迷惑メールは64.1%が受け取っている。
でも「フィッシング」と答えた人は9.3%
届いていないのではなく、気づいていないのかもしれません。
「気づいている割合」を47都道府県で比べると、2倍の開きがありました。
⚡ 先に結論(5行)
- フィッシングは全国にばらまかれているのに、「遭った」と答える人の割合は県によって2倍ちがいます。迷惑メールを受け取ったと答えた人は全国で64.1%。そのうち「フィッシング」と答えたのは9.3%で、7人に1人しかその名前で呼んでいません。
- この「気づいている割合」が最も低いのは山形の9.5%、最も高いのは栃木の19.5%(全国14.3%)。同じ量の偽メールが届いていると考えると、差は届いた量ではなく、気づいた人の数の差ということになります。
- ところが「気づいている県=デジタルに強い県」ではありませんでした。パソコンやスマホの操作スキルとも、セキュリティ対策の実施率とも、ほとんど連動しません(相関 +0.23 と +0.09、どちらも誤差の範囲)。
- 連動していたのは「異変に気づいて申告するかどうか」そのものでした。スキルが高い県ほど、迷惑メールを受け取ったと答え(+0.60)、「被害は特にない」と答える人が少なくなります(−0.49)。
- だから、家族に伝えるのは「対策ソフトを入れたか」より先に「知らない番号のリンクを開かないこと」です。ソフトを入れる力と、目の前のSMSを詐欺と見抜く力は、別の力でした。
「被害が少ない県」は、安全な県とは限りません。気づかれていない被害は、統計に出てこないからです。
📋 目次
📖 このデータは何か
総務省が毎年おこなっている「通信利用動向調査」
総務省は毎年、全国の世帯とその家族を対象に「通信利用動向調査」をおこなっています。令和7年の調査では、過去1年間にインターネットを使った35,794人に、こう聞いています。
問:情報通信機器の利用の際に、次のような被害等がありましたか(あてはまるものすべて)
端末の紛失・盗難 / コンピュータウイルスへの感染 / 迷惑メール・架空請求メールを受信 / 個人情報の漏えい / フィッシング / 広告表示 / 違法・有害情報 / 真偽の不確かな情報 / その他 / 特にない
この調査は都道府県ごとに集計されています。1つの県あたり377人から989人の回答があり、47都道府県すべての数字が出せます。
ここで注意したいのは、これが「本人がそう答えた」割合だということです。実際に何通の偽メールが届いたかを機械で測ったものではありません。だからこそ、今回の話が成り立ちます。
📊 64.1%と9.3%のあいだにあるもの
同じ人たちに聞いた、2つの数字
全国の結果は、こうなっています。
📊 過去1年にネットを使った人(35,794人)の回答
| 答えた内容 | 割合 |
|---|---|
| 迷惑メール・架空請求メールを受信した | 64.1% |
| 広告表示(閲覧履歴に関連するもの) | 30.4% |
| 個人情報の漏えい | 14.2% |
| フィッシング | 9.3% |
| コンピュータウイルスへの感染 | 8.5% |
| 特にない | 19.4% |
3人に2人が「迷惑メールや架空請求メールが来た」と答えているのに、「フィッシング」と答えたのは11人に1人です。迷惑メールを受け取ったと答えた人だけを分母にすると、7人に1人になります。
フィッシングは、銀行や宅配業者、通販サイトをかたって偽のサイトに誘い込み、IDやパスワード、カード番号を盗む手口です。架空請求メールとフィッシングメールは、実際にはかなり重なっています。「未納料金があります」というSMSを開いて、偽の支払いページにカード番号を入れれば、それはフィッシングです。
それでも多くの人は、それを「迷惑メール」と呼んで、「フィッシング」とは呼びません。この差が「気づいている度」です。この記事では、次のように計算します。
気づいている度(認識率)の計算
フィッシングと答えた人の割合 ÷ 迷惑メールを受け取ったと答えた人の割合
全国では 9.3% ÷ 64.1% = 約14%。「変なメールが来ていると分かっている人のうち、それをフィッシングと呼んだ人の割合」だと考えてください。届いた量で割ることで、「そもそも届いていないのでは」という疑いを、ある程度打ち消せます。
🗺️ 気づいている度・都道府県ランキング
最も低い県と最も高い県で、2倍の開き
47都道府県で計算すると、9.5%から19.5%まで開きました。全国は14.3%です(人口で重みをつけた値)。
📉 気づいている度が低い10県
| 低い順 | 県 | 気づいている度 | フィッシングと答えた割合 | 迷惑メールを受け取った割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 山形 | 9.5% | 5.4% | 56.7% |
| 2 | 愛媛 | 9.7% | 6.0% | 61.8% |
| 3 | 鹿児島 | 10.2% | 6.2% | 60.8% |
| 4 | 富山 | 10.4% | 6.0% | 57.9% |
| 5 | 群馬 | 10.7% | 6.9% | 64.8% |
| 6 | 静岡 | 10.7% | 7.2% | 67.3% |
| 7 | 福島 | 10.9% | 6.8% | 62.5% |
| 8 | 島根 | 10.9% | 6.2% | 56.8% |
| 9 | 鳥取 | 11.0% | 6.7% | 60.9% |
| 10 | 愛知 | 11.0% | 7.3% | 66.2% |
📈 気づいている度が高い10県
| 高い順 | 県 | 気づいている度 | フィッシングと答えた割合 | 迷惑メールを受け取った割合 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 栃木 | 19.5% | 11.3% | 58.0% |
| 2 | 東京 | 19.0% | 13.8% | 72.8% |
| 3 | 長野 | 17.7% | 11.1% | 62.8% |
| 4 | 奈良 | 16.7% | 10.4% | 62.2% |
| 5 | 神奈川 | 16.7% | 11.0% | 65.9% |
| 6 | 香川 | 16.6% | 9.9% | 59.6% |
| 7 | 和歌山 | 16.5% | 9.6% | 58.3% |
| 8 | 沖縄 | 15.8% | 8.1% | 51.2% |
| 9 | 新潟 | 15.7% | 9.2% | 58.5% |
| 10 | 福井 | 15.3% | 9.0% | 58.7% |
迷惑メールを受け取った割合の列を見てください。どの県も5割から7割で、大きくは変わりません。偽のメールやSMSは、電話番号やメールアドレスに向けて無差別にばらまかれるので、これは当然です。
変わっているのは、それを「フィッシング」と呼ぶかどうかのほうでした。
🔍 デジタルに強い県が、気づいている県ではなかった
予想が外れたところ
ここまで読むと、「気づいていない県は、デジタルが苦手な県なのだろう」と思えます。私もそう予想しました。確かめられる数字が、同じ調査の中にあります。
- 個人のICTスキル……メールへの写真の添付、表計算ソフトでの計算、ソフトのインストールなど9項目のうち、いくつできるか
- セキュリティ対策の実施状況……ソフトの更新、ウイルス対策ソフト、パスワードロックなど9項目のうち、いくつ実施しているか
どちらも都道府県別に出ています。全国平均は、できることが9項目中3.85個、対策が9項目中2.81個、「何らかの対策をしている」人は88.3%でした。
これを、気づいている度と並べたのが次の図です。横軸が右に行くほどデジタルに強い県、縦軸が上に行くほど気づいている県です。もし予想どおりなら、点は右上がりに並ぶはずです。
📊 ICTスキルと、フィッシングの認識率(47都道府県)
点の1つが1つの都道府県。右に行くほどできることが多く、上に行くほどフィッシングと認識している。
並びませんでした。点は散らばったままで、はっきりした傾きがありません。相関は+0.23で、これは誤差の範囲です(統計的に有意ではありません)。セキュリティ対策の数で比べると、さらに薄くなって+0.09でした。
個別に見ると、予想と逆の県がいくつもあります。
🔄 2つの順位が食い違う県
| 県 | 気づいている度(低い順の順位) | ICTスキル(低い順の順位) | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 栃木 | 19.5%(47位) | 3.17(7位) | 気づいているのに、スキルは下から7番目 |
| 高知 | 14.6%(30位) | 2.82(1位) | スキルは全国最下位。でも気づいている度は中位 |
| 長崎 | 15.1%(35位) | 2.90(3位) | スキルは下から3番目。気づいている度は35位 |
| 愛知 | 11.0%(10位) | 4.08(43位) | スキルは上から5番目。でも気づいている度は下から10番目 |
| 富山 | 10.4%(4位) | 3.72(37位) | スキルは中の上。気づいている度は下から4番目 |
| 滋賀 | 11.5%(12位) | 4.02(42位) | スキルは上から6番目。気づいている度は下から12番目 |
| 東京 | 19.0%(46位) | 4.81(47位) | 両方とも高い |
| 山形 | 9.5%(1位) | 3.20(9位) | 両方とも低い |
栃木は、できることの数では下から7番目なのに、フィッシングの認識率は全国で最も高い県でした。高知はスキルが全国最下位ですが、認識率は真ん中あたりです。逆に愛知はスキルが上から5番目なのに、認識率は下から10番目でした。
「リテラシーが低いから詐欺に遭う」とは言えなかった
念のため、気づいている度と特殊詐欺の認知件数(人口10万人あたり)も比べました。相関は+0.21で、こちらも誤差の範囲です。しかも符号はプラス——気づいている県のほうが、詐欺の件数がやや多いくらいでした。
特殊詐欺の件数を決めているのは、主に都市化の度合いです。「気づいていない県ほど詐欺が多い」という関係は、データには出ていません。2つは別の要因で動いています。
👀 では、何と連動していたのか
「気づいて申告する度合い」そのもの
ICTスキルと連動していたのは、フィッシングの認識率ではなく、「何かあった」と答えること全般でした。
📊 ICTスキル(平均できること数)との相関
| 相手の数字 | 相関 | 意味 |
|---|---|---|
| 迷惑メールを受け取ったと答えた割合 | +0.60 | スキルが高い県ほど「来ている」と答える |
| フィッシングと答えた割合 | +0.43 | 同じく「遭った」と答える |
| 「被害等は特にない」と答えた割合 | −0.49 | スキルが高い県ほど「何もない」と答えない |
| 気づいている度(認識率) | +0.23 | 誤差の範囲 |
つまりこうです。デジタルに強い人は、迷惑メールにも、ウイルスにも、フィッシングにも「気づく」。だから「被害は特にない」と答えません。一方、そもそも異変に気づいていない人は、何を聞かれても「特にない」と答えます。
届いた迷惑メールの量で割って調整すると、スキルと認識率の関係は+0.26まで落ちます。スキルが効いているのは「変なメールが来ていると気づく」段階までで、「これはフィッシングという手口だ」と見分ける段階には、はっきり効いていません。
この構造は、他の統計でも繰り返し出てくる
当サイトでは同じパターンを何度も見ています。対策をしている企業ほど「被害あり」と答えるという話がその典型です。ログを取っている企業は被害に気づけるので、被害率が高く出ます。
「被害なし」は、無事だったという意味とは限りません。見る道具を持っていないだけかもしれない——今回の都道府県データも、同じ読み方をする必要があります。
✅ 何ができるか
言葉を知らなくても、行動は変えられる
この結果からいえることは、意外にはっきりしています。
- 「フィッシング」という言葉を覚えてもらう必要はありません。栃木のように、スキルが高くなくても認識率が高い県があります。言葉より先に、行動を1つ決めるほうが早いです。
- 家族に伝えるなら、これだけで足ります。「メールやSMSのリンクからは開かない。公式アプリか、自分で保存したブックマークから開く」。この1つで、偽サイトに誘い込む手口の大半は空振りになります。
- 対策ソフトを入れたことと、見抜けることは別です。全国で88.3%が何らかの対策をしていますが、フィッシングと答えた人は9.3%でした。ソフトは入り口を減らしますが、目の前のSMSを判断してくれるわけではありません。
- 「うちの県は被害が少ないから安心」とは考えないでください。少ないのは、気づかれていないからかもしれません。
都道府県ごとの詐欺の件数そのものは、47都道府県の詐欺データ(自分の県を検索できます)にまとめてあります。あわせて、フィッシングの報告件数が7年で44倍になった話も読んでみてください。
⚠️ 注意点
この数字でいえないこと
- 1県あたりの回答者は377人から989人です。誤差はおよそ±2ポイント。県ごとの1つ2つの順位差には意味がありません。10県くらいをまとめた平均なら読めます。
- 「フィッシング」という言葉を知らない人は、遭っていても選べません。この記事の「気づいている度」は、手口を見抜く力と、言葉を知っているかどうかの両方を含んだ数字です。
- 割り算の分母(迷惑メールを受け取った割合)も、同じ自己申告です。分母にも誤差が乗ります。
- 相関は県単位の傾向であって、あなた個人の話ではありません。スキルが高い個人が気づきやすいかどうかは、この集計では確かめられません。
- 因果の向きは決められません。気づいたから対策したのか、対策していたから気づいたのか、この調査からは分かりません。


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