オントロジーとは?意味・仕組みと名寄せ活用を解説

2026年版・一次情報で確認

オントロジーとは?「APT10」と「Stone Panda」が同じだと、機械に教える方法

言葉の意味だけでなく、言葉どうしの関係まで機械に読める形で決めたもの。W3Cの定義、MITRE D3FENDの中身の実測、そしてニュースの攻撃集団名に振り回されないための調べ方まで、公的資料と実物のファイルで確認してまとめました。

30秒でわかる「オントロジー」

  1. ある分野の言葉と、言葉どうしの関係を、機械が読める形で決めたもの
  2. 中身はクラス(概念)・プロパティ(関係)・個体(実例)の3つ。W3Cの標準に定義があります
  3. セキュリティでの実物がMITRE D3FEND。2026年7月31日にバージョン1.5.0が出た、実在のファイルです
  4. 効き目は名寄せ。「APT10」も「Stone Panda」も同じ集団だと、機械が扱えるようになります
  5. 今日やること:脅威レポートで知らない集団名を見たら、ATT&CKのGroupsで別名を引く

オントロジーは、もともと哲学の言葉(存在論)です。それが情報の分野に持ち込まれ、いまではサイバーセキュリティの標準の中で普通に使われています。ただ、説明を読んでも抽象的で、何の役に立つのか分からないまま終わることが多い語でもあります。

先に結論を書きます。オントロジーの効き目は「名寄せ」です。同じ攻撃集団が、ある会社の報告書では「APT10」、別の会社では「Stone Panda」、また別の会社では「BRONZE RIVERSIDE」と呼ばれています。人間なら読み比べて気づけますが、機械は気づけません。言葉と関係を先に決めておけば、機械にも同じものだと扱えます。それがオントロジーです。

⚠ この記事の前提

この記事は2026年8月22日時点の内容です。定義はW3C『OWL 2 Web Ontology Language Document Overview (Second Edition)』(W3C Recommendation, 11 December 2012)、実物の数値はMITRE D3FENDのオントロジーファイル(バージョン1.5.0/リリース日 2026年7月31日)を実際にダウンロードして数えたもの、攻撃集団の別名はMITRE ATT&CK v19.2から取得しています。

この記事は、オントロジーを作るための技術解説ではありません。セキュリティの現場で出てきたときに何を指しているのか分かり、実際に引けるようになることを目的にしています。

CHAP1

第1章 / 全8章

オントロジーとは(やさしい定義)

用語集との違いは「関係が書いてあるか」です

おんとろじー 英:ontology

ある分野の概念と、概念どうしの関係を、機械が読める形で書き下したもの。言葉の意味だけを並べた用語集と違い、関係と制約まで書いてあるのが特徴です。

分類
知識の表し方。製品ではなくファイルとして存在します
ひとことで
言葉の地図。単語のリストではなく、単語のあいだの道が書いてある地図
よく混同される語
用語集/タクソノミ/データベースのスキーマ/知識グラフ(第4章で扱います)
セキュリティでの実物
MITRE D3FEND、MITRE ATT&CK、STIX、UCO/CASE など

定義はW3Cの標準文書にあります。ウェブの標準化団体が、ウェブ向けのオントロジー言語(OWL)を定めたときの説明です。

Ontologies are formalized vocabularies of terms, often covering a specific domain and shared by a community of users.
(オントロジーとは、形式化された用語の語彙であり、多くの場合、特定の分野を対象とし、利用者のコミュニティで共有されるものである)

出典:W3C『OWL 2 Web Ontology Language Document Overview (Second Edition)』W3C Recommendation, 11 December 2012(訳は筆者)

ここで大事なのは「共有される」という部分です。自分だけが分かる整理はオントロジーになりません。同じ文書を複数の組織が読んで、同じ意味で使えることが前提になっています。

そして中身は3つの部品でできています。同じ文書に、こう書かれています。

部品何を表すか攻撃集団の例でいうとD3FENDでの実数
クラス(classes)概念の種類「攻撃集団」という種類そのもの4,455
プロパティ(properties)概念どうしの関係、および属性「この集団はこの技術を使う」という関係関係が221、属性が42
個体(individuals)その種類にあてはまる実例menuPass、MirrorFace といった個々の集団2,727

部品の3分類はW3Cの同文書の記載(OWL 2 ontologies provide classes, properties, individuals, and data values)によります。右の列は、MITRE D3FENDのオントロジーファイル(バージョン1.5.0)を2026年8月22日にダウンロードして数えた実数です。抽象的な話に見えて、中身は数えられます。

用語集との差がどこにあるのかを、段階で並べておきます。下にいくほど機械にできることが増えます。

段階書いてあること機械にできることセキュリティでの例
用語集(glossary)言葉と、その説明検索して人に見せる各社のセキュリティ用語集
識別子の一覧言葉と、一意の番号同じものかどうかの判定CVE、CWE、CPE
タクソノミ(分類)上下関係(これはあれの一種)まとめて数える、絞り込むATT&CKの戦術と技術の階層
オントロジー上下関係に加えて、種類の違う関係と制約書いていないことを推論で導くD3FEND
知識グラフオントロジーに、大量の実データを載せたもの実物を横断して問い合わせるD3FENDが自称している形

この5段階は、W3Cの定義とD3FENDの自己説明を突き合わせて筆者が整理したものです。線引きは論者によって揺れます。特にオントロジーと知識グラフは重なりが大きく、D3FEND自身は「フレームワークであり、より正確には知識グラフ」という言い方をしています。

第1章 おわり — 次は第2章

CHAP2

第2章 / 全8章

なぜセキュリティで必要になったのか

1つの攻撃集団に、8つの名前が付いています

抽象論を離れて、実際に起きている困りごとから始めます。MITRE ATT&CKには、名前の付いた攻撃集団が180件登録されています。そのうちの1件を開くと、こうなっています。

ATT&CKのID代表名登録されている別名
G0045menuPassCicada/POTASSIUM/Stone Panda/APT10/Red Apollo/CVNX/HOGFISH/BRONZE RIVERSIDE
G1054MirrorFaceEarth Kasha

出典:MITRE ATT&CK v19.2 Groups(2026年8月22日に取得)。1つの集団に8つの名前が付いているのは珍しいことではありません。調査した会社がそれぞれ独自に命名し、あとから同一だと分かって別名として束ねられていくためです。MirrorFaceは、日本政府が2025年1月にパブリック・アトリビューションの対象とした集団です。

人間が読む分には、注記を頼りに追いかけられます。機械はそうはいきません。名前が違えば別の集団として扱い、同じ攻撃を2件として数え、同じ対策を二重に立てます。

この問題は、脆弱性の世界では先に解決されました。IPAは、共通の識別子を使う理由をこう説明しています。

個別製品中の脆弱性に一意の識別番号「CVE識別番号(CVE-ID)」を付与することにより、組織Aの発行する脆弱性対策情報と、組織Bの発行する脆弱性対策情報とが同じ脆弱性に関する対策情報であることを判断したり、対策情報同士の相互参照や関連付けに利用したりできます。

出典:IPA『セキュリティ設定共通化手順SCAP概説』

ここまでが識別子の話です。オントロジーは、この先をやります。「同じものか」だけでなく「どういう関係か」を機械に渡します。

できること識別子だけの場合オントロジーがある場合
同一性の判定できる。同じ番号なら同じものできる
種類でのまとめ分類の一覧が別にあれば、できるできる
関係をたどるできない。番号のあいだに道がないできる。この技術に効く対策、という向きでたどれる
書いていないことの導出できないできる。関係の定義から推論する

最下段が、この記事でいちばん実利のある行です。D3FENDは自らの説明で、このグラフは「サイバーセキュリティの対策を、攻撃側の戦術・技術・手順へ推論によって対応づける問い合わせを支える」と述べています。攻撃の技術IDから、それに効く防御技術を機械的に引ける、ということです。

🚨 名寄せができないまま自動化すると、こうなります

同じ攻撃集団が別名で入ってくると、脅威情報の取り込みは件数を水増しします。「今月の脅威は前月比で増加」という社内報告が、実は同じ集団を3つの名前で数えていただけ、ということが起こります。

逆方向の事故もあります。名前が一致しないためにすでに対策済みの攻撃を「未対応」として扱い続けるケースです。どちらも、機械が悪いのではなく、渡した語彙がそろっていないだけです。

第2章 おわり — 次は第3章

CHAP3

第3章 / 全8章

実物を開いてみる:MITRE D3FEND

誰でもダウンロードできる、6.5メガバイトのファイルです

オントロジーの説明は抽象的になりがちなので、実物を1つ開きます。MITRE D3FENDは、サイバーセキュリティの防御側の知識をオントロジーとして公開しているものです。攻撃側を整理したATT&CKの、対になる位置づけです。

項目実際の値意味するところ
正式名D3FEND — A knowledge graph of cybersecurity countermeasures自らを「対策の知識グラフ」と名乗っています
バージョン1.5.0作りっぱなしではなく版を重ねています
リリース日2026年7月31日この記事の作成のわずか3週間前です
形式OWL(W3Cのオントロジー言語)/RDF/XML第1章のW3C標準が、そのまま使われています
ライセンスMIT商用でも利用できます
ファイルの大きさ約6.5メガバイト誰でもダウンロードして中を見られます
資金元米国国家安全保障局(NSA)サイバーセキュリティ局研究の余技ではなく、国の予算がついています
クラスの数4,455この分野で区別している概念の種類
関係(オブジェクトプロパティ)の数221概念どうしをつなぐ道の種類
属性(データプロパティ)の数42概念に付く値の種類
注釈プロパティの数33出典や識別子など、説明のための欄
個体の数2,727実際に登録されている個々のもの
D3FEND独自の識別子466うち防御技術などを指す D3- 形式が272

2026年8月22日に d3fend.mitre.org からオントロジーファイルを取得し、冒頭のメタデータと定義の数を集計した値です。「オントロジー」は概念の話ではなく、バージョン番号とリリース日を持つ成果物として運用されています。そして関係が221種類あるところが、単なる分類との差です。「これはあれの一種」という1種類しか道がなければタクソノミですが、221種類の道があると、向きと意味を持ったたどり方ができます。

最上位のクラスは6つです。ここを見ると、この分野を何で切っているのかが分かります。

最上位クラス日本語にすると入っているもの
Defensive Technique防御技術やる側の手立て。D3FEND本体
Offensive Technique攻撃技術攻撃側の手口。ATT&CK等と対応づけるための受け皿
Artifact成果物・対象物ファイル、プロセス、通信など、守ったり調べたりする対象
Event / Digital Event事象起きたこと。ログに残る単位
Weakness弱点欠陥の種類。CWEに対応する層
Agent主体人や組織など、行為する側

同ファイルのクラス定義から抽出しました。攻撃と防御を別のクラスとして持ち、そのあいだに関係を張るという設計になっています。これが第2章の「推論で対応づける」の土台です。

では実際に、どれだけ外の世界とつながっているのか。攻撃側の識別子への参照を数えました。

参照している識別子件数出どころ
ATT&CKの技術ID(T で始まるもの)1,142MITRE ATT&CK
ATLASのID(AML で始まるもの)189AI・機械学習システムへの攻撃を扱うMITRE ATLAS
その他の攻撃フレームワーク由来の識別子216別体系のもの(本記事では特定していません)
合計1,547

同ファイル内の attack-id の値を種類別に集計しました。注目すべきは2行目です。AIへの攻撃を扱うATLASの語彙が、あとから同じ構造に入っています。関係の定義が先にあるので、新しい分野の語彙を足しても全体を作り直さずに済む。これがオントロジーで作る実利のひとつです。

もうひとつ、この知識ベースの作られ方も公開されています。

数々の研究開発文献、とりわけ2001年から2018年までの米国特許庁の対策関連特許500件超を対象とした標本が、この知識グラフを構築するための材料となった。

出典:MITRE D3FEND「About the D3FEND Knowledge Graph Project」(訳は筆者)

製品カタログでもベンダーの主張でもなく、特許という一次文献から概念を抽出して作ったと明言しています。オントロジーを作るという作業が何をすることなのか、この一文がよく表しています。

もっと詳しく

攻撃側のATT&CKについては連載があります。まずは攻撃者の手口を「地図」にするMITRE ATT&CK完全入門から読むと、この章の対応関係が具体的に見えます。脅威情報の共有形式であるSTIXやTAXIIについては脅威インテリジェンス実践ガイドで扱っています。

第3章 おわり — 次は第4章

CHAP4

第4章 / 全8章

よくある誤解と、間違えやすい似た用語

「関係が書いてあるか」で切り分けます

この語のまわりには、似ているけれど役割が違う言葉が並んでいます。まとめて整理します。

言葉役割オントロジーとの違い
タクソノミ(分類体系)上下関係で整理する関係が「一種である」だけ。オントロジーは関係の種類そのものを定義する
データベースのスキーマ特定のシステムの中でデータの形を決めるスキーマは実装の都合に縛られ、共有を前提としない。オントロジーは共有が前提
知識グラフ実データを点と線で持つ設計図がオントロジー、そこに実データを載せたものが知識グラフ、という関係に近い
STIXなどの交換形式組織のあいだで情報を運ぶ運ぶ形の取り決め。何をどう関係づけるかの定義とは層が違う
RAG(検索して答えさせる仕組み)文書を探してAIに渡す渡す材料が文章か、構造化された関係かの違い。組み合わせて使われます

最下段について補足します。生成AIに社内文書を探させるRAGでは、探してくるのは文章の断片です。オントロジーや知識グラフを併用すると、「この集団が使う技術」という関係そのものを渡せるため、答えの根拠がたどりやすくなります。

誤解も4つ並べておきます。

よくある誤解実際はどうか
オントロジーは学術的な概念で、実務では使わないD3FENDはNSAが資金を出し、2026年7月31日にバージョン1.5.0が公開されています。運用されている成果物です
用語集を作れば、それがオントロジーだ用語と説明だけでは足りません。関係の種類が定義されていることが要件です
いちど作れば完成するATT&CKは v19.2、D3FENDは 1.5.0 というように、どちらもバージョンを重ねています。語彙は現実に追随して増えます
自社独自に作ったほうが実態に合う合いますが、共有できません。W3Cの定義にある「利用者のコミュニティで共有される」という部分を落とすと、外部の脅威情報と突き合わせられなくなります

4つ目は判断が必要な論点です。既存の標準に寄せるほど外部とつながり、独自に作るほど自社の実態に合います。どちらか一方ではなく、外部標準の識別子を必ず併記する形にしておくのが現実的な折衷案です。

⚠ 「オントロジーを導入する」という言い方には注意

オントロジーは、買って入れる製品ではありません。あるのはファイルと、それを読む道具です。提案書に「オントロジーを導入します」と書かれていたら、実際に何のファイルを使い、どのツールが読み、誰が更新するのかを確かめてください。

逆に、その3つが答えられる提案なら中身があります。D3FENDのようにライセンスが明示され、バージョンとリリース日を持つものであれば、更新に追随できているかも後から検証できます。

第4章 おわり — 次は第5章

CHAP5

第5章 / 全8章

個人:別名に振り回されない読み方

この章だけは、今日から使えます

個人がオントロジーを作ることはありません。ただし、すでに作られているものを引くのは今日からできます。ニュースやレポートで知らない名前に出会ったときの手順です。

困ったこと引くもの分かること
知らない攻撃集団の名前が出てきたMITRE ATT&CK の Groups 一覧別名。すでに知っている集団の言い換えかどうかが分かります
製品名だけ書かれていて、危険度が分からないCVE番号、そこからCVSS同じ脆弱性を指す各社の情報を突き合わせられます
攻撃の手口は書いてあるが、対策が書いていないATT&CKの技術IDで D3FEND を引くその技術に対応づけられた防御技術が出てきます

1行目が特に効きます。第2章で見たとおり、1つの集団に8つの別名が付いていることがあります。「新種の攻撃集団が出現」という見出しの多くは、すでに知られている集団の別名です。

関連する話

脆弱性の番号のたどり方はCVEとは?脆弱性情報の99%を支える仕組みCVSSとは?「深刻度9.8」の読み方と、2026年に変わった前提にまとめています。攻撃集団を国が名指しする仕組みはパブリック・アトリビューションで扱いました。

第5章 おわり — 次は第6章

CHAP6

第6章 / 全8章

会社・組織で使うときの順番

いきなりオントロジーから始めると、たいてい止まります

脅威情報の自動化を進めるとき、最初からオントロジーを設計しようとすると重すぎて動きません。実際には3段階に分かれます。上の段だけでも効果があり、下の段は上ができてから意味を持ちます。

段階やることできるようになること目安の重さ
1 語彙をそろえる外部標準の識別子を必ず併記する。脆弱性はCVE、攻撃技術はATT&CKのID、集団はATT&CKのGroup ID同じものを同じものとして数えられる軽い。表記のルールを決めるだけ
2 関係を持たせる「この集団はこの技術を使う」「この技術にはこの対策が効く」を、文章ではなく項目として持つ片方から他方を引ける中くらい。既存の管理表の作り直しが要る
3 機械に渡すSTIXのような交換形式や、D3FENDのようなオントロジーと突き合わせる外部の脅威情報を自動で取り込める重い。運用の担当を決める必要がある

段階の切り方は、IPAが解説する識別子の役割(同一性の判定)と、D3FENDが述べる推論による対応づけの差から筆者が整理したものです。多くの組織にとって効果が大きいのは1段目です。これができていないまま3段目の製品を入れても、入力がそろわないので結果は安定しません。

2段目以降に進むなら、先に決めておくことが5つあります。あとから決めると全部やり直しになる項目です。

決めること決めないと起きること
何を一意に識別するか同じ資産が部署ごとに別名で登録され、統合できなくなる
別名の対応表を誰が保守するか新しい呼び名が増えるたびに手作業が発生し、やがて更新が止まる
外部標準に合わせるか、独自にするか独自に振り切ったあとで外部連携が必要になり、変換の層が増える
更新の頻度と追随の範囲参照先がバージョンを上げたときに、どこまで追うかで毎回もめる
最終的にどのツールが読むのか読み手のないデータを整備し続けることになる

4番目は具体的な話です。ATT&CKは v19.2、D3FENDは 1.5.0(2026年7月31日)というように、参照先は動きます。自社が今どのバージョンに対応しているかを記録していないのが、いちばんよくあるつまずき方です。

✅ 1段目だけなら、今週できます

脆弱性管理表にCVE番号の列を作って必須にする。インシデントの記録にATT&CKの技術IDを書く欄を足す。この2つだけで、社内の記録が外部の情報と突き合わせられるようになります。

オントロジーの効き目は、突き詰めれば「あとから機械に渡せる形で記録しておく」ことです。関係の設計まで進まなくても、識別子をそろえた記録は将来そのまま使えます。

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CHAP7

第7章 / 全8章

レポートの用語が分からない:最初の10分

知らない名前が出てきたときの、決まった手順

取引先やベンダーから届いた脅威レポートに、知らない集団名や技術名が並んでいる。よくある場面です。慌てて全部を調べる前に、順番を固定します。

時間やることやってはいけないこと
0〜3分集団名をATT&CKのGroups一覧で引き、別名かどうかを確かめる名前で検索して出てきた記事から読み始める
3〜6分レポート中の技術IDと脆弱性番号を抜き出し、一覧にする本文の解説を読み込む。番号のほうが先です
6〜8分抜き出した番号が、自社の資産と管理表に該当するかを突き合わせる該当の有無を確かめる前に対応方針を決める
8〜10分該当したものだけ、D3FENDや自社の対策一覧で対策側を引く該当していないものまで含めて報告する

この順番の効果は、読む量を先に減らせることです。番号で突き合わせて該当がなければ、そのレポートは記録だけして次に進めます。名前から読み始めると、該当の有無に関係なく全文を読むことになります。

引く先も固定しておきます。すべて無料で公開されています。

引くもの公開元使う場面
ATT&CK(攻撃側の戦術・技術・集団)MITRE集団名の別名、技術IDの意味を調べる
D3FEND(防御側の対策)MITRE(NSA資金)攻撃技術に対応づく防御技術を引く
ATLAS(AI・機械学習への攻撃)MITREAIを組み込んだ製品への攻撃を扱うとき
JVN/JVN iPediaIPAとJPCERT/CCが共同運営日本語で脆弱性を確認する
STIX(脅威情報の記述形式)OASIS他組織と機械可読な形でやりとりする

最下段のSTIXは、2021年6月10日にバージョン2.1がOASIS標準になっています。2.1では、脅威の対象を表す19種類のオブジェクトに加えて、関係そのものを表す2種類のオブジェクトが独立して定義されているのが特徴です。関係を第一級の対象として扱う設計は、オントロジーの考え方と同じ方向を向いています。

この章で使う入口

  • MITRE ATT&CK Groups(攻撃集団の別名一覧)
  • MITRE D3FEND(防御技術のオントロジー。ファイルそのものもダウンロードできます)
  • JVN iPedia(日本語の脆弱性対策情報データベース)
  • IPA『セキュリティ設定共通化手順SCAP概説』(識別子の全体像)
  • IPA『脅威情報構造化記述形式STIX概説』(日本語でのSTIX解説)

第7章 おわり — 次は第8章

CHAP8

第8章 / 全8章

関連用語と、次に読む記事

語彙をそろえる・関係をたどる・機械に渡す

この用語とセットで覚えると理解が早くなる語です。

こんな人に次に読む記事
攻撃側の分類体系を一から知りたい攻撃者の手口を「地図」にするMITRE ATT&CK完全入門【連載・第1回/総論】
脅威情報の集め方と使い方を知りたい脅威インテリジェンス実践ガイド(IOC・STIX・TAXII)
脆弱性の識別番号のほうを先に知りたいCVEとは?脆弱性情報の99%を支える仕組み
取り込んだ記録を残して突き合わせたいログ管理とは?保存期間・必要なログ・運用方法を完全解説
国が攻撃者を名指しする仕組みを知りたいパブリック・アトリビューションとは?13か国が攻撃者を名指す理由

第8章 おわり — 最後にFAQ

FAQ?

よくある質問

オントロジーについてよく聞かれること

実際に検索されている疑問から

オントロジーとタクソノミは何が違うのですか?

関係の種類の数が違います。タクソノミにあるのは基本的に「これはあれの一種である」という上下関係だけです。オントロジーは関係の種類そのものを定義します。実例で言うと、MITRE D3FENDのオントロジーには関係が221種類あり、そのおかげで「この攻撃技術に効く防御技術」という向きのたどり方ができます。上下関係が1種類しかなければ、そのたどり方はできません。

オントロジーは、実際の製品として売られているのですか?

売られているのは、それを作る道具や読み込むツールです。オントロジーそのものはファイルです。たとえばMITRE D3FENDは、W3Cのオントロジー言語であるOWLで書かれた約6.5メガバイトのファイルとして公開されており、ライセンスはMIT、バージョンは1.5.0、リリース日は2026年7月31日です。誰でもダウンロードして中身を確認できます。

セキュリティの現場で、実際に何の役に立つのですか?

いちばん分かりやすいのは名寄せです。MITRE ATT&CKには180の攻撃集団が登録されていますが、たとえばG0045にはmenuPass、APT10、Stone Panda、BRONZE RIVERSIDEなど8つの別名が並びます。別名を束ねる仕組みがないと、機械は同じ集団を別々に数え、対策も重複します。もう一段進むと、攻撃技術の識別子から効果のある防御技術を機械的に引けるようになります。

AIやRAGとは、どういう関係になりますか?

競合するものではなく、渡す材料が違います。RAGは文書を検索してAIに読ませる仕組みで、渡るのは文章の断片です。オントロジーや知識グラフを併用すると、「この集団はこの技術を使う」といった関係そのものを渡せます。なお、AIそのものへの攻撃を整理した語彙も進んでいて、D3FENDはAI・機械学習への攻撃を扱うATLASの識別子を189件参照しています。

出典・参考

最終更新:2026年8月22日/次回見直し予定:2027年8月(D3FENDとATT&CKがそれぞれ年に複数回バージョンを上げるため、本文中の実測値は毎年数え直します)

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