ではありません
統計は企業への調査総務省の調査は企業に聞いたものです。個人が週に何日在宅勤務をしているか、業種ごとに認証がどれだけ破られたかは分かりません

使わなかった数字があります

今回、いったん出したものの、記事に載せないことにした数字があります。誠実さのために書いておきます。

漏えいの「被害人数」を外部起点とそれ以外で比べたところ、中央値で550対120という大きな差が出ました。4倍以上です。ところが元のデータを確認すると、単位が混ざっていました。「〇〇人」と「〇〇件」と「〇〇社」が同じ列に入っていたのです。

集計の仕方外部起点それ以外
単位が混ざったまま5501214.5倍
「人」だけに揃える120人102人1.2倍

単位を揃えたら、劇的な差はほとんど消えました。 外部起点のデータには「件」で数えられた事案が多く含まれており、「件」は数が大きくなりやすかったのが理由です。

もし単位を確認せずに「外部委託が絡むと被害規模が4倍」と書いていたら、それは誤りでした。第5章の「攻撃が原因である割合が2.07倍」のほうは、単位に関係ない件数の比較なので、この問題の影響を受けません。

数字を読むときのコツ

統計を見て驚く差が出たときは、まず「同じものを数えているか」を疑うと間違いが減ります。単位、期間、対象の範囲。この3つがそろっていない比較は、差が大きいほど怪しいと考えてください。

第6章 おわり — 次は第7章
CHAP7

第7章 / 全7章

今日からできること

結論はひとつです。守る対象を「ログインできるか」から「ログインした後の権限が、どこまで持ち運べるか」へ移すこと。

立場やることなぜ
個人会社や大事なサービスに、共有パソコン・ネットカフェ・家族共用の端末からログインしない。使ったら必ず「ログアウト」を押す(ブラウザを閉じるだけでは通行証が残ることがある)通行証は端末に残る。閉じただけでは消えない
個人「このアプリにアクセスを許可しますか」の画面で、心当たりがなければ許可しない。過去に許可したアプリを一度見直す連携アプリの許可は、引換券を渡す行為
会社のIT担当重要なサービスへのアクセス条件に、「会社が管理している端末であること」を加える通行証を盗んでも、端末が違えば使えなくなる
会社のIT担当ウイルス感染が分かったとき、パスワード変更だけで終わらせない。通行証・引換券・連携アプリの許可を、まとめて無効にするパスワードを変えても、配布済みの通行証は生き続ける
経営層「多要素認証の導入率」だけを目標にしない導入率100%でも、通行証の盗難は止まらない

チェックリスト

  • 大事なサービスを、共有端末・私物端末から使っていないか確認した
  • 使い終わったら「ログアウト」を押す習慣がついている
  • アカウントの「連携アプリ」「アクセスを許可したアプリ」の一覧を一度見た
  • 会社の場合、月に数回しか社外接続しない人が、ルールの例外になっていないか確認した
  • 感染時の手順に「通行証とアプリ許可の無効化」が入っているか確認した
✅ 最初にやること3ステップ

1. 使っているサービス(Google、Microsoft など)の設定画面を開き、「連携しているアプリ」の一覧を見る。心当たりのないものは解除する。
2. 同じ画面にある「ログイン中の端末」を見る。知らない端末があれば、そこからのログアウトを実行する。
3. 共有パソコンで大事なサービスを使ったことがあるなら、今すぐ全端末からログアウトし、パスワードを変更する。この順番が大事です(先にログアウトしないと、通行証が生き残ります)。

第7章 おわり — 次はよくある質問
 FAQ

よくある質問

よくある質問

結局、二段階認証は意味がないのですか?

いいえ、必須です。パスワードだけが漏れた場合の乗っ取りは、二段階認証で確実に防げます。この記事が言っているのは「二段階認証だけでは止まらない攻撃がある」ということで、不要という意味ではありません。入口の鍵をかけたうえで、通行証の管理も考えましょう、という話です。

パスキーにすれば解決しますか?

大きく前進します。パスキーは偽サイトでは動かない仕組みなので、第4章のAiTM(本物そっくりの中継サイト)にはとても強いです。ただし、ログイン後に発行される通行証が盗まれる問題は、パスキーでも残ります。認証方法の話と、認証後の通行証の話は別だと考えてください。

ブラウザを閉じればログアウトになりませんか?

なるとは限りません。多くのサービスは「次回から自動でログイン」できるよう、通行証を保存しています。だから閉じただけでは残ります。大事なサービスでは、明示的に「ログアウト」を押すのが確実です。

製造業や建設業は、テレワークが少ないから安全ですか?

そうとは言えません。この記事のデータでは、製造業は「社内に広く行き渡っている」わけではないのに、外出先で働く仕組みの導入は比較的高く、比率で2.4倍でした。人数が少なくても、現場や出張先で通行証が動く構造はあります。むしろ人数が少ないぶん、ルールが例外扱いになりやすい点に注意が必要です。

44件というのは少なくないですか?

少ないです。だからこの記事では、44件を「発生率」としては使っていません。どのテーマを優先して調べるかを決めるための材料として扱っています。件数から確率を語ることはできない、という前提でお読みください。

データはどこから取っていますか?

テレワークの数字は総務省「通信利用動向調査」(企業編)の2023〜2025年版です。認証まわりの44件と、情報漏えい731件は、当サイトが公開情報を収集して作っているデータベースです。詳しくは下の出典欄をご覧ください。

出典・データについて

  • 総務省「通信利用動向調査」企業編 2023年・2024年・2025年(問4(1) テレワークの導入状況/問4(2) テレワークを利用する従業者の割合) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html
  • 「広く使っている企業の推定」および「外出先で働く仕組み ÷ 広く使う企業」の比率は、上記の公表値から当サイトが計算した参考指標です。公式の統計項目ではありません。
  • 認証まわりの攻撃報告44件は、当サイトが公開情報(ベンダーの調査記事・セキュリティ報道)を自動収集しているデータベースの集計です。発生件数や発生率ではありません。
  • 国内の情報漏えい731件は、Security NEXT(https://www.security-next.com/)が報じた事案から、当サイトが原因・組織・日付などを抽出して構築したデータベースの集計です。日本で起きた漏えいの全数ではありません。
  • 被害人数の比較は、元データで単位(人・件・社・世帯・団体)が混在していることを確認したため、本文の主要な主張には使用していません(第6章に経緯を記載)。

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