いちばん多い欠陥は、いちばん悪用されない|防御製品のCVE 3,993件をCWEで数え直した

数え直しシリーズ / 2026年8月・products データセット

いちばん多い欠陥は、いちばん悪用されない

セキュリティ製品78本にひもづく脆弱性3,993件を、CWE(欠陥の種類)で分類し直しました。件数で数えると世界共通のランキングと同じ顔ぶれになりますが、「実際に悪用されたもの」だけに絞ると、上位が総入れ替わりになります。

CWE CISA KEV 境界機器 CWE Top 25 一次データ

ソフトウェアの欠陥には「種類」があります。入力の処理を間違えた、認証をかけ忘れた、メモリの範囲を踏み越えた——こうした欠陥のパターンに番号を振ったものがCWEです。個々の脆弱性に振られるCVE番号が「事件番号」だとすれば、CWEは「罪名」にあたります。

CWEとCVEの違いが曖昧な方へ

この記事はCWEを使った集計が中心になります。用語そのものに不安がある場合は、先にCWEとは?CVEとの違いを10分でをお読みください。CVSS・EPSS・KEVとの関係も1枚の表で整理しています。

MITREは毎年、この罪名を危険な順に並べた「CWE Top 25」を公開しています。2025年版の1位はクロスサイトスクリプティング(CWE-79)で、2年連続の首位。スコア60.38は2位のSQLインジェクション(28.72)の倍以上で、突出しています。

では、この順位は「セキュリティを守るための製品」——ファイアウォール、EDR、SIEMといった製品群——にも当てはまるのでしょうか。手元のデータベースには、そうした78製品にひもづく脆弱性が3,993件たまっています。同じ物差しで数え直してみました。

⚠ 注意:この記事の「悪用された」の定義

この記事で「悪用された」と書くとき、それはCISA(米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)のKEVカタログに登録されていることを指します。KEVは「実際に悪用が確認された脆弱性」の公式リストですが、世界中のすべての悪用を把握しているわけではありません。KEVに載っていない=一度も悪用されていない、ではない点にご注意ください。この記事の数字は「公式に悪用が確認された範囲では」という限定付きの話です。

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何を数え直したのか

母集団をはっきりさせておきます。曖昧なまま数字だけ出すと、読む側が判断できなくなるためです。

項目意味
対象製品78ファイアウォール25/SIEM 16/EDR 16/MDR 11/XDR 10。「守るために導入する製品」だけを選んで登録したもの
ひもづく脆弱性(CVE)3,993製品を識別する記号(CPE)でNVDから引き当てたもの
うちKEV収載111実際に悪用が確認されたもの。全体の2.8%
うちCWEが記録されているもの98111件のうち13件はCWEが未記入。以降の分類はこの98件が母数
データ取得日2026-08-08KEVの最新登録は2026-08-07

3,993件のうち、実際に悪用が確認されたのは111件。率にして2.8%です。 残りの97.2%は、報告され、修正され、そして——少なくとも公式には——誰にも使われていません。

この2.8%という数字自体が、まず1つの答えになっています。「脆弱性が何件あるか」は、危険度の指標としてほとんど機能しません。97%が使われないものを数えても、リスクの大きさはわからないからです。

この記事が答える問い

では、残りの2.8%は何が違ったのか。ランダムに選ばれたのか、それとも攻撃者が選ぶ「種類」が決まっているのか。CWEで分類し直すと、ここがはっきり見えます。

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CHAP2

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件数で数えると、世界のランキングと一致する

まず、素直に件数だけで数えます。3,993件をCWEごとに集計した上位は次のとおりです。

順位CWE欠陥の種類件数
1CWE-79クロスサイトスクリプティング(XSS)385
2CWE-20入力値の検証不備300
3CWE-400リソースの浪費(サービス妨害につながる)169
4CWE-787境界外書き込み(バッファオーバーフロー系)139
5CWE-200情報の露出132
6CWE-78OSコマンドインジェクション119
7CWE-22パストラバーサル105
8CWE-269権限管理の不備88

1位はクロスサイトスクリプティングで385件。MITREのCWE Top 25 2025年版と同じ顔ぶれ、同じ首位です。防御製品も普通のソフトウェアと同じで、管理画面のWeb UIにXSSが積み上がっている——ここまでは、まったく意外性がありません。

数だけを見れば、「セキュリティ製品といっても中身は普通のWebアプリと変わらない」という平凡な結論で終わります。実際、多くの記事はここで止まります。

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悪用されたものだけ見ると、顔ぶれが変わる

ここで、同じ3,993件に「実際に悪用されたか」というフィルタをかけます。111件だけが残ります。すると、上の表がひっくり返ります。

報告された件数(灰)と、実際に悪用された件数(赤) 灰色のバーは385件を最大としたときの相対幅。赤は同じ縮尺では見えないため10倍に拡大して表示。 CWE-79 XSS 385件 悪用 0件 CWE-20 入力検証 300件 悪用 6件 CWE-787 境界外書き込み 139件 悪用 10件 CWE-306 認証の欠如 25件 悪用 10件

いちばん下の行を見てください。CWE-306「重要な機能に認証がかかっていない」は、報告件数では25件しかありません。全体で39位です。ところが実際に悪用された数では10件で、最多タイに並びます。

一方、385件で堂々の1位だったXSSは、悪用が確認されたものが1件もありません

CWE欠陥の種類悪用報告件数報告での順位
CWE-306重要な機能に認証が無い102539位
CWE-787境界外書き込み101394位
CWE-22パストラバーサル81057位
CWE-287不適切な認証75618位
CWE-94コードの生成を制御できていない73928位
CWE-78OSコマンドインジェクション61196位
CWE-20入力値の検証不備63002位
CWE-288別ルートからの認証バイパス51364位

太字にした3つが認証まわりです。CWE-288「別ルートからの認証バイパス」にいたっては、報告件数13件・全体64位という完全な少数派なのに、悪用では5件に達しています。

MITREのCWE Top 25と並べると、ずれ方がもっとはっきりします。

Top 25順位CWE欠陥の種類防御製品での報告うち悪用
1CWE-79クロスサイトスクリプティング3850
2CWE-89SQLインジェクション212
3CWE-352クロスサイトリクエストフォージェリ420
4CWE-862認可の欠落281
5CWE-787境界外書き込み13910
6CWE-22パストラバーサル1058
9CWE-78OSコマンドインジェクション1196
10CWE-94コードの生成を制御できていない397

Top 25の1〜4位を合計しても、防御製品で悪用されたのは3件です。5位以下の4つだけで31件に達します。 世間で「最も危険」とされる欠陥の並び順と、この製品群で実際に攻撃者が使った欠陥の並び順は、上位ほど食い違っています。

Top 25が間違っている、という話ではありません

CWE Top 25はあらゆるソフトウェアを合わせた集計です。世の中の大半はWebアプリケーションなので、XSSが1位になるのは妥当です。実際、XSSはKEVカタログ全体では7件が登録されています。ここで言えるのは「Top 25が誤り」ではなく、製品のクラスを絞ると危険な欠陥の順位は変わるということです。守る製品には、守る製品なりの弱点の出方があります。

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攻撃者が選んでいるのは「入口になるか」

なぜ認証まわりとパストラバーサルばかりが選ばれるのか。理由はおそらく単純で、攻撃者にとっての使いやすさが違うからです。

XSSは、成立させるのに「被害者がリンクを踏む」という条件が要ります。管理画面のXSSであれば、まず管理者にそのURLを開かせなければなりません。攻撃の起点としては手間がかかります。

これに対して、CWE-306「重要な機能に認証が無い」はどうでしょうか。インターネットに面した機器の、認証を必要としないURLを叩くだけです。 誰かを騙す必要も、待つ必要もありません。しかもファイアウォールやVPN装置は、仕事の性質上インターネットに面しています。

欠陥の種類攻撃者に必要なもの結果として得られるもの
CWE-306 認証の欠如URLを知っていること。それだけ管理機能へのアクセス
CWE-288 認証バイパス想定外の経路を見つけること認証の通過
CWE-22 パストラバーサルパス指定を細工すること設定ファイル・認証情報の読み取り
CWE-94 / CWE-78 コード・コマンド実行入力の混入点を1つ見つけること機器上での任意コード実行
CWE-79 XSS被害者にリンクを踏ませることその利用者の権限でのブラウザ操作

認証・アクセス制御にかかわる欠陥(CWE-306・287・288・862・863・284・798など)でまとめると、悪用が確認された111件のうち29件、およそ4分の1を占めます。単独のCWEとしては分散していても、「入口を開けてしまう」という一群として見ると最大勢力です。

🚨 重要:狙われているのは「製品の弱さ」ではなく「置かれている場所」

ここまでの結果は、セキュリティ製品の品質が低いという話ではありません。同じ欠陥でも、インターネットに面した機器にあるかどうかで価値がまるで違うという話です。ファイアウォール・VPN装置・リモートアクセス機器は、定義上いちばん外側に置かれます。そこに認証の抜けが1つあれば、それは「社内への正面玄関」になります。だからこそ、境界に置く機器の管理画面を外部から到達可能にしないことが、他のどの対策よりも先に来ます。

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111件のうち8件は、製品の欠陥ですらなかった

111件をCISA側の記録と1件ずつ突き合わせていて、想定していなかったものが出てきました。KEVに登録されている「ベンダー名」が、製品のメーカーではないものが8件あります。

CVEKEV上のベンダー通称ひもづいた防御製品
CVE-2021-44228Apache(Log4j2)Log4ShellCisco Secure Firewall
CVE-2023-44487IETF(HTTP/2)HTTP/2 Rapid ResetCisco Secure Firewall/F5 BIG-IP
CVE-2014-0160OpenSSLHeartbleedSplunk
CVE-2014-6271GNU(Bash)ShellshockF5 BIG-IP/IBM QRadar
CVE-2014-7169GNU(Bash)Shellshock(続報)F5 BIG-IP/IBM QRadar
CVE-2016-5195Linux(Kernel)Dirty COWPAN-OS
CVE-2014-0196Linux(Kernel)F5 BIG-IP
CVE-2018-14634Linux(Kernel)F5 BIG-IP/PAN-OS

Log4j、OpenSSL、Bash、Linuxカーネル。いずれも、その製品のメーカーが書いたコードではありません。 部品として組み込まれていた他人のコードが穴で、その穴が製品ごと影響を受けた、という構図です。

セキュリティ製品は「他のソフトウェアを守るもの」ですが、その中身は他のソフトウェアと同じように、無数のオープンソース部品でできています。守る側だけが部品表の外側にいる、ということはありません。

この8件は、悪用が確認された111件の7.2%にあたります。数としては小さいものの、「自社の製品にどのオープンソースが入っているか」を把握する取り組み——いわゆるSBOM——が、防御製品にこそ必要である理由をそのまま示しています。

関連:同じデータ基盤から見た、部品側のリスク

オープンソースの部品そのものが攻撃の対象になる話は、「悪性パッケージ23万件」のほとんどはゴミだった|数字の正しい読み方で、別のデータセットを使って詳しく数え直しています。

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この数え方の限界

自分で集めたデータで記事を書く以上、そのデータで何が言えないかも同じ場所に書いておくべきだと考えています。今回わかった限界は次のとおりです。

限界内容この記事での扱い
製品ごとのCVE総数は比較できない製品とCVEを結ぶ記号(CPE)のうち9件が、製品より広い範囲を指している。たとえばJuniper SRXに割り当てた記号はJunos全体を指すため、ルータやスイッチの脆弱性まで混ざる。ElasticsearchやSplunk本体も同様製品別のCVE件数ランキングは作らなかった
母数が小さい悪用が確認されたのは111件、CWEが記録されているのは98件比率は幅を持って読むべき。CWE-306とCWE-787は10件で同数なので「1位」と断定していない
CWEの未記入111件のうち13件はCWEが空欄分類の母数から除外。除外した13件が特定の種類に偏っていれば結論は動きうる
1件に複数のCWE1つのCVEに複数のCWEが付くことがある種類ごとの合計は111を超える。表の数字は「そのCWEを含むCVEの数」
古い事例が混ざる2014年のものから2026年のものまで含む「今この瞬間の製品の姿」ではなく「12年間の蓄積」として読む必要がある
KEVは全数ではない悪用の公式な確認リストであって、世界中の悪用の記録ではない「悪用ゼロ」は「確認されていない」の意味

とくに1つ目は、今回の作業ではっきりした収穫でした。「この製品はCVEが787件もあるから危険だ」という比較は、そもそも成立しません。 記号の当て方ひとつで件数は何倍にも変わりますし、脆弱性の開示に熱心なベンダーほど数字が伸びるという逆転もあります。

やってはいけない読み方

この記事の表を「XSSは安全だから直さなくてよい」と読むのは誤りです。防御製品78本という限られた範囲で悪用の確認がなかっただけで、XSS自体はCWE Top 25の1位であり、KEVカタログ全体では登録例もあります。言えるのは優先順位の話であって、対処の要否の話ではありません。

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立場別に、今日やること

結論はひとつです。「認証を必要としない入口が、インターネットから見えていないか」を確認すること。 これが、悪用が確認された欠陥の4分の1に対応します。

立場今日やること理由
個人・家庭ルータやNASの管理画面が外から開けないかを確認する。初期パスワードのまま使っているものを探す家庭でいちばん外側に立っているのがルータ。CWE-306と同じ構図が起きる場所
中小企業の情シスVPN装置・ファイアウォールの管理画面をインターネットに公開していないかを確認する。公開が必要なら接続元を限定する悪用の主戦場がここ。認証の抜けは「正面玄関」になる
セキュリティ担当更新の優先順位をCVSSの点数ではなくKEV収載の有無で決める。とくに境界機器を最優先に3,993件のうち実際に悪用されたのは2.8%。全部同じ速度で追う必要はない
製品を選ぶ立場「CVEが少ない製品」を選ばない。修正の速さと情報公開の姿勢で選ぶCVE件数は開示に熱心なベンダーほど増える。少なさは安全の証拠にならない
✅ 最初の3ステップ

1. 自宅または社内で「インターネットから直接つながる機器」を一覧にする(ルータ、VPN装置、NAS、カメラ)。
2. それぞれの管理画面が外から開けるかを実際に試す。開けたら、接続元の制限をかけるか公開をやめる。
3. その機器のメーカー名でCISAのKEVカタログを検索し、該当があれば最優先で更新する。

逆に言えば、すべての脆弱性に同じ速度で対応しようとするのをやめてよい、というのがこのデータの実務的な意味です。97.2%は、少なくとも公式には誰にも使われていません。限られた時間は、残りの2.8%と同じ性質を持つもの——外から認証なしで触れてしまう入口——に使うほうが効きます。

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 FAQ

よくある質問

この記事についてよくある質問

CWEとCVEは何が違うのですか?

CVEは個別の脆弱性に振られる「事件番号」です。「2024年にFortiOSで見つかったこの問題」という具体的な1件を指します。CWEは欠陥の「種類」につけられた番号で、いわば罪名です。1つのCVEに複数のCWEが付くこともあります。この記事は、事件番号の数ではなく罪名の内訳を数え直したものです。

なぜ78製品だけなのですか?

「守るために導入する製品」だけを手作業で選んで登録しているためです。世の中のすべてのセキュリティ製品を網羅したものではありません。内訳はファイアウォール25、SIEM 16、EDR 16、MDR 11、XDR 10です。この選び方自体が結果に影響するため、母集団として明示しています。

XSSは対処しなくていいということですか?

違います。この78製品という範囲で悪用の確認がなかっただけです。XSSはCWE Top 25の2年連続1位であり、KEVカタログ全体では登録例もあります。この記事が言えるのは、限られた時間をどこから使うかという優先順位の話だけで、対処の要否の話ではありません。

「悪用ゼロ」は本当にゼロなのですか?

CISAのKEVカタログに登録がゼロ、という意味です。KEVは実際に悪用が確認されたものの公式リストですが、世界中の悪用をすべて把握しているわけではありません。公表されていない悪用や、KEVの掲載基準に達しなかったものは数に入りません。

製品ごとのCVE件数ランキングは載せないのですか?

今回は意図的に載せていません。製品とCVEを結びつける記号(CPE)のうち9件が、製品より広い範囲を指していることを確認したためです。たとえばJuniper SRXに割り当てた記号はJunos全体を指すため、対象外の機器の脆弱性まで混ざります。この状態で件数を並べると、実態と違う順位になります。詳しくは第6章に書きました。

データはいつ時点のものですか?

2026年8月8日に取得したスナップショットです。KEVカタログの最新登録日は2026年8月7日でした。CWE Top 25は2025年版を参照しています。

数え直しシリーズ

世の中に流通している数字を、自前で集めたデータで数え直す連載です。

出典・参照

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