ボットネットとは?不正送金被害の44%に、家庭の機器が使われていた【2026年版】

警察庁の統計と、日本警察の無害化事例から

ボットネットとは?不正送金被害の44%に、家庭の機器が使われていた

被害者になる話ではありません。知らないうちに加害者側になる話です。

30秒でわかる「ボットネット」

  1. マルウェアに感染した機器が多数まとめて遠隔操作される、その集団のことです。1台1台を「ボット」と呼びます。
  2. 指令を出す司令塔をC2サーバといいます。ボットは定期的にここへ通信し、次の指示を受け取ります。
  3. 2024年の不正送金事犯4,369件のうち、少なくとも1,918件(約44%)で「レジデンシャルプロキシ」=一般家庭の回線が踏み台に使われていました(警察庁)。
  4. 誤解:「感染したら動作が重くなる」。気づかれないことが目的なので、多くは何も起きません。
  5. 今日やること:家庭用ルーターと、買って放置している機器のファームウェアを確認する

「ボットネット」という言葉は、DDoS攻撃のニュースで見かけることが多いと思います。しかし日本でいま起きている問題は、少し違うところにあります。

この記事の中心は第2章です。あなたの家のテレビにつないだ機器が、誰かの銀行口座から現金を送金するために使われている——比喩ではなく、警察庁が統計として公表している話です。

⚠ この記事の前提

この記事は2026年8月17日時点の内容です。統計と事例は、警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』(2026年3月公表)および同資料編にもとづき、出典を記事末に記載しています。

第3章の段階整理と第5章の用途分類は筆者によるものです。公的に定められた分類ではありません。

CHAP1

第1章 / 全8章

ボットネットとは(やさしい定義)

1台では意味がなく、数が揃って価値になります

ぼっとねっと 英:botnet

マルウェアに感染して外部から遠隔操作できる状態になった機器が、多数まとめて1つの指令系統につながっている集団のことです。robot と network を組み合わせた言葉です。

ボット
集団を構成する1台1台。PC・スマホ・ルーター・防犯カメラ・家電まで含みます
C2サーバ
指令を出す司令塔。Command and Control の略。ここを止めると集団は動けなくなります
操る人
ハーダー(herder=羊飼い)と呼ばれます
持ち主の自覚
ほぼありません。気づかれないことが設計目標です

いちばん重要な性質を先に書きます。ボットネットにおいて、感染した機器の持ち主は「被害者」であると同時に「加害の道具」になります。

ランサムウェアなら、被害は自分に降りかかります。だから気づきます。ところがボットネットは違います。持ち主に実害を出さないほうが、長く使えるので都合がいいのです。

観点ランサムウェアボットネット
目的持ち主から金を取る持ち主の機器を資源として使う
持ち主への実害大きい(業務停止)ほとんど無い
気づくかすぐ気づく気づかない
攻撃者にとっての価値1回きり長く使えるほど価値が上がる
被害を受けるのは持ち主第三者(そして持ち主は加害側に見える)

対比は筆者による整理です。

💡

最終行が、この語のいちばん怖いところです

踏み台にされた場合、攻撃先のサーバのログに残るのは、攻撃者ではなくあなたのIPアドレスです。警察庁も、これが「サイバー犯罪捜査においても深刻な障害となっている」と記しています。知らないうちに、記録上は自分が攻撃者になります。

第1章 おわり — 次は第2章

CHAP2

第2章 / 全8章

不正送金の44%に、家庭の機器が使われた

「レジデンシャルプロキシ」という日本の実態です

警察庁は、一般家庭のIoT機器が持ち主の認識しないところで「レジデンシャルプロキシ」(一般家庭の回線を利用するプロキシ)として動作し、踏み台に悪用される事案が多発していると報告しています。

そして、その規模が数字で出ています。

2024年(令和6年)の不正送金事犯件数被害額
全体4,369件約86.9億円
うち、レジデンシャルプロキシが使われたもの少なくとも1,918件約28.9億円
割合約44%約33%

出典:警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』第1部。同資料は、令和7年中も引き続き同様の事案を多数認知しているとしています。

不正送金の2件に1件近くで、日本の家庭の回線が経由されていました。

どこから入ってくるのか

感染経路として、警察庁が名指しで挙げている例があります。

「テレビに接続して海外動画を無料で視聴できます」などと称して販売されている不正な動画ストリーミング用機器が不正アクセス等の踏み台として悪用される事案が発生している。
これらの機器の中には、機器の購入前の段階において、ダウンローダー等の不正なソフトウェアが仕込まれた機器が流通しているものもあり、当該機器をインターネットに接続することにより、使用者の気付かないうちにマルウェアをインストールしてプロキシとして動作するものがある。

警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』第1部(5)

「購入前の段階で仕込まれている」——ここが重要です。使い方を間違えたわけでも、怪しいリンクを踏んだわけでもありません。箱を開けて電源を入れた時点で、すでに感染しています。

そして、なぜ日本の家庭の回線が狙われるのか。同資料はこう説明しています。海外の攻撃者であっても、国内の機器を踏み台にすれば、海外からのアクセスを制限したサーバにアクセスできるようになるからです。

💡

銀行の「海外からのアクセスを遮断」が、無効化されます

金融機関の対策として、海外IPアドレスからのアクセスを制限する方法があります。日本の家庭の回線を経由されると、この対策をすり抜けます。銀行から見れば「日本国内の一般家庭からの、ごく普通のアクセス」に見えるためです。第2章の44%は、こうして生まれています。

第2章 おわり — 次は第3章

CHAP3

第3章 / 全8章

仕組み(感染から指令まで)

ボットは「待つ」のが仕事です

段階何が起きるか持ち主に見えるもの
1. 感染脆弱性、初期パスワードのまま、あるいは出荷前の仕込みで入り込む何も見えない
2. C2への接続司令塔サーバへ定期的に通信し、「準備できました」と知らせる通常の通信に紛れる
3. 待機指令が来るまで、何もせず待つ。年単位で待つこともあります何も見えない
4. 指令の受信「このサイトを攻撃せよ」「この通信を中継せよ」わずかな通信量の増加のみ
5. 実行DDoS、踏み台、情報の送信などを一斉に行う回線が少し遅くなる程度

段階の整理は筆者によるものです。

3段階目が、この仕組みの本体です。ボットの仕事の大半は「待つこと」で、その間は何もしません。だから気づけません。

そして2段階目に、守る側の突破口があります。ボットは必ずC2サーバと通信します。指令を受け取れなければ動けないからです。この性質が、次章と第6章につながります。

1段階目の入り方は、4通りです

入り方内容狙われやすいもの
脆弱性を突く更新していない機器の既知の弱点を使うルーター、防犯カメラ、NAS
初期パスワードのまま出荷時の ID・パスワードで入られる設定画面を開いたことがない機器
出荷前の仕込み買った時点ですでに入っている出所の不確かな機器(第2章)
利用者に入れさせる偽アプリ、添付ファイル、拡張機能PC、スマートフォン

整理は筆者によるものです。

「探されている」のは、常時です

1段階目の相手は、人ではなく自動化された探索です。その規模が、公的な観測で分かります。

観測2025年の件数内訳
警察庁のセンサー1日・1IPアドレス当たり 9,605.7件大部分が海外を送信元とするアクセス
NICTER(NICTの観測網)1日・1IPアドレス当たり 6,862.1件うち攻撃関連は約45.0%。不特定多数の機器を対象としたアクセスが半数以上

出典:警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』図表13・図表14。NICTERの数値は同資料が「NICTER観測レポート2025」から引用したものです。

下の行の「不特定多数の機器を対象としたアクセスが半数以上」——これがボットネットの拡大活動そのものです。誰かを狙っているのではなく、ただ空いている機器を探し続けています。だから「うちは狙われるようなところではない」は成り立ちません。

第3章 おわり — 次は第4章

CHAP4

第4章 / 全8章

よくある誤解と、似ている用語

「ボット」は文脈で意味が変わる言葉です

用語意味この語との関係
ボットネット遠隔操作される機器の集団この記事の主題
ボット集団の1台。ただしSNSの自動投稿プログラムも「ボット」同じ語で別物。文脈で判断します
C2サーバ指令を出す司令塔ボットネットの心臓部
レジデンシャルプロキシ一般家庭の回線を経由させる中継ボットネットの用途の1つ。第2章の主役
DDoS攻撃大量の通信でサービスを止める攻撃ボットネットの用途であって、同義ではありません
マルウェア悪意のあるソフトウェア全般ボットにする手段
テイクダウンC2サーバなどを停止させる措置第6章の話

よくある3つの誤解

誤解実際は
「感染したら動作が重くなる」重くなると気づかれて駆除されます。気づかれないことが目的なので、負荷はわざと抑えられます
「PCとスマホを守れば大丈夫」第2章のとおり、狙われているのはルーター・防犯カメラ・ストリーミング機器・NASなど、更新を意識しない機器です
「うちには盗まれるものがない」盗まれるものは要りません。必要なのは「日本の家庭の回線」というだけです。何も持っていない機器にこそ価値があります

家庭の機器のリスクを詳しく

どんな機器が狙われるかは IoT機器乗っ取りの真実と対策、ルーター経由の乗っ取りは ルーター乗っ取りとDDNS、インターネットに露出している機器の探し方は Shodanで調べる にまとめています。

第4章 おわり — 次は第5章

CHAP5

第5章 / 全8章

何に使われるのか

集めた機器は、用途ごとに貸し出されます

用途内容日本での状況
踏み台(プロキシ)攻撃者の通信を中継し、発信元を隠す不正送金の約44%(第2章)
DDoS攻撃一斉に大量の通信を送り、サービスを止める2024年末から2025年初にかけ、重要インフラ事業者等で被害が相次ぎました
情報の窃取認証情報などを集めて送信するインフォスティーラーとして流通(第6章)
迷惑メールの送信多数の機器から分散して送る
不正な演算暗号資産の採掘などに計算資源を使う
貸し出しボットネットそのものを他の犯罪者に貸すDDoSの請負サービスとして提供される例があります

用途の分類は筆者による整理です。DDoS被害の状況は警察庁資料にもとづきます。

最終行に注目してください。ボットネットは、それ自体が商品です。ランサムウェアがRaaSとして貸し出されるのと同じ構造で、集めた機器も貸し出されます。

だから、攻撃者は感染させた機器を大事に扱います。壊さない、遅くしない、気づかせない。第4章の1つ目の誤解は、ここから来ています。

第5章 おわり — 次は第6章

CHAP6

第6章 / 全8章

日本の警察は、どう止めてきたか

C2を止めれば、集団は動けなくなります

第3章のとおり、ボットはC2サーバから指令を受け取れなければ動けません。だから対処は、感染した何万台もの機器を1台ずつ直すのではなく、司令塔を止める方向に向かいます。これをテイクダウンといいます。

日本警察には、その実績があります。

時期事案実施したこと
2014年5月Game Over ZeusFBI・EUROPOL中心の国際連携。感染端末を特定し、プロバイダ経由で利用者に駆除を促してテイクダウン
2015年4月VAWTRAK(ボートラック)警視庁がC2サーバを観測し、国内外約8万2,000台の感染を把握。無害化措置に成功
2017年3月オペレーション Avalanche流出ID対策および感染端末対策を実施
2025年6月国際共同捜査「Secure」INTERPOL主導、日本を含む26か国。日本では129台のC2サーバがテイクダウン

出典:警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』本文および資料編。年は西暦に換算しています。

VAWTRAKの無害化がうまい

2番目の事案は、手口が鮮やかです。同資料はこう説明しています——感染端末はC2サーバと定期的に通信して情報を取得する性質があったため、その性質を逆手に取り、無害なデータを取得させることで無害化した

つまり、司令塔を乗っ取って「何もするな」という指令を配ったわけです。1台ずつ訪問して駆除するのではなく、仕組みそのものを使って止めています。

💡

これが「アクセス・無害化措置」の原型です

2026年10月1日に施行される制度で、警察は攻撃者のサーバ等へ直接働きかける権限を持ちます。実務としては、ここに挙げた事案の延長線上にあります。詳しくは 能動的サイバー防御とは? をご覧ください。

もう1つ、4番目の「Secure」で見つかったC2サーバについて、重要な記述があります。

同サーバは、企業等が通常使用するサーバが何らかの理由で侵害され、管理する企業等が気付かないままに情報窃取行為に悪用されたものであった。

警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』第2部(国際共同捜査「Secure」について)

C2サーバも、誰かの正規のサーバです。攻撃者が自前で用意した怪しいサーバではありません。家庭の機器だけの話ではなく、企業のサーバが、気づかれないまま司令塔にされます。

第2章と合わせると、構図がはっきりします。家庭の回線が踏み台に、企業のサーバが司令塔に。どちらも持ち主は気づいていません。ボットネットは、こうして他人の資産だけで組み立てられます。

第6章 おわり — 次は第7章

CHAP7

第7章 / 全8章

自分の機器が加担していないか確かめる

気づけない前提で、確認する順番を決めます

#確認することなぜ
1家にある「ネットにつながる機器」を全部書き出すルーター、防犯カメラ、NAS、テレビ、ゲーム機、掃除機まで。忘れている機器が狙われます
2ルーターのファームウェアを更新する家庭でいちばん重要な1台です
3初期パスワードのままの機器がないか確認する感染経路の定番です
4外から接続できる設定(ポート開放・DDNS)を止める必要がなければ閉じます
5出所の不確かな機器を使っていないか見直す第2章のとおり、出荷前に仕込まれているものがあります
6サポートが終了した機器を使い続けていないか更新が来ない機器は、脆弱性が残り続けます

実務上の一般的な整理です。

🚨 5番について、はっきり書きます

「テレビにつなぐと海外の動画が無料で見られる」たぐいの機器は、警察庁が名指しで踏み台の例として挙げています。安さや便利さと引き換えに渡しているのは、あなたの回線です。

そして、そこから不正送金が行われた場合、銀行のログに残るのはあなたのIPアドレスです。事情の説明を求められる可能性があります。使っている場合は、ネットワークから外してください。

✅ 組織の場合は、もう1つあります

「自社のサーバがC2に使われていないか」——第6章のとおり、C2サーバの多くは侵害された正規のサーバです。外向きの通信(自社から外への不審な接続)を見ていない組織は、加担していても気づけません。外向き通信の監視は EDRログ管理 の範囲です。

第7章 おわり — 次は第8章

CHAP8

第8章 / 全8章

関連用語と、次に読む記事

この語とセットで覚えると理解が早くなります

能動的サイバー防御 ランサムウェア EDR ゼロデイ DDoS攻撃(準備中) マルウェア(準備中) C2サーバ(準備中)
こんな方に次に読む記事
家の機器が心配IoT機器乗っ取りの真実と対策
ルーターを守りたいルーター乗っ取りとDDNS
自宅の露出を調べたいShodanで調べる
家庭全体の対策を知りたい家庭のサイバーセキュリティ
国の対処を知りたい能動的サイバー防御とは?
更新の優先順位を決めたいゼロデイとは?
だます側の手口を知りたいソーシャルエンジニアリングとは?
用語を一覧で見たいセキュリティ用語辞典

第8章 おわり — 最後にFAQ

FAQ?

よくある質問

ボットネットについてよく聞かれること

検索でよく見かける疑問から

自分の機器が感染しているか、分かりますか?

家庭では、確実に判定する方法はほぼありません。気づかれないことが設計目標だからです。それでも手がかりはあります——①ルーターの管理画面で、見覚えのない機器がつながっていないか ②通信量が不自然に多くないか ③プロバイダから注意の連絡が来ていないか。③は実際にあります。過去の事案では、プロバイダを通じて利用者に駆除が促されました(第6章)。連絡が来たら、放置しないでください。

家庭用ルーターは、何をすればいいですか?

3つです。①ファームウェアを最新にする(自動更新があれば有効化)②管理画面のパスワードを初期値から変える外から管理画面に入れる設定を切る。そしてサポートが終了した製品は買い替えてください。更新が来ない機器は、既知の脆弱性が残り続けます。詳しくは ルーター乗っ取りとDDNS にまとめています。

安い機器は危ないということですか?

価格そのものより、出所と、更新が提供されるかです。警察庁が挙げた例は「購入前の段階で不正なソフトウェアが仕込まれた機器が流通している」ケースでした。判断材料は、①メーカーが特定できるか ②ファームウェアの更新が公開されているか ③サポート期間が明示されているか。この3つが分からない機器は、家庭内ネットワークにつながないのが安全です。

踏み台にされたら、法的な責任を問われますか?

個別の判断は弁護士にご確認ください。一般論として、感染に気づかず踏み台にされただけで直ちに罪に問われるとは考えにくい一方、事情の説明を求められたり、調査に協力することになったりする可能性はあります。実務上より重要なのは、プロバイダから連絡が来たとき、あるいは自社サーバの不審な外向き通信に気づいたときに、放置しないことです。気づいたあとも放置していた、という状態は避けてください。

出典・参考

最終更新:2026年8月17日/次回見直し予定:2027年3月(警察庁の年次資料の公表に合わせて)

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