亡くなった人のアカウントが「オンライン」になっている理由|緑の点の正体を全部つきとめる

デジタル終活とアカウントの安全 / 2026年8月版

亡くなった人のアカウントが、まだ「オンライン」になっている―― その緑の点の正体を、全部つきとめる

葬儀から数か月。友だち一覧のいちばん下で、その人の名前の横に緑の点がついている。本人はもう、何も操作していないのに。これは怪談として本当によくできています。ですがその正体は、8つの容疑者にきれいに分解できます。そして分解し終えたとき、「本当に警戒すべきものは幽霊ではなかった」ことが分かります。

デジタル遺品 デジタル終活 追悼アカウント 休眠アカウント セッション管理 なりすまし

こういう話を、一度は聞いたことがあると思います。

「祖父が亡くなって半年経つのに、メッセージアプリの友だち一覧で、いまだにオンラインになっている
「亡くなった同僚のスマホが、『探す』アプリの地図の上でゆっくり動いている
「もう誰もログインできないはずのアカウントから、深夜に通知が飛んできた

怪談としては、ほぼ満点です。舞台が身近で、証拠がスクリーンショットとして残り、しかも本人に確かめる方法だけが永遠に失われている。これ以上ないくらい、よくできています。

ですが実務の側から見ると、この現象にはちゃんと名前のついた説明が8つあります。しかもその8つを1つずつ潰していくと、最後に残るのは幽霊ではありません。残るのは、訃報の周りに実際に集まってくる、生きている人間の犯罪のほうです。この記事はそこまで行きます。

⚠ 先にお断り:この記事は心霊現象を否定するために書いていません

大切な人を亡くした直後に、その人のアイコンが光っているのを見て「まだそこにいる」と感じることは、まったく自然なことです。この記事はその感情を否定しません。目的は別のところにあります。どれが機械の自動動作で、どれが「今すぐ手を打たないと家族が損をするサイン」なのかを、切り分けられるようにすることです。8つの容疑者のうち、放置していいのは6つ、放置してはいけないのは2つです。その2つを見分けられるようになるのが、この記事のゴールです。

CHAP1

第1章 / 全7章

そもそも、あの緑の点は何を見ているのか

最初に、いちばん大事な事実を1つだけ置きます。

この記事でいちばん覚えて帰ってほしい一行

オンライン表示は「本人がそこにいる」ことを見ていません。「その端末とサーバーの間に、まだ息のある通信路があるか」だけを見ています。誰がその端末の前にいるかは、一切見ていません。

チャットアプリやSNSのオンライン表示は、業界ではプレゼンス(presence=在席情報)と呼ばれる仕組みで動いています。名前こそ「在席」ですが、やっていることは驚くほど素っ気ないものです。

アプリを開くと、端末はサーバーとの間に常時つなぎっぱなしの通信路(WebSocketなどと呼ばれます)を張ります。そして数十秒に一度、「まだ生きてます」という短い信号を送り続けます。心臓の鼓動になぞらえてハートビートと呼ばれます。サーバー側は、その鼓動が届くたびに「最後に見た時刻」を上書きし、一定時間(TTL)以内に次の鼓動が来なければ、勝手にオフラインに落とす。それだけです。

擬似コードにすると、この程度のものです。

// 端末側:アプリが起きている限り、30秒ごとに送るだけ
setInterval(() => {
  socket.send({ type: "heartbeat", user: "user_12345" });
}, 30000);

// サーバー側:鼓動が来たら時刻を上書きするだけ
function onHeartbeat(user) {
  presence[user].lastSeen = Date.now();
  presence[user].status  = "online";
}

// 一定時間、鼓動が途絶えたら落とすだけ
function sweep() {
  for (const u in presence) {
    if (Date.now() - presence[u].lastSeen > TTL) {
      presence[u].status = "offline";   // ← ここで初めて緑の点が消える
    }
  }
}

実際の各社の実装はこれよりずっと複雑ですが、判定の骨格は業界共通です。プレゼンスという概念自体は、インスタントメッセージの標準規格であるXMPP(RFC 3921ほか)の時代から続いています。注目してほしいのは、このコードのどこにも「本人かどうか」を確かめる処理が無いことです。

お気づきでしょうか。本人確認は、この通信路が最初に張られた「たった一回」で終わっています。指紋認証もパスワードもパスキーも、その一回のためのものです。いったん通信路が張られてしまえば、あとはアプリが勝手に鼓動を打ち続けます。持ち主が眠っていても、旅行に出ていても、そして――亡くなっていても、です。

つまり緑の点が意味しているのは、正確にはこうです。

正しい翻訳

「この人はいまオンラインです」ではなく、「この人が最後にログインした端末が、まだ電源とネットワークにつながっていて、アプリが起きています」。この2つは、日本語ではまったく違う文章です。

サービスごとに「消えるまでの時間」がまるで違う

ややこしいのは、この判定基準がサービスごとにバラバラで、しかも各社とも内部仕様をきちんと公開していないことです。以下は公開情報と一般的な観測にもとづく整理で、仕様変更で変わりうることを前提に読んでください。

サービス表示のしかた消えるまでのおおよその挙動誤解されやすい点
Instagram / Messenger 「アクティビティのステータス」(オンライン中/○分前) 操作をやめてから数分で「○分前」に切り替わる アプリを完全に終了していないと、実際には触っていなくても点いたままになることがある
Microsoft Teams 連絡可能/退席中/オフライン モバイルはアプリを背面に回すと「退席中」、24時間操作がないと「オフライン」 「退席中」は席を外した意味ではなく、単にアプリが前面に無いだけ
WhatsApp last seen(最終接続) アプリを閉じた時刻、またはバックグラウンド動作の時刻で更新 「最後に使った時刻」であって「最後に人が触った時刻」とは限らない
LINE オンライン表示そのものが無い 代わりに「既読」が事実上のオンライン表示として読まれてしまう。ここが後述の怪談の温床
各種Webサービス 「最終ログイン」欄 実際のログイン操作ではなく、トークン更新の時刻が入ることがある 本人が触っていなくても日付が更新されうる(第2章で詳述)

ここまでで、怪談の半分は説明がついてしまいました。「オンラインになっている」は、その人の心臓ではなく、その人の端末の鼓動を見ている。では、持ち主がいなくなった端末は、どのくらい鼓動を打ち続けるのでしょうか。それが次の章です。

第1章 おわり ―― 次は第2章「容疑者は8人」
CHAP2

第2章 / 全7章

容疑者は8人 ―― 死後もアカウントが動く理由の全リスト

ここからは推理小説のやり方でいきます。まず容疑者を全員並べ、それぞれの手口(何が起きているのか)と、犯行の頻度(どのくらいよくあるか)を書き出します。

#容疑者実際に起きていること頻度対処
1 自動バックアップ・同期 写真やメモのクラウド同期は、電源とWi-Fiがある限り自動で続く。人が触らなくても通信は発生する 非常に高い 不要
2 アプリのバックグラウンド更新 OSが定期的にアプリを起こし、新着を取りに行かせる。アプリから見れば「起動している」状態になる 非常に高い 不要
3 セッションとトークンの残存 ログイン状態はパスワードではなく端末内のトークンで維持される。トークンは自動で更新され続ける 非常に高い 不要
4 すれ違い通信による位置更新 端末がオフラインでも、近くを通った他人の端末が位置を中継する(後述) 高い 不要
5 予約投稿・連携アプリ 生前に予約した投稿や、連携させた自動投稿サービスが期日どおりに実行される 低い 連携解除
6 プラットフォームの自動生成 誕生日通知、「知り合いかも」、「○年前の思い出」。アルゴリズムが生きている利用者として扱っている 高い 追悼設定
7 家族・遺族のログイン 遺品整理や解約手続きのために、家族が端末やアカウントを操作している
8 第三者による不正アクセス 休眠状態のアカウントが乗っ取られ、他人が中に入っている 低いが実在 要対処

この表の読み方はシンプルです。1〜4は端末が生きている限り自動で起き続ける現象で、止める必要すらありません。5〜7は「人か設定」が背後にいるもので、落ち着いて処理すれば終わります。そして8だけが、放置してはいけないものです。第4章まで進むと、この8番の姿がはっきり見えてきます。

容疑者3をもう少し詳しく:なぜ何か月もログイン状態が続くのか

「パスワードを入れていないのに、なぜログインしたままなのか」。ここが一般には最も分かりにくい部分なので、少し掘り下げます。

現代のサービスは、ログイン状態をパスワードで保持していません。ログインに成功した瞬間に、サーバーは端末に対してトークンという長い文字列を発行します。以降、端末はパスワードではなくこのトークンを見せて「私はさっきログインした人です」と名乗ります。しかもトークンには寿命があるため、期限が切れる前に、アプリが裏で勝手に新しいトークンに交換し続けます。

この交換が止まる条件は、各社が公開しています。たとえばGoogleのOAuth 2.0では、リフレッシュトークンが無効になる条件として「6か月間使われなかった場合」「利用者がアクセスを取り消した場合」「Gmailのスコープを含むトークンで、利用者がパスワードを変更した場合」などが明記されています。

裏を返すと、こうなる

「6か月使われなければ切れる」ということは、使われ続けている限り、半永久的に切れないということです。そして端末の電源が入っていてネットにつながっている限り、アプリは人の意思と関係なくトークンを使い続けます。持ち主が亡くなったことを、システムは知る方法がありません。

容疑者4をもう少し詳しく:オフラインの端末の位置が、なぜ動くのか

「亡くなった人のiPhoneが、地図の上で動いている」――この証言は特に多く、そして特に怖がられます。ですがこれは、Appleが公式に説明している機能そのものです。

Appleの「探す」ネットワークは、端末がインターネットにつながっていなくても位置を報告できるように作られています。仕組みはこうです。オフラインの端末は、暗号化されたBluetoothの信号を静かに発信し続けます。その電波が届く範囲を、まったく無関係の他人のiPhoneが通りかかると、そのiPhoneが信号を拾い、匿名かつ暗号化された形でAppleのサーバーに位置を中継します。持ち主だけが持つ鍵でしか復号できないため、中継した人にもAppleにも中身は見えません。

つまり、引き出しの奥で電源が切れかけているスマホでも、その家の前を誰かがiPhoneを持って歩いただけで、地図上の位置が更新されます。「動いている」ように見えたのは、端末が動いたのではなく、通りすがりの人が動いただけです。

怪談としては台無しですが、技術としてはかなり見事な設計だと思います。

第2章 おわり ―― 次は第3章「目撃証言の検死」
CHAP3

第3章 / 全7章

目撃証言を1件ずつ検死する

容疑者リストが揃ったので、実際によく語られる「目撃証言」を1件ずつ突き合わせていきます。

証言A:「半年ぶりに、急にオンラインになった」

もっとも多い証言です。半年間ずっと灰色だったアイコンに、ある日突然、緑の点が戻る。

もっとも多い正体は、充電です。バッテリーが切れて放置されていた端末に、遺品整理や機種変更の下調べで誰かが電源を挿す。端末が起動する。保存されていたトークンでアプリが自動的にサーバーへつながる。第1章のハートビートが再開する。緑の点が戻る。ここまで、人が意識的に操作した部分は「充電ケーブルを挿した」だけです。

同じことは、端末を初期化する前のOSアップデート、修理業者による通電確認、あるいは家族が「写真だけ取り出したい」と電源を入れた瞬間にも起きます。時期が四十九日や一周忌と重なりやすいのは、単にその時期に遺品整理が行われるからです。

証言B:「『探す』で位置が動いている」

第2章で見たとおり、すれ違い通信によるものです。加えて、遺族がその端末を持って移動していれば、当然そのとおりに動きます。怖い動き方をするのは、むしろ「まったく動かないはずの場所で、数十メートルだけ揺れる」パターンですが、これは測位誤差です。GPSが届きにくい屋内では、Wi-Fiの電波から位置を推定するため、日によって数十メートルずれます。

証言C:「誕生日を祝ってあげてください、と通知が来た」

これは技術的には最も単純で、心情的には最もつらい部類の現象です。SNSのアルゴリズムは、その人が亡くなったことを知りません。誕生日通知も「知り合いかも」も「○年前の思い出」も、生きている利用者に対する処理をそのまま実行しているだけです。

これを止める唯一の方法が、第5章で扱う追悼アカウントへの切り替えです。追悼アカウントになると、誕生日通知や「知り合いかも」などの表示から外れるようになります。逆に言えば、切り替えの手続きをしない限り、システムはその人を生きている人として扱い続けます

証言D:「本人のアカウントからメッセージが届いた」

ここだけは、話が違います。これは怪談ではなく、事件の可能性があります。

第2章の容疑者リストで「要対処」と書いた8番――不正アクセスです。あるいは、故人のプロフィール写真と名前をコピーして作られた別アカウント(なりすまし)である可能性もあります。後者は本人のアカウントが乗っ取られたわけではないので、パスワードを変えても止まりません。友人一覧に片っ端から友達申請を送り、「実は困っていて」と金銭を要求するのが典型的な流れです。

🚨 この2つだけは、怪談として消費してはいけない

①故人のアカウントから、金銭・URL・個人情報を求める連絡が来た②故人と同じ名前・同じ写真のアカウントから、友達申請が届いた。この2つは、幽霊ではなく人間の仕業です。①なら乗っ取り、②ならなりすましです。返信せず、リンクを踏まず、各SNSの通報フォームから「故人のアカウント」として報告してください。そして遺族どうしで「あのアカウントは動いているから触らないで」と共有しておくと、被害が友人関係の中に広がるのを止められます。

証言E:「生きている人のプロフィールに『追悼』と表示された」

最後に、逆向きの怪談も検死しておきます。「まだ生きている自分のアカウントが、勝手に追悼アカウントにされた」という証言です。

これは実際に起きました。2016年11月11日、Facebookで大規模な不具合が発生し、多数の利用者のプロフィール上部に追悼用のメッセージが表示されました。被害者の中には創業者のマーク・ザッカーバーグ氏本人も含まれていました。Facebookは「追悼アカウント向けのメッセージが、誤って他のアカウントにも表示された」と説明し、ひどい誤りだったとして謝罪、短時間で修正しています。

この一件が示しているのは、プラットフォーム上の「生」と「死」は、データベースのフラグが1つ立っているかどうかで決まっているという、身も蓋もない事実です。フラグは間違って立つこともあれば、立て損ねることもあります。

✅ 見分ける3ステップ(これだけ覚えれば十分)

ステップ1:向こうから何か要求されているか? 何も要求されていない(ただ点いている・通知が来るだけ)なら、機械の自動動作です。放置して構いません。
ステップ2:お金・URL・パスワード・個人情報を求められたか? 求められたなら人間の仕業です。返信しないで通報してください。
ステップ3:家族の誰かが端末を触っていないか? 「オンラインになった」の相当数は、これで解決します。遺品整理は複数人で並行して進むので、当人どうしが知らないだけ、というケースが非常に多いです。

第3章 おわり ―― 次は第4章「本当に怖いのは幽霊ではない」
CHAP4

第4章 / 全7章

本当に怖いのは幽霊ではない ―― 訃報の周りに集まってくるもの

ここまでで、緑の点そのものはほぼ無害だと分かりました。ではこの記事の本題です。誰かが亡くなったという情報の周りには、実際に何が集まってくるのか。

攻撃1:AIで量産される「偽の訃報サイト」

2024年前後から、セキュリティ企業各社が繰り返し報告している手口です。攻撃者は、SNSに投稿された短いお悔やみの書き込みなどを機械的に収集し、生成AIで長々とした追悼記事を捏造して、それらしい訃報サイトを大量に作ります。そしてSEO操作(検索エンジン最適化の悪用)によって、故人の名前で検索したときに上位に出るよう押し上げます。

訪問した遺族や友人が待っているのは、追悼のページではありません。広告、寄付の要求、偽の追悼グッズ販売、成人向けサイトへの誘導、そして「あなたはロボットではありませんか」という偽の確認画面を装った、通知許可や不要なアプリのインストールです。研究者は、同じ手法が情報窃取型マルウェアの配布に転用されうる点も指摘しています。

この手口が特に悪質なのは、狙われる人の心理状態が完全に読めている点です。訃報を検索している人は、急いでいて、動揺していて、そして「本当かどうか確かめたい」と強く思っています。普段なら踏まないリンクを踏む条件が、全部そろっています。実際、同僚が亡くなった後に同じ会社の複数の従業員が偽訃報サイトを訪れていた、という観測も報告されています。

攻撃2:解約された電話番号が、他人に再割り当てされる

これは技術的に非常に興味深く、そして実害が大きい問題です。

プリンストン大学の研究チームが2021年に発表した調査があります。米国の大手2社で「新規契約者が今すぐ取得できる」状態にあった電話番号259件を調べたところ、そのうち171件(約66%)が、まだ何らかのオンラインサービスのアカウントに紐づいたままでした。さらに259件のうち100件は、過去の情報漏えいで流出した認証情報とも結びついていました。

意味するところは深刻です。故人の携帯電話を解約すると、その番号は一定期間ののち、まったく別の人に再割り当てされます。もし故人のアカウントに、その番号がSMS認証用として登録されたまま残っていたら――新しい持ち主は、パスワードを知らなくても「パスワードをお忘れですか」から認証コードを受け取れてしまいます。SMSによる二要素認証が、そのまま乗っ取りの入口に反転するわけです。

順番を間違えると、ここで事故が起きる

「まず携帯を解約して、アカウントの整理は落ち着いてから」――これが最も危ない順番です。可能な限り、各サービスから電話番号を外す(またはアカウント自体を閉じる)のを先に、携帯電話の解約を後にしてください。実務上いつもそうできるとは限りませんが、順番を意識しているだけでリスクはかなり違います。

攻撃3:休眠アカウントそのものが狙われる

攻撃者にとって、休眠アカウントは理想的な標的です。理由は3つあります。誰も見ていないので侵入に気づかれないパスワードが古く、使い回されている確率が高い。そして持ち主が絶対に苦情を言わない

手口としては、過去の漏えいで出回っている「メールアドレスとパスワードの組」を、片っ端から他のサービスで試すクレデンシャルスタッフィング(パスワードリスト攻撃)が中心です。この攻撃は、正しいパスワードを使うため、失敗回数の監視では検知しにくいという厄介さがあります。乗っ取られたアカウントは、友人一覧を持つ「信用のある発信元」として、詐欺や広告の踏み台に使われます。

なお、この種の攻撃に対して最も効くのは多要素認証です。当サイトの二段階認証・パスキーの設定方法を解説パスワード使い回しの危険性と対策で、設定の手順を扱っています。自分が元気なうちに済ませておくことが、そのまま遺族を守る準備になります。

攻撃4:訃報のSNS投稿が「留守の告知」になる

最後は、デジタルではなく物理の話です。訃報をSNSで知らせる際、葬儀の日時と場所を書くことは、「その時間、遺族の自宅は無人です」と公開するのと同じになります。総務省をはじめとする公的機関は、長期の外出をリアルタイムで投稿することへの注意を繰り返し呼びかけています。

訃報の連絡そのものをやめる必要はありません。日時と場所は、公開範囲を限定した連絡手段で伝える。ただそれだけで、この経路は塞げます。

第4章 おわり ―― 次は第5章「各社は死をどう扱っているか」
CHAP5

第5章 / 全7章

プラットフォームは「死」をどう扱っているか

ここが実用パートです。主要サービスが用意している仕組みを、「生前に指名できるか」「死後に申請できるか」「放置したらどうなるか」の3点で並べます。

サービス生前に指名できる機能死後の申請放置するとどうなるか
Google あり:アカウント無効化管理ツール(3/6/12/18か月の無操作で発動し、指定した相手に通知やデータを渡せる) 遺族からのリクエスト窓口あり 2年間使われないアカウントは無効とみなされ、削除の対象になりうる(2023年12月1日以降。個人アカウントのみ。定期購入やギフトカード残高がある場合などは除外)
Apple あり:故人アカウント管理連絡先(最大5人まで指定可能) 指定された人がアクセスキーと死亡証明書を提出して申請 iCloudのデータに家族が正規の手段で到達できなくなる
Facebook / Instagram あり:追悼アカウント管理人(日本では2015年から)。または「死後にアカウントを削除する」を選択 遺族からの追悼アカウント移行・削除リクエストあり 誕生日通知や「知り合いかも」に出続ける
X(旧Twitter) なし 遺族からの削除申請の窓口はあるが、追悼機能は用意されていない 非アクティブアカウントの整理対象になりうる(2023年に方針が更新され、ログイン頻度の要件が厳しくなった)
LINE なし 問い合わせフォームから削除を依頼 アカウントが残り続ける。相続して使い続けることは想定されていない

この表から読み取れる、意外な結論

3つ、指摘しておきたいことがあります。

第一に、GoogleとAppleは「生前に指名する仕組み」を持っている数少ないサービスです。しかもこの2社は、スマートフォンそのものの持ち主でもあります。ここを押さえておけば、遺族が端末の中身に到達できる確率が大きく上がります。設定は数分で終わります。

第二に、Googleの「2年で削除されうる」というポリシーは、遺族にとって時限爆弾にも命綱にもなります。放っておけば消えてくれる、とも読めますが、写真やメールが一緒に消えることも意味します。故人が残した写真を家族が見たいと思うなら、2年は驚くほど短い時間です。

第三に、日本でいちばん使われているLINEに、生前指名の機能がありません。これは覚えておく価値があります。トーク履歴を残したいなら、生前のバックアップ設定が事実上の唯一の手段になります。

15分で終わる、いちばん費用対効果の高い作業

Googleの「アカウント無効化管理ツール」と、Appleの「故人アカウント管理連絡先」を設定すること。この2つだけで、遺族が直面する問題のかなりの部分が消えます。国民生活センターも、この2つを名指しで案内しています。無効化管理ツールの待機期間は、入院や長期の旅行で誤って発動しないよう、12か月または18か月といった長めの設定が無難です。

第5章 おわり ―― 次は第6章「実際に届いた3件」
CHAP6

第6章 / 全7章

国民生活センターに、実際に届いた3件

ここで、怪談から完全に離れます。国民生活センターが2024年11月20日に公表した「今から考えておきたい『デジタル終活』」という資料に、実際の相談事例が3件収録されています。どれも幽霊は出てきませんが、この記事で扱ったどの怪談よりも、はるかに現実的に困っています。

事例何が起きたか詰まった場所
事例1
2024年2月受付/60歳代 男性
亡くなった兄がネット銀行に口座を持っていたようだが、契約先が分からない。携帯電話会社の店舗で画面ロックの解除を依頼したところ、「初期化はできるが、画面ロックの解除はできない」と言われた 端末のロック
事例2
2023年10月受付/50歳代 女性
弟が急死。コード決済サービスに数万円の残高があると聞いていたので相続手続きを申し出て、戸籍謄本や住民票も送ったが、1か月経っても残高がいくらかの回答すら得られない 手続きの時間
事例3
2024年7月受付/80歳代 女性
夫の死後、クレジットカードに月約1,000円の不明な請求。セキュリティソフトのサブスクだと判明したが、事業者から「解約するにはIDとパスワードが必要」と言われた ID・パスワード

そして、この資料にはこの記事全体の核心を突く一文が書かれています。

国民生活センターの指摘(要旨)

サブスクの契約は、契約者本人が亡くなっても、解約手続きを行わない限り請求が続く。そして事業者には、契約者が死亡した事実を知る手段がないため、相続人となる遺族などが解約手続きを行う必要がある。

「事業者には、死亡した事実を知る手段がない」。これこそが、この記事で追いかけてきた怪談の正体そのものです。緑の点が消えないのも、誕生日通知が来るのも、毎月1,000円が引き落とされ続けるのも、原因はまったく同じ一点にあります。システムの側には、人の死を知る方法が用意されていない。幽霊がいるからではなく、死を伝える経路が存在しないから、機械は淡々と生きている人向けの処理を続けているのです。

国民生活センターが紹介している、地味だが実用的な工夫

同資料には、パスワードの保管方法として現実的な折衷案が紹介されています。日常的に家族と共有するのはトラブルのもとになる、しかし共有しなければ遺族が詰む――というジレンマへの答えです。

  • 名刺大の紙にパスワードを書き、その部分に修正テープを2〜3回重ねて貼って隠しておく(必要になったとき、遺族がコインなどで削って読み取る)
  • 誰かが削った跡があれば、見られたと分かるのですぐにパスワードを変更する(=改ざん検知になっている)
  • パスワードそのものを書かず、家族にだけ分かる合言葉(「パートナーの誕生日」など)を書いておく方法もある
  • 契約中のサービス名・ID・パスワードを整理しておく(スマホ標準のパスワード管理機能が使える)
  • 法務省と日本司法書士会連合会が公開しているエンディングノートを活用する(無料)

この「修正テープ」の方式、地味に見えてセキュリティ設計としてよくできています。秘密を物理的に隠しつつ、開封の痕跡が残るようにしてある。改ざん検知つきの封印そのものです。デジタルの世界では当たり前の考え方が、名刺サイズの紙の上で成立しています。

なお、パスワードの整理そのものについては、当サイトのGoogle・Appleの無料標準機能 vs 有料の専用アプリもあわせてどうぞ。デジタル終活の第一歩は、結局のところ「自分が今、何と契約しているかを自分が把握していること」に尽きます。

第6章 おわり ―― 次は第7章「いちばん静かな問題」
CHAP7

第7章 / 全7章

いちばん静かな問題は、これから来る

最後に、少しだけ先の話をします。

やがて、死者のほうが多くなる

2019年、オックスフォード大学インターネット研究所のカール・オーマン氏とデイビッド・ワトソン氏が、学術誌『Big Data & Society』に一本の論文を発表しました。国連の人口推計とFacebookの利用者データから、プラットフォーム上の死者の数を推定した研究です。

結論はこうでした。2018年時点の利用者数が今後増えないと仮定した場合、2100年までに少なくとも14億人の利用者が亡くなり、2070年には死者が生者を上回る。逆に利用者が増え続けた場合はその時期は遅れ、22世紀の最初の数十年になると見込まれ、2100年時点の死者は最大49億人に達しうる、というものです。

この数字が突きつけているのは、「オンラインのままの誰か」は例外ではなく、やがて既定になるという事実です。今わたしたちが怪談として語っているものは、数十年後にはネットワークの標準的な風景になります。そのとき、この膨大なデータを誰が管理するのか、誰に権利があるのか。オーマン氏自身が、その問いを研究の主眼に置いています。

そして、故人が「返事をする」時代になった

もう一つ、避けて通れない話があります。

2015年11月、モスクワで、ロマン・マズレンコという34歳の男性が交通事故で亡くなりました。親友だったエフゲニア・クイダ氏は、彼の友人たちのスマホに残っていたメッセージを一つずつ集めてまわり、8,000行を超えるテキストを手にしました。そしてそれを使ってニューラルネットワークを訓練し、彼のように話すチャットボットを作りました。この試みが、のちに世界で1,000万人以上が使うAIコンパニオンアプリ「Replika」へと発展していきます。

それから約10年。今では、故人のデータからAIを作る事業はデジタル・アフターライフ産業という名前で呼ばれるようになりました。2024年5月、ケンブリッジ大学の研究者らが学術誌『Philosophy & Technology』に、この分野の倫理を検討する論文を発表しています。研究者たちが強く警告しているのは、次の点です。

ケンブリッジ大の研究者らが指摘する危険(要旨)

人は、こうしたシミュレーションと強い感情的な結びつきを作ってしまう。そしてそれゆえに、操作に対して極めて脆くなる。研究者らは、故人を模したAIを「終了させる」ための丁寧な手順の設計、十分な透明性の確保、成人利用者への限定、そしてデータを提供した故人と、利用する遺族の双方の同意を原則とすべきだと提言しています。

ここで、第1章の一行に戻ります。オンライン表示は、本人がそこにいることを見ていない。この記事の前半では、それは「機械は死を知らない」という素っ気ない事実でした。しかし故人を模したAIが相手になると、同じ事実がまったく違う重さを持ちます。画面の向こうに人がいるかどうかを、システムは今も昔も判定していない。そして今後は、いないことを技術的に埋め合わせられるようになります。

亡くなった人のアカウントが「オンライン」になっている――この現象は、そう遠くないうちに怪談ではなくなります。それが怪談でなくなったとき、わたしたちが本当に考えなければならないのは、緑の点の意味ではなく、その裏で誰が何を動かしているのかのほうです。

自分の側の設定を、今日15分で済ませておく

この記事の内容のうち、いま行動に移せるのは実質2つだけです。①Googleの「アカウント無効化管理ツール」とAppleの「故人アカウント管理連絡先」を設定する。②自分のアカウントを多要素認証で固めて、休眠時に乗っ取られない状態にしておく。②の手順は下の記事にまとめてあります。

二段階認証・パスキーの設定方法を見る
第7章 おわり ―― 次はよくある質問
Q&A?

よくある質問

よくある質問

Q. 亡くなった家族のアカウントが「オンライン」のままです。急いで対処すべきでしょうか?

A. 表示が点いているだけなら、急ぐ必要はありません。第2章の容疑者1〜4(自動同期、バックグラウンド更新、トークンの残存、すれ違い通信)で説明がつくケースがほとんどで、これらは端末の電源が切れれば自然に止まります。急ぐべきなのは、そのアカウントから金銭・URL・個人情報を求める連絡が来た場合だけです。その場合は返信せず、各サービスの通報窓口へ。

Q. 故人のスマホのロックを、携帯ショップで解除してもらえますか?

A. できません。国民生活センターの事例1がまさにこれで、携帯電話会社の店舗で「初期化はできるが、画面ロックの解除はできない」と回答されています。これはお店が不親切なのではなく、そもそもそういう設計になっているのが理由です。端末のロックは持ち主以外が解除できないよう作られており、通信会社にも解除する手段がありません。だからこそ、生前の準備が唯一の解決策になります。

Q. 故人のアカウントに、家族がログインして中身を見てもいいのでしょうか?

A. パスワードが分かっている場合でも、多くのサービスの利用規約はアカウントの譲渡や第三者による利用を認めていません。正規のルートは、各社が用意している遺族向けの申請窓口(Appleの故人アカウント管理連絡先、Googleの故人アカウントに関するリクエスト、Facebookの追悼アカウント関連リクエストなど)を使うことです。手間はかかりますが、後々のトラブルを避けられます。

Q. LINEのトーク履歴を残したいのですが、方法はありますか?

A. LINEには、AppleやGoogleのような生前指名の機能がありません。本人が生前にバックアップ設定を有効にしていた場合に限り、履歴の一部を保存できることがある、というのが現状です。逆に言えば、大切にしたいトークがあるなら、元気なうちにバックアップ設定を確認しておくのが唯一の備えになります。

Q. 「アカウント無効化管理ツール」を設定して、旅行や入院中に誤って発動しませんか?

A. その懸念はもっともで、だからこそ待機期間を選べるようになっています。3・6・12・18か月から選択でき、長期の不在がありうる方は12か月または18か月を選ぶのが無難です。また、期間の満了が近づくと、登録した電話番号やメールアドレスに事前の通知が届きます。その通知に反応すれば、発動を回避できます。

Q. 故人の名前で検索すると出てくる追悼サイトは、信用していいですか?

A. 慎重に見てください。第4章のとおり、生成AIで捏造された偽の訃報サイトが検索上位に押し上げられる手口が広く報告されています。寄付や追悼グッズの購入を求めてくる、「ロボットではないことを確認」といった画面を挟んでくる、通知の許可を求めてくる――これらはいずれも危険信号です。訃報の確認は、葬儀社の公式サイトや、遺族から直接届いた連絡で行ってください。

Q. 自分が死んだあと、アカウントは自動的に消えますか?

A. サービスによります。Googleは個人アカウントについて、2年間使われないと無効とみなして削除しうるポリシーを2023年12月から適用しています(定期購入やギフトカード残高がある場合などは除外)。一方Facebookのように、手続きをしない限り残り続けるものもあります。「放っておけばいずれ消える」という前提は、写真やメールも一緒に消えることを意味します。残したいものがあるなら、放置は選択肢になりません。

参考にした一次情報・出典

※各サービスの仕様・ポリシーは変更されることがあります。実際に手続きを行う際は、必ず各社の公式ヘルプで最新の内容をご確認ください。本記事は法務・税務上の助言を目的とするものではありません。相続手続きの具体的な判断は、専門家にご相談ください。

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