Microsoft SharePointの重大脆弱性とは?
今すぐ確認したい緊急対策まとめ
2026年7月、オンプレミス版の SharePoint Server で複数の脆弱性が「実際に攻撃されている」と確認されました。しかもこの件の本当の怖さは、CVE番号の数でも CVSS の高さでもありません。パッチを当てても終わらないという点にあります。一次情報だけを使って、順番に整理します。
危険度
⭐⭐⭐⭐⭐
オンプレ運用組織は最優先
最大 CVSS
9.8 / 10
CRITICAL・ネットワーク経由
悪用状況
実際に攻撃中
7月分のうち2件はゼロデイ
対象
オンプレミスのみ
SE / 2019 / 2016
SharePoint Online
リスト外
影響製品に含まれず
📋 この記事の内容(全10章)
「SharePointが攻撃されているとニュースで見たけれど、うちは関係あるのだろうか」「Microsoft 365を使っているだけなのに、何かしないといけないのか」「情シスからパッチを当てたと報告があったから、もう大丈夫なのでは」
2026年7月、Microsoft SharePoint Server をめぐって、こうした問い合わせが多くの組織で起きています。結論から言えば、影響を受けるのはオンプレミス(自社サーバー)で SharePoint Server を動かしている組織だけです。そこは安心してよい部分です。しかしその一方で、対象となる組織にとっては「パッチを当てました」という報告が、実は安全の証明になっていないという、非常にやりにくい性質の攻撃が起きています。
この記事では、CISA・NIST(NVD)・Microsoft・FIRST(EPSS)・JPCERT/CC・IPA といった一次情報で確認できた事実だけを使って、① 何が起きているのか ② あなたの組織は対象なのか ③ 何をどの順番でやるべきか、を整理します。あわせて、この件から学べる「CVSSの数字を信じてはいけない」という、今後どんな脆弱性にも使える判断軸もお伝えします。
⚠️ この記事の前提
本文の内容は2026年7月27日時点で確認できた一次情報にもとづきます。脆弱性の状況・悪用の有無・スコアは日々更新されるため、実際の対応にあたっては必ず Microsoft のセキュリティ更新ガイドおよび CISA KEV カタログで最新の状態を確認してください。また、この記事には攻撃コード・悪用手順・PoCの入手先は一切記載していません。紹介する確認手順や検索クエリは、ご自身の組織が管理する資産に対してのみ使用してください。
🚨 最初に結論 ── 何が起きているのか
忙しい方はこの章だけで判断できます
まず、いま何が確定している事実なのかを3行でまとめます。
2026年7月に確定した3つの事実
1. 実際に攻撃されています。オンプレミス版 SharePoint Server の脆弱性のうち5件が、米国 CISA の「実際に悪用が確認された脆弱性カタログ(KEV)」に登録されました(2026年4月〜7月の累計)。うち7月14日に公開された2件は、修正プログラムが出る前から攻撃されていたゼロデイです。さらに4月公開の CVE-2026-32201 も公開当日に KEV 登録されており、こちらも実質的にゼロデイでした。
2. 到達点はサーバーの乗っ取りです。認証なしでリモートからコードを実行できるもの(RCE)、権限を昇格できるものが含まれます。実際の攻撃では、侵入後にサーバーの署名鍵(IIS machine key)を盗み、マルウェアを設置して居座るところまで到達したと報告されています。
3. パッチだけでは終わりません。CISA はパッチ適用に加えて「AMSIの有効化」「侵害調査」「署名鍵のローテーション」を求めています。しかもこの順番を間違えると意味がなくなります(理由は第3章と第7章)。
そして、多くの読者にとっていちばん大事な切り分けがこれです。
| あなたの環境 | 今回の影響 | やるべきこと |
|---|---|---|
| Microsoft 365 の SharePoint Online だけ | 🟢 影響製品リストに含まれず | 緊急の作業は不要。ただし「社内に自社運用のSharePointが1台も残っていないか」の棚卸しだけは行う |
| SharePoint Server Subscription Edition(自社運用) | 🔴 対象・最優先 | 2026年7月の累積更新プログラム(CU)適用 → AMSI確認 → 侵害調査 → 署名鍵ローテーション |
| SharePoint Server 2019 / 2016(自社運用) | 🔴 対象・最優先+別問題あり | 同上。加えて2026年7月14日で延長サポートが終了しており、今後の脆弱性は修正されない(第8章) |
| SharePoint Server 2013 以前 | 🔴 最も危険 | 2023年4月にサポート終了済み。今回の調査対象にも入っていない=危険かどうかすら公表されない。即座に外部公開をやめ、移行を |
| ハイブリッド構成 | 🔴 オンプレ側は対象 | 自社サーバーが1台でもあれば、その1台は上記と同じ扱い |
影響製品の範囲は NVD および Microsoft のセキュリティ更新ガイドに記載された「影響を受ける製品」リストで確認したものです。そこに含まれるのは SharePoint Enterprise Server 2016 / SharePoint Server 2019 / SharePoint Server Subscription Edition の3つのみで、SharePoint Online(Microsoft 365)は含まれていません。
「うちがどれなのか分からない」場合がいちばん危険です
実務でよくあるのは、本社はMicrosoft 365に移行済みだが、旧システムや部門サーバーとして古いSharePointが1台だけ生き残っているというパターンです。誰も管理していないサーバーは、パッチも当たらず、ログも見られていません。攻撃者にとってこれ以上ありがたい入口はありません。「分からない」は「安全」ではなく「未確認」です。まずは棚卸しから始めてください。
「うちは対象なのか」を先に確かめたい方へ
第6章に6問のセルフ診断を用意しました。判定・対応期限・やるべきこと3件が出ます。クラウド版(Microsoft 365)だけをお使いの方は2タップで結論が出るので、急いでいる方はそちらから読んでも構いません。
危険度セルフ診断へジャンプ →第1章 おわり — 次は第2章
📁 SharePointって何? 会社の「ファイル置き場」
ここが分かれば、なぜ狙われるのかも分かります
SharePoint を一言で言えば、会社の共有ファイル置き場と社内ポータルを兼ねたシステムです。
🏢 SharePointが置かれている位置
社員と社内データの「あいだ」に立っているため、ここを取られると全部が見えてしまいます
この図が、そのまま「なぜ狙われるのか」の答えになっています。攻撃者から見た SharePoint は、1か所を破れば会社の資料が丸ごと手に入る、非常に効率のいい標的です。加えて、社内の他のシステムと連携するために強い権限を持たされていることが多く、そこを足がかりに Active Directory やデータベースへ横に広がっていけるという性質もあります。
「SharePoint Online」と「SharePoint Server」は別物です
今回の件でもっとも誤解が多いのがここです。名前が似ていますが、誰がお守りをするのかが根本的に違います。
| 比べる観点 | SharePoint Online(Microsoft 365) | SharePoint Server(オンプレミス) |
|---|---|---|
| サーバーの置き場所 | Microsoft のデータセンター | 自社(またはクラウド上の自社サーバー) |
| パッチを当てる人 | 🟢 Microsoft | 🔴 あなたの組織 |
| 今回の影響 | 🟢 影響製品リストに含まれない | 🔴 対象(SE / 2019 / 2016) |
| バージョンの概念 | 常に最新(バージョン指定なし) | Subscription Edition / 2019 / 2016 / 2013… |
| サポート終了 | なし(継続提供) | 🔴 2019・2016 は 2026年7月14日で終了 |
「クラウド上で動かしているオンプレ」という落とし穴
調査会社 Censys の観測では、インターネットに露出している SharePoint Server の最も大きな集中は Microsoft 自身のインフラ上にあり、次に AWS・Google Cloud・OVH・DigitalOcean・Hetzner が続きます。ここが紛らわしいところで、クラウド上に置いてあっても、SharePoint Server 自体のパッチ責任は利用者側にあります。「クラウドに載せたからMicrosoftが面倒を見てくれる」わけではありません。判断基準は置き場所ではなく、製品が SharePoint Online なのか SharePoint Server なのかです。
第2章 おわり — 次は第3章
⚡ 何が危険なの? パッチを当てても終わらない理由
この記事でいちばん読んでほしい章です
攻撃の流れ自体は、教科書どおりです。まずはそこを押さえます。
攻撃の全体像
攻撃者 → SharePointの脆弱性を突いて侵入 → 管理者相当の権限を取得 → 社内ファイルを閲覧・持ち出し → Active Directory やデータベースへ横展開 → 情報漏えい/ランサムウェア展開・業務停止
※ 2026年7月の攻撃について、ランサムウェアが展開されたことを示す一次情報は本記事執筆時点で確認できませんでした。ただし2025年の類似事案では実際にランサムウェアが展開されており、到達可能な結末として警戒すべき範囲です。
ここまでは、よくある「サーバーの脆弱性が悪用された」という話です。今回が厄介なのは、この先です。
攻撃者が狙っているのは、データではなく「鍵」
実際の攻撃で観測されているのは、IIS machine key(マシンキー)の窃取です。これが今回の件の中心にあります。順を追って説明します。
ViewState(ビューステート)
SharePoint が動いている ASP.NET という仕組みが、画面の状態をブラウザとやりとりするために使う署名付きのデータです。改ざんされていないことを署名で確かめてから使います。
machine key(マシンキー)
その署名に使う鍵です。サーバー上の web.config という設定ファイルに書かれています。validationKey(検証用)と decryptionKey(復号用)の2つがあります。
デシリアライズ
保存された形のデータを、プログラム上の部品に復元する処理です。信頼できないデータを復元すると、そこに仕込まれた命令が動いてしまうことがあります(CWE-502)。
この3つが揃うと、次のことが起きます。攻撃者が machine key を手に入れると、正規の署名が付いた ViewState を自分のパソコン上で自由に作れるようになります。そして ViewState はサーバー側でプログラム部品に復元される(=デシリアライズされる)ため、そこにコードを実行させる仕掛けを紛れ込ませることができます。
🔑 なぜ「パッチを当てても終わらない」のか
脆弱性をふさいでも、盗まれた鍵は無効になりません。これがこの記事の核心です
これが、「パッチを当てました」という報告が安全の証明にならない理由です。脆弱性を修正しても、盗まれた鍵は自動的に無効になりません。攻撃者は以後、脆弱性を使う必要すらなく、正規の機能として堂々と入ってこられます。ログにも「正しい署名の付いた普通のリクエスト」として記録されるため、気づくのも簡単ではありません。
そして「鍵を先に入れ替えればいい」も間違いです
ここが実務でもっとも間違えやすい点です。CISA は「侵害の痕跡(鍵を収集するツールを含む)を先に捜索・駆除してから、鍵をローテーションせよ」と、わざわざ順序を指定しています。理由は単純で、攻撃者が仕込んだ鍵収集ツールが残ったまま新しい鍵を作ると、その新しい鍵も生成された瞬間に盗まれるからです。掃除をしないまま鍵を替えても、合鍵をまた作られるだけです。
ちなみに、この「鍵を盗んで居座る」という手口は今回が初めてではありません。2025年7月に「ToolShell」と呼ばれた一連の SharePoint 攻撃でも、まったく同じ発想が使われていました。詳しくは第8章で比較します。
そもそも「うちのサーバーは外から見えているのか」を確かめたい方へ
今回の攻撃は、インターネットから直接アクセスできる SharePoint がいちばん危険です。自組織の資産がどう外から見えているかは、Censys のような検索サービスで確認できます。使い方は別記事で基礎から解説しています(他組織を対象にした探索には使わないでください)。
Censysの使用方法をわかりやすく解説 →第3章 おわり — 次は第4章
📊 今回の脆弱性 ── 6件を一覧で整理
数字の読み方まで含めて整理します
2026年7月にオンプレミス版 SharePoint Server をめぐって問題になっている脆弱性は、実は7月に公開されたものだけではありません。4月・5月に公開されていた脆弱性が、7月になって悪用され続けているという構図が混ざっています。まとめて一覧にします。
| CVE番号 | 内容 | CVSS (Microsoft) | CVSS (NVD) | 認証 | KEV追加日 | 是正期限 | EPSS (悪用確率) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| CVE-2026-50522 | リモートコード実行(デシリアライズ) 公開PoCあり・実質的な最大の脅威 |
9.8 | 9.8 | 不要 | 2026-07-22 | 2026-07-25 | 0.571 上位1.03% |
| CVE-2026-56164 | 権限昇格(重要機能の認証欠如) ゼロデイ・公開当日にKEV登録 |
5.3 | 9.8 | 不要 | 2026-07-14 | 2026-07-17 | 0.184 |
| CVE-2026-58644 | リモートコード実行(デシリアライズ) ゼロデイと事後判明 |
9.8 | 9.8 | 不要 | 2026-07-16 | 2026-07-19 | 0.051 |
| CVE-2026-32201 | なりすまし(入力値検証の不備) 2026年4月公開・同日KEV登録 |
6.5 | 6.5 | 不要 | 2026-04-14 | 2026-04-28 | 0.215 |
| CVE-2026-45659 | リモートコード実行(デシリアライズ) 2026年5月公開・7月に悪用開始 |
8.8 | 8.8 | 必要 | 2026-07-01 | 2026-07-04 | 0.091 |
| CVE-2026-55040 | セキュリティ機能のバイパス 悪用は確認されていない |
9.1 | 9.1 | 不要 | — 未登録 | — | 0.013 |
最終確認日:2026年7月27日。CVSSはMicrosoftのセキュリティ更新ガイドおよびNVDの公開値、KEV追加日と是正期限はCISAのKEVカタログ、EPSSはFIRSTのAPI(2026年7月25日基準)で確認した値です。EPSSは「今後30日以内に悪用される確率の推定値」で、1.0が100%にあたります。この表の数字、とくにEPSSは日々変動します。CVE-2026-55040 の「未登録」も、今後KEVに追加される可能性があります。
表の「認証」欄について ── ここは情報が食い違っています(正直に書きます)
CVE-2026-50522 と CVE-2026-58644 の認証要件について、Microsoft 自身の資料の中で記述が矛盾しています。CVSSベクトルは PR:N(権限不要)で、脆弱性の説明文も「unauthorized attacker(認証されていない攻撃者)」と書かれている一方、同じページのFAQ本文には「Site Owner 以上の権限で認証された攻撃者」と書かれています。海外メディアの報道も分かれており、SecurityWeek は「Site Owner が必要」、Rapid7 と Help Net Security は「未認証」としています。
本記事が表で「不要」としている根拠は次のとおりです。CVE-2026-50522 については、セキュリティ企業 Defused が「認証情報を含まないリクエスト」による悪用試行を実際に観測しており、実測の裏付けがあります。一方 CVE-2026-58644 は、根拠がCVSSベクトルのみで実測証拠を確認できていません。この記事は「CVSSの数字を鵜呑みにするな」と申し上げている立場ですので、ここは正直に「争いのある論点」とお伝えします。
実務上の結論は変わりません。どちらの説を採っても、この2件は「至急パッチを当てるべき CVSS 9.8 の脆弱性」です。ただし「認証が必要だから内部の人間だけの問題」と考えて優先度を下げるのは危険です。なお CVE-2026-45659 は明確に認証が必要で(PR:L)、必要な権限は Site Member 以上と報じられています。
この表には、初心者の方にも実務担当者にも役立つ3つの読みどころがあります。順に見ていきます。
読みどころ1:同じCVEに「5.3」と「9.8」の2つの点数が付いている
表の CVE-2026-56164 の行をご覧ください。Microsoft は 5.3(中程度)、NVD(米国政府の脆弱性データベース)は 9.8(緊急)と評価しています。約4.5ポイントの差です。これは誤報ではありません。同じ脆弱性に対して、2つの機関が独立に採点した結果、本当にこれだけ違ったのです。
| 採点者 | 点数 | 影響の評価 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| Microsoft (CVEを採番した当事者) |
5.3 MEDIUM | 機密性への影響:なし 完全性への影響:低 可用性への影響:なし |
「権限が昇格すること自体」の直接的な影響を評価 |
| NVD / NIST (米国標準技術研究所) |
9.8 CRITICAL | 機密性への影響:高 完全性への影響:高 可用性への影響:高 |
「昇格した後に何ができるか」まで含めて評価 |
ここから学べること:CVSSは「絶対の危険度」ではありません
CVSSは、誰がどの範囲まで見て採点したかによって変わる指標です。「CVSSが何点だから優先度はこう」という単純な運用をしていると、今回のように片方の数字だけを見て判断を誤ります。実際、Microsoft自身がこの脆弱性を「悪用を検出済み」に分類し、CISAは公開当日にKEVへ登録して3日以内の修正を求めました。5.3という数字だけを見て後回しにした組織は、判断を誤ったことになります。
読みどころ2:CVSS 9.8 が2件あるが、危険度は11倍違う
CVE-2026-50522 と CVE-2026-58644 は、どちらも CVSS 9.8 です。CVSSだけを見れば同じ危険度です。ところが EPSS を見ると、0.571 と 0.051 で約11倍の差があります。
この差の理由は明確です。CVE-2026-50522 は攻撃コード(PoC)が公開され、その数時間後に実際の悪用の成功が観測されました。セキュリティ企業 watchTowr のおとりサーバー(ハニーポット)が、7月20日のPoC公開後まもなく悪用の成功を記録しています。
さらに注意すべき点があります。PoCが公開される前の7月17日から、すでに悪用の試行そのものは観測されていました(セキュリティ企業 Defused の観測)。つまり「PoCが公開されたから攻撃が始まった」のではなく、先に攻撃が始まっていて、PoC公開が攻撃の規模を一気に押し上げたという順序です。パーセンタイルで見ると、この脆弱性は全CVEの上位1.03%に入る「今まさに使われている」脆弱性です。
優先順位の正しい付け方
① KEVに載っているか(実際に攻撃されているか)→ ② EPSSはどれくらいか(狙われやすいか)→ ③ CVSSは何点か(当たったらどれだけ痛いか)、の順に見ます。CVSSから見始めると、今回のように「9.1なのに悪用ゼロ」「5.3なのに緊急」といったケースで必ず順番を間違えます。
5秒でできる腕試し
次の2つ、先に直すべきなのはどちらでしょう?
選択肢 A
CVE-2026-55040
CVSS 9.1
選択肢 B
CVE-2026-56164
CVSS 5.3
答えを見る
正解は B(CVSS 5.3 のほう)です。
Bの CVE-2026-56164 は、Microsoft 自身が「悪用を検出済み」に分類し、CISA が公開当日に KEV へ登録して3日以内の修正を要求しました。しかも NVD の採点では 9.8 です。一方 Aの CVE-2026-55040 は CVSS 9.1 と高いものの、悪用が確認されておらず、KEVにも登録されておらず、EPSS は 0.013(悪用確率の推定値としてはかなり低い)です。
もし「数字が大きいAが先」と考えたなら、それはごく自然な直感です。そしてその直感が、実務でいちばん多い間違いです。CVSSは「当たったらどれだけ痛いか」を表す指標で、「いま狙われているか」は表していません。
読みどころ3:ならばどの順番で直すのが正しいのか
実務では「全部当てる」が正解ですが、テスト環境の検証や停止調整の都合で順番を決めなければならない場面は必ずあります。上の3ステップで並べ替えると、CVSS順とは違う結果になります。
| CVSSの高い順に並べると | KEV → EPSS → CVSS の順に並べると |
|---|---|
| 1. CVE-2026-50522(9.8) | 1. CVE-2026-50522(悪用中・EPSS最高・公開PoC) |
| 2. CVE-2026-58644(9.8) | 2. CVE-2026-56164(ゼロデイ・悪用中・NVD 9.8) |
| 3. CVE-2026-55040(9.1)← 3位 | 3. CVE-2026-58644(悪用中・9.8) |
| 4. CVE-2026-45659(8.8) | 4. CVE-2026-32201(悪用中だが影響は限定的) |
| 5. CVE-2026-32201(6.5) | 5. CVE-2026-45659(悪用中だが認証が必要) |
| 6. CVE-2026-56164(5.3)← 最下位 | 6. CVE-2026-55040(悪用未確認・EPSS 0.013) |
左右の表で1位と最下位がほぼ入れ替わります
CVSS順では最下位だった CVE-2026-56164(5.3)が、実際には2番目に急ぐべき脆弱性です。逆に CVSS 9.1 で3位だった CVE-2026-55040 は、悪用が確認されておらずEPSSも 0.013 と低いため、実務上の優先度は最下位になります。「点数の高いものから直す」という一見まっとうな運用が、実は最も危険なものを後回しにしていたという、非常に分かりやすい実例です。
実務メモ:ビルド番号を追いかけるより、7月のCUを当てるほうが確実です
各CVEには「このビルド番号以上なら修正済み」という情報が付きますが、CVEごとに番号が異なるうえ、一部は情報源によって値が食い違っています。混乱を避けるには、2026年7月の累積更新プログラム(CU)を適用したうえで、適用が本当に成功したかを検証するのが確実です。SharePoint の更新は、更新プログラムを入れたあとに製品構成ウィザードの実行が必要な場合がある点にも注意してください。CISAが「インストールの成功を検証せよ」とわざわざ書いているのは、ここでつまずく組織が多いからです。
第4章 おわり — 次は第5章
🔍 KEVとは?「実際に攻撃されている」の認定リスト
この記事で何度も出てくる3文字を、ここで片付けます
KEV は Known Exploited Vulnerabilities Catalog の略で、日本語にすると「悪用が確認された脆弱性のカタログ」です。米国のサイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)が運用しています。
KEVを一言でいえば
世の中には毎年何万件もの脆弱性が公表されますが、そのうち実際に攻撃で使われているものは、ごく一部です。KEVは「理論上危ないもの」ではなく「本当に攻撃されている実績があるもの」だけを載せたリストです。つまり、限られた人手をどこに使うべきかを決めるための優先順位表として機能します。
KEVが強い意味を持つのは、これが単なる情報提供ではなく命令の根拠になっている点です。米国の連邦政府機関は、KEVに載った脆弱性を定められた期限までに修正する義務を負います。
ここで注意したいのは、期限は一律ではないことです。CISA は2026年6月10日に運用指令 BOD 26-04 を発出し、「インターネットへの露出」「KEV該当」「自動化して悪用できるか」「技術的影響の大きさ」という4つの変数に応じて、期限を3日・14日・60日の3段階に分ける仕組みへ改めました。かつては2〜3週間の猶予が一般的でしたが、最上位の区分では3日しかありません。
今回のSharePointの5件を見ると、この違いがはっきり出ています。
| CVE番号 | KEV追加日 | 是正期限 | 猶予 |
|---|---|---|---|
| CVE-2026-32201 | 2026-04-14 | 2026-04-28 | 14日(旧運用下) |
| CVE-2026-45659 | 2026-07-01 | 2026-07-04 | 3日 |
| CVE-2026-56164 | 2026-07-14 | 2026-07-17 | 3日 |
| CVE-2026-58644 | 2026-07-16 | 2026-07-19 | 3日 |
| CVE-2026-50522 | 2026-07-22 | 2026-07-25 | 3日 |
4月に登録された CVE-2026-32201 だけが14日で、7月分の4件はすべて3日です。同じ製品の脆弱性でも、登録された時期と評価によって猶予が変わることが分かります。
「3日」という数字が意味すること
米国政府が自国の連邦機関に対して「3日で直せ」と命じたということは、それだけ差し迫った実害が観測されているという意思表示です。義務があるのは米国の連邦機関だけですが、期限の短さは危険度のシグナルとして読めます。日本の民間企業にとっても、「3日期限が付いた脆弱性」は「まずこれから見るべきもの」の目印になります。
CVSS・EPSS・KEV は、何がどう違うのか
脆弱性の「危険度」を表す指標は複数あり、混同されがちです。役割がまったく違うので、一度整理しておくと今後どんな脆弱性が出てきても迷いません。
| 指標 | 何を測っているか | 言い換えると | 限界・注意点 |
|---|---|---|---|
| CVSS 0.0〜10.0 |
その脆弱性が悪用された場合の深刻さ | 「当たったらどれだけ痛いか」 | 採点者によって値が変わる(今回の5.3 vs 9.8)。実際に狙われているかは分からない |
| EPSS 0.0〜1.0 |
今後30日以内に悪用される確率の推定値 | 「狙われやすいか」 | あくまで統計的な推定。毎日更新されるので、値を記事や台帳に固定して信じてはいけない |
| KEV 載っている/いない |
実際に悪用が確認されたか | 「もう攻撃されているか」 | 載っていない=安全ではない。CISAが確認できたものだけが載る。まだ観測されていない攻撃は載らない |
今回、ベンダーとCISAで見解が食い違った例もあります
CVE-2026-45659 と CVE-2026-50522 について、Microsoft のセキュリティ更新ガイド上の「悪用の有無」はいずれも「悪用なし」のままでした(2026年7月27日時点)。しかし CISA は、この2件をそれぞれ7月1日・7月22日にKEVへ登録しています。つまりベンダーが「悪用されていない」と言っている脆弱性が、政府機関のリストでは「悪用中」になっているという状態です。
どちらが正しいかというより、悪用の有無を判断するときは、ベンダーの表記だけを見ずにKEVも突き合わせる必要があるという教訓として受け取るのが実務的です。同様に CVE-2026-58644 は、当初「悪用の可能性は低い」とされていたものが、7月16日にMicrosoft自身によって「悪用を確認」へ改訂されました。初報の分類は変わりうるという前提で運用すべきです。
「更新プログラムって、そんなに大事なの?」から知りたい方へ
KEVや悪用確認済み脆弱性の考え方は、企業のサーバーだけの話ではありません。身近なブラウザの更新でもまったく同じ構造が起きています。同じ「悪用確認済み」の実例を、より身近な題材で解説した記事があります。
Chrome緊急アップデート:悪用確認済み脆弱性とは? →第5章 おわり — 次は第6章
🎯 被害を受けるのは誰か(危険度セルフ診断)
読むのをやめて、6問だけ答えてみてください
ここまでで「何が起きているか」は分かりました。次はあなたの組織が対象なのか、対象ならどれくらい急ぐべきなのかです。まず、危険な条件を並べます。
🔴 当てはまる数が多いほど危険です
- 自社サーバーで SharePoint Server を動かしている(SharePoint Online だけなら対象外)
- インターネットから直接アクセスできる状態にしている(社外から使えるようにしている)
- 2026年7月14日以降の更新プログラムを適用していない
- VPNや認証付きプロキシを経由せず、そのまま公開している
- 管理画面(サーバーの全体管理)に外部からアクセスできる
- バージョンが SharePoint Server 2019 / 2016 / 2013以前(サポートが終了している)
- パッチは当てたが、machine key を入れ替えていない(第3章の理由により、これも危険な状態です)
ただ、この一覧を見ても「自分がどれに当てはまるのか分からない」という方が多いはずです。そこで、6問の質問に答えるだけで、判定と期限、やるべきことが出てくる診断を用意しました。
SELF CHECK
SharePoint 危険度セルフ診断(全6問)
対象かどうか、いつまでに何をすべきかを判定します。クラウド版(Microsoft 365)だけをお使いの方は、2タップで結論が出ます。
質問 1 / 6
あなたの会社で使っている SharePoint は、次のどれですか?
見分け方:ブラウザのアドレス欄が「〇〇.sharepoint.com」で始まっていれば、Microsoft 365 のクラウド版です。社内の独自ドメインやIPアドレスで開いているなら、社内サーバー版の可能性が高いです。
質問 2 / 6
その社内サーバーの SharePoint は、どのバージョンですか?
2019 と 2016 は、2026年7月14日に延長サポートが終了しています。2013以前はさらに前(2023年4月)に終了しています。
質問 3 / 6
そのサーバーは、社外(自宅や外出先)からインターネット経由で開けますか?
今回の攻撃で最も危険なのは、インターネットから直接アクセスできるサーバーです。
質問 4 / 6
2026年7月14日以降に、そのサーバーへ Microsoft の更新プログラムを適用しましたか?
OS の Windows Update だけでは終わりません。SharePoint 固有の累積更新プログラム(CU)を適用し、必要に応じて製品構成ウィザードまで実行できているかで判断してください。
質問 5 / 6
更新プログラムを当てたあとに、「machine key(マシンキー)の入れ替え」をしましたか?
machine key は、サーバーが「本物の通行証」を見分けるための鍵です。これを盗まれていると、更新プログラムを当てても侵入が続くことがあります(第3章の図)。
質問 6 / 6(最後の質問)
鍵を入れ替える前に、すでに侵入されていないか(不審なファイルやログ)を調べましたか?
順序が重要です。調べずに鍵だけを入れ替えると、攻撃者が仕込んだ鍵収集ツールが新しい鍵をその場で盗み直します。
今回の脆弱性の対象は社内サーバー版です。Microsoft 365 の SharePoint は対象外です。
影響を受けると公表されているのは SharePoint Server Subscription Edition / 2019 / 2016(すべてオンプレミス版)です。SharePoint Online のパッチ適用は Microsoft 側で行われるため、あなたの側で緊急に行う作業はありません。ここまで読んでいただいた分の安心は、そのまま受け取ってください。
ただし、ひとつだけ。
過去に社内サーバーで動かしていた SharePoint が、まだ社内のどこかに残っていませんか?
Microsoft 365 へ移行済みの組織でも、旧システムや部門サーバーとして古い SharePoint Server が1台だけ生き残っているケースは珍しくありません。誰も管理していないその1台が、今回の対象です。30秒で終わる棚卸しをお願いします。
まだ確認できていない方へ。社内に依頼するための文面を用意しました。そのままメールやチャットに貼り付けて使えます。
🔒 入力された情報は、どこにも送信・保存されません。この診断はすべてお使いのブラウザの中だけで動作します。組織名・サーバー名・IPアドレスなどを入力する欄は、意図的に用意していません。判定はご回答にもとづく目安であり、実際の対応は自組織の構成と最新の公式情報にもとづいて判断してください。
この診断が「%」を出さない理由
危険度を%で出すツールは分かりやすい一方で、「62%だから、まだ大丈夫」という誤った安心を生みます。今回のように悪用が確認されている脆弱性では、必要なのは点数ではなく「いつまでに、何を、どの順番でやるか」です。そのため、この診断の出力は期限の日付と作業3件に絞っています。組織全体のパッチ運用の遅れを数値で見たい場合は、セキュリティパッチ遅延リスク計算機をあわせてお使いください。役割を分けてあります。
第6章 おわり — 次は第7章
🛠️ 今すぐやること7ステップ ── 順番が命
この章が実務のいちばん重要な部分です
ここからは実際の作業手順です。ステップの順番には意味があります。特にステップ4・5とステップ6は、入れ替えると対策そのものが無効になります。上から順に進めてください。
🗺️ まず全体の順序だけ頭に入れてください
① パッチを当てる → ② 外部公開を確認 → ③ AMSI/Defenderを確認 → ④ ログを調べる → ⑤ 管理者権限を棚卸し → ⑥ 鍵を入れ替える → ⑦ バックアップ確認
⚠️ 絶対に守る1点:⑥(鍵の入れ替え)は、④⑤(調査と駆除)より後です。先に鍵を替えると、攻撃者が仕込んだ鍵収集ツールが新しい鍵をその場で盗み直すため、作業そのものが無駄になります。
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更新プログラムを適用し、適用が成功したことを検証する今すぐ
2026年7月の累積更新プログラム(CU)を適用します。OSのWindows Updateだけでは終わりません。SharePoint の更新は製品固有の更新として提供され、適用後に製品構成ウィザードの実行が必要な場合があります。
そして、ここがCISAがわざわざ念を押している点です。「適用したつもりで失敗している」ケースが実際に多いため、適用後にビルド番号を確認し、更新が本当に反映されたことを検証してください。ファーム構成(複数のサーバーを束ねて1つのSharePointとして動かす構成のこと)の場合は、全サーバーに適用されているかも確認します。
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インターネットへの公開状況を確認する今すぐ
今回の攻撃で最も危険なのは、インターネットから直接アクセスできる SharePoint です。CISAの推奨は明確で(以下は原文の要旨です)、「直接公開を避け、必要な場合は認証を行う L7 リバースプロキシの背後に置く」「Central Administration(管理画面)への外部アクセスをブロックする」です。ここでいう L7(レイヤー7)リバースプロキシとは、通信の中身(HTTP)まで見て振り分けを行う中継サーバーのことで、「認証を行う」とは、その中継サーバーの段階でログインを要求してから SharePoint に通す、という意味です。
自組織の資産が外からどう見えているかは、Censys や Shodan で確認できます。自社のIP範囲やASNに限定して調べてください。
# Censys ── 自組織のASNに限定して SharePoint Server を探す
# 「自組織のASN」の部分は自社の値に置き換えてください # web.software 側も併記しないと、Webサービスとして認識された分を取りこぼします (host.services.software:(vendor:"microsoft" and product:"sharepoint_server") or web.software:(vendor:"microsoft" and product:"sharepoint_server")) and host.autonomous_system.asn = 自組織のASN
# Shodan ── 自社のIP範囲・組織名に限定して探す
# net: に自社のCIDR、または org: に自社の登録組織名を入れる "MicrosoftSharePointTeamServices" net:203.0.113.0/24 "MicrosoftSharePointTeamServices" org:"自社の登録組織名"
ASN とは
AS番号(Autonomous System Number)は、インターネット上でIPアドレスの塊を管理している組織に割り当てられた識別番号です。自社でIPアドレスを保有していればその番号、そうでなければ契約しているISPやクラウド事業者の番号になります。自社のASNが分からない場合は、Censys や Shodan で自社の代表的なIPアドレスを1つ調べれば表示されます。クラウド事業者のASNで検索すると他社のサーバーも大量に出てくるため、その場合は自社のIP範囲(CIDR)で絞ってください。
🚨 重要これらの検索は自組織が管理する資産の確認のみに使ってください。他組織の脆弱なサーバーを探す行為は、目的によっては不正アクセス禁止法などに触れる可能性があります。使い方の詳細はCensysの解説記事およびShodanのリファレンスをご確認ください。
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AMSI と Microsoft Defender の状態を確認する今日中
AMSI(Antimalware Scan Interface)は、Windows のマルウェアスキャン連携の仕組みです。SharePoint ではHTTPリクエスト自体を検査できるため、今回の種類の攻撃に対する非常に有効な緩和策になります。
CISAは「AMSI連携が各Webアプリケーションで有効になっているか確認せよ」「可能ならリクエストボディのスキャンを Full Mode に」と推奨しています。「各Webアプリケーションで」という表現が重要です。設定はWebアプリケーションごとに個別なので、1つ有効でも他が無効という状態が起こりえます。
# リクエストボディのスキャンを Full Mode にする(Subscription Edition 25H1 以降)
$webApp = Get-SPWebApplication -Identity "http://(対象のURL)" $webApp.AMSIBodyScanMode = 2 # 0=Off, 1=Balanced(既定), 2=Full $webApp.Update() # モードを切り替えたときは iisreset、またはアプリプールの再利用が # 必要になる場合があります(Microsoft公式のコード例にも同じ注記あり)
なお、ボディスキャンは Subscription Edition のみで使えます(Early Release リングで先行提供され、Standard リングでは2025年9月の更新プログラム以降)。2019 / 2016 ではヘッダー等の検査までとなります。また、2025年9月の更新プログラム以降、AMSI連携は無効化できない必須コンポーネントになりましたが、それ以前から運用している環境では過去に無効化されたままの可能性があります。必ず実際の状態を確認してください。
Microsoft Defender ウイルス対策側では、今回の攻撃に対応する検知名として以下が確認されています。これらの検知履歴がないかを確認してください。
検知名 何を捉えるか Exploit:Script/ToolPaneAuthBypass.AToolPane系の認証バイパス(リクエストヘッダーの検査。全バージョン) Exploit:Script/ToolPaneAuthBypass.C同系統のコード実行までをカバーする検知 Exploit:Script/SuspSignoutReqBody.A疑わしいサインアウトリクエストのボディ(ボディスキャン。Subscription Edition のみ) Backdoor:MSIL/LeakFang.A!dha侵害後の署名鍵へのアクセス=鍵収集ツールに対応する検知。この記事の核心にあたる部分なので、最も注意して確認してください あわせてCISAは、SharePointサーバーとデータベースの間の通信、およびファーム内の通信を必要な範囲に制限することも求めています。侵入されたあとの横展開を狭めるための措置です。
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ログを確認し、侵害の痕跡を探す今日中
パッチを当てたから調査は不要、ではありません。すでに侵入されていた場合、パッチは何も解決していません。以下を確認します。
見る場所 探すもの IISログ C:\inetpub\logs\LogFiles\W3SVC(サイトID)\/_layouts/15/ToolPane.aspxまたは/_layouts/16/ToolPane.aspxへのPOSTリクエスト。Referer が SignOut.aspx に偽装されているもの。_layouts配下への異常に長いURIや見慣れないUser-AgentWebシェルの捜索
Webルート配下および...\Web Server Extensions\16\TEMPLATE\LAYOUTS\覚えのない新規・更新された .aspx ファイル。作成日時が攻撃時期と重なるもの 設定ファイルの改変 web.configの machineKey セクションの変更、applicationHost.configへの見慣れないIISモジュールの登録プロセスの振る舞い
最も信頼できる手がかりw3wp.exe(IISのワーカープロセス)がcmd.exe/powershell.exe/csc.exe(C#のコンパイラ。攻撃コードをその場で組み立てるのに使われます)を子プロセスとして起動している形跡。SharePointの通常運用でこれが起きることはほぼありません永続化の仕掛け 新規のスケジュールタスク・サービス・レジストリのRunキー、覚えのないローカル/ドメインアカウント 横展開の兆候 SharePointサーバーからの外向きのSMB / RDP / WinRM 通信、ファームアカウントの異常な利用 ⚠ 注意:特定のファイル名を探すだけでは不十分ですネット上には
spinstall0.aspxなどのファイル名が「SharePoint攻撃の痕跡」として流通していますが、これは2025年の別の攻撃キャンペーンで使われたものです。2026年7月の攻撃については、Rapid7 が「公開されているネットワークベースのIOC(侵害指標)は存在しない」と明記しています。ファイル名の一致に頼らず、上記の「振る舞い」で探してください。なお、上の表に挙げた
ToolPane.aspxへのPOSTや SignOut.aspx への Referer 偽装も、2025年に観測されたパターンと、Defender の検知名に「ToolPaneAuthBypass」が含まれることから「同系統と推定される振る舞い」です。2026年の攻撃について確定した公開IOCとして示されているものではありません。それでも探す価値は十分にありますが、これに一致しなかったことを「侵害なし」の証明にはしないでください。 -
管理者権限と追加アカウントを棚卸しする今日中
攻撃者が最初にやることの一つが、自分用の管理者アカウントを作ることです。以下を確認してください。
● SharePoint のファーム管理者・サイトコレクション管理者(サイトの集まりごとに置かれる管理権限)に覚えのないアカウントが追加されていないか
● サーバーのローカル管理者グループ、およびドメインの特権グループに予定外のメンバーがいないか
● サービスアカウントの権限がいつのまにか強くなっていないか
● 退職者・異動者のアカウントが残ったまま有効になっていないかログ調査の具体的な進め方は、Windowsイベントログ・Sysmonの読み方で詳しく解説しています。
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machine key をローテーションする ── ステップ4・5の駆除が終わってから駆除後すぐ
第3章で説明したとおり、盗まれた署名鍵は、パッチを当てても無効になりません。無効化するには鍵そのものを作り替える(ローテーションする)必要があります。Microsoft が公式に手順を示しています。
# machine key のローテーション(PowerShell・Microsoft公式手順)
# 1) 新しい鍵を生成・設定する(鍵を省略するとランダム生成される) # -Local を付けなければ、既定でファーム内の全サーバーへ配布される Set-SPMachineKey -WebApplication (対象のWebアプリケーション) # 2) 1) で -Local を付けて局所適用した場合のみ、他サーバーへ配布する Update-SPMachineKey -WebApplication (対象のWebアプリケーション) # 3) 全SharePointサーバーでIISを再起動する iisreset.exe
1) と 2) は Microsoft Learn「Improved ASP.NET view state security and key management」に記載された手順です。3) の
iisresetは同ページには記載がなく、2025年に Microsoft が出した緊急ガイダンス由来の手順です。画面から実行したい場合は、サーバーの全体管理 → 監視 → ジョブ定義の管理 → Machine Key Rotation Job → 今すぐ実行でも同じことができます。日本語UIでは「監視」ページの「タイマー ジョブ」グループの中にあります。
🚨 重要:順序を間違えると、この作業は無意味になりますCISAは「侵害痕跡(鍵を収集するツールを含む)を先に捜索・駆除してから、鍵をローテーションせよ」と順序を明示しています。攻撃者が鍵収集ツールを残したまま新しい鍵を作れば、その新しい鍵も生成された瞬間に盗まれます。合鍵を作り直しても、泥棒が家の中にいたままなら意味がないのと同じです。
また、
-Localオプションはローカルサーバーだけに反映されます。ファーム構成で負荷分散している環境では全台で鍵が揃っていないとセッションが失敗するため、原則として全台へ配布してください。なお、Subscription Edition の 25H1 および 2019 / 2016 の2025年9月更新プログラム以降は、毎週日曜に鍵を自動ローテーションするタイマージョブが標準で用意されています。ただし「侵害されたと分かった直後」は自動を待たず手動で実行してください。また Subscription Edition は
web.configの machineKey セクションを既定で暗号化しており、設定ファイルを読まれても鍵が露出しにくくなっています。この保護は 2019 / 2016 にはありません。 -
バックアップの健全性を確かめ、必要ならパスワードを変更する今週中
ここまでの調査で侵害の可能性が出てきた場合、あるいは念のための備えとして、次を確認します。
● バックアップが実際に復元できるかを検証する(取得しているだけで復元テストをしていない組織が非常に多いです)
● バックアップが攻撃者から書き換えられない場所にあるか(ネットワークから切り離したオフライン保管、または一度書いたら変更・削除ができない「イミュータブル保管」)
● ランサムウェアに展開された場合の初動手順が用意されているかパスワードの変更は侵害が疑われる場合に限って実施します。対象は SharePoint のファームアカウント・サービスアカウント、そしてそのサーバーで認証情報を扱っていた特権アカウントです。侵害が確認された環境では、パスワードだけでなくKerberosのkrbtgtアカウントやトークン類の扱いまで含めた本格的な封じ込めが必要になります。ここは自組織だけで判断せず、専門のインシデント対応を検討する段階です。
「もう入られていた」と分かった場合の初動手順
調査の結果、侵害の可能性が濃厚になった場合、その時点から必要なのは脆弱性対応ではなくインシデント対応です。誰に報告し、何を保全し、どこから切り離すか。手順を先に決めておくかどうかで被害の広がりが変わります。
インシデント対応プレイブック完全ガイド →第7章 おわり — 次は第8章
🏢 日本企業への影響と、日米の温度差
日本語の情報だけを見ていると、危険度を見誤ります
SharePoint Server(オンプレミス)は、日本では一般に官公庁・地方自治体・大手製造業・医療機関・金融といった、外部クラウドへの移行に慎重な組織で使われていると言われています。機密資料や個人情報を自社の管理下に置きたいという要請があるためです。ただし、日本国内でのオンプレミス版 SharePoint の利用実態を示す統計は、本記事執筆時点では見つけられませんでしたので、以下は業種の傾向についての一般的な指摘としてお読みください。
ところがそれは同時に、攻撃が成功した場合にもっとも影響の大きい種類の組織が、もっとも影響を受ける構成を選んでいるという意味になります。到達点は情報漏えい・業務停止・ランサムウェアです。
日米で、警戒レベルが明確に違っています
ここは、この記事でお伝えしたい重要な点です。日本語の情報源だけを見ていると、今回の件は「月例のセキュリティ更新に含まれる、悪用確認済みの脆弱性が1件」という見え方になります。しかし米国側の扱いは、まったく違います。
| 観点 | 米国(CISA) | 日本(JPCERT/CC・IPA) |
|---|---|---|
| SharePoint専用の勧告 | ○ 2026年7月14日に「SharePointのハードニングを急げ」という専用アラートを発行 | ✕ SharePoint単独の注意喚起は発行されていない |
| 悪用中として挙げた SharePointのCVE (2026年4月〜7月) |
5件 32201 / 45659 / 56164 / 58644 / 50522 |
2件 4月:CVE-2026-32201 7月:CVE-2026-56164 (7月はAD FSの CVE-2026-56155 とあわせて2件を悪用確認済みとして掲載) |
| 修正の期限 | 連邦機関に対する是正義務あり。7月分は KEV追加から3日(4月の32201は14日) | 期限の定めなし(注意喚起・推奨) |
| パッチ以外の要求 | AMSI有効化・侵害調査・署名鍵のローテーション・外部公開の停止まで具体的に指示 | 月例更新の適用推奨が中心 |
| 過去(2025年ToolShell)の対応 | KEV登録・Microsoftが攻撃者を名指しで公表 | ✕ このときもSharePoint専用の注意喚起は発行されていない |
JPCERT/CC・IPA の対応状況は、2026年4月と7月の月例注意喚起(JPCERT/CC「2026年4月/7月マイクロソフトセキュリティ更新プログラムに関する注意喚起」および IPA「Microsoft製品の脆弱性対策について(2026年7月)」)と、JPCERT/CC の2025年・2026年の注意喚起一覧を確認した結果です。比較期間は両列とも2026年4月〜7月にそろえてあります。両機関は Fortinet・Ivanti・Citrix などについては専用の注意喚起を出しており、SharePoint に出していないこと自体が特定の意図を示すものではありませんが、結果として日本語で得られる情報量に差が生じています。
実務上の教訓
差は「5件 対 2件」で、日本側で触れられていないのは CVE-2026-45659・CVE-2026-58644・CVE-2026-50522 の3件です。とくに CVE-2026-50522 は、この6件のなかで EPSS が最も高く、攻撃コードも公開されている実質的な最大の脅威ですが、日本語の月例注意喚起には登場しません。
これは「日本の機関の対応が悪い」という話ではありません。JPCERT/CCやIPAの注意喚起に載っていないことは、危険でないことを意味しないという、運用上の前提の話です。オンプレミスのサーバー製品を運用しているなら、日本語の注意喚起だけでなく、CISA の KEV カタログを直接見る習慣を持つほうが安全です。KEVはWeb画面でもJSON形式でも公開されており、無料で誰でも参照できます。
露出台数は、調査機関によって大きく違います
「世界で何台が危険なのか」という数字を見かけますが、これは調べ方によって桁が変わります。正直に併記します。
| 調査元 | 台数 | 時期 |
|---|---|---|
| Censys(自社スキャン) | インターネットに露出したオンプレミス版 SharePoint 約1,500台(SharePoint 2019 が中心) | 2026年7月17日 |
| Shadowserver(報道経由) | 露出 約10,000台、うち 800台超が未パッチ ※この「800台超」は CVE-2026-32201 と CVE-2026-45659 に対する未パッチ台数です。7月14日公開のゼロデイに対する未パッチ台数は示されていません | 2026年7月15日 |
約7倍の差があります。これは「どちらかが間違っている」というより、SharePointだと判定する条件の厳しさが違うためと考えられます(この理由を明言した一次情報は見つけられませんでした)。いずれにしても、数千台規模のサーバーが外から見える状態にあり、その一部にパッチが当たっていないという点は共通しています。
Censys の観測では、露出しているサーバーの最も大きな集中は Microsoft 自身のインフラ上にあり、次に AWS・Google Cloud・OVH・DigitalOcean・Hetzner が続きます。国別では米国が最多で、ドイツ・フランス・カナダ・イラン・オーストラリアが挙げられています。日本は上位国として挙げられていません。日本国内の被害事例が公表されたという情報も、執筆時点では確認できていません。
2025年と2026年、同じ手口が2年連続で通用してしまった
SharePoint のオンプレミス版が大規模に狙われたのは、今回が初めてではありません。ちょうど1年前の2025年7月にも「ToolShell」と呼ばれる一連の攻撃が起きています。並べると、構造の連続性がはっきり見えます。
| 観点 | 2025年7月「ToolShell」 | 2026年7月(今回) |
|---|---|---|
| 影響範囲 | オンプレミスのみ(Onlineは対象外) | オンプレミスのみ(同じ) |
| 攻撃の入口 | ToolPane.aspx(Referer を SignOut.aspx に偽装) | Defender の検知名が ToolPaneAuthBypass =同系統 |
| 署名鍵の窃取 | ○ あり | ○ あり(「単一のリクエストで鍵を抜いている」との観測) |
| パッチ提供 | 緊急の帯域外パッチ | 通常のPatch Tuesday(7月14日) |
| 攻撃者の特定 | Microsoft が中国系グループを名指しで公表 | ✕ CISAもMicrosoftも公式な帰属を行っていない |
| ランサムウェア | ○ 実際に展開された | 展開を示す一次情報は確認できず |
ここで、よくある誤りを1つ正しておきます
今回の攻撃について、2025年の攻撃グループ名をそのまま当てはめている解説を見かけますが、これは正確ではありません。2026年7月の攻撃について、CISA も Microsoft も特定の攻撃者への帰属を公表していません。攻撃の手口が似ていることと、同じグループが実行したことは別の話です。「同じ手口が2年連続で通用してしまった」までが、事実として言える範囲です。
そして、この記事でいちばん見落とされている事実
ここまで脆弱性の話をしてきましたが、実は2026年7月14日という日付には、もう一つの意味があります。
Microsoft の公式製品ライフサイクル情報で確認できる事実です。今回の Patch Tuesday とまったく同じ日付です。つまり、今回配布された更新プログラムが、2016 と 2019 にとって最後のセキュリティ更新になります。
これが何を意味するか。今後 SharePoint Server 2016 / 2019 に新しい脆弱性が見つかっても、修正プログラムは提供されません。有償の延長セキュリティ更新(ESU)も用意されていません。今回のように「悪用確認済みの緊急脆弱性」が出たとしても、パッチを待つという選択肢そのものが存在しなくなります。
SharePoint Server 2016 / 2019 の延長サポート終了からの経過時間
終了日:2026年7月14日(日本時間の同日0時を起点に計算しています。Microsoft の公式表記は米国太平洋時間の7月14日いっぱいまでのため、厳密には1〜2日ほど多めに表示されます)/ この数字は、あなたがこのページを開くたびに増え続けます。Subscription Edition をお使いの場合は該当しません。/ 本文の最終確認日:2026年7月27日
この数字が意味しているのは、「あと何日で危なくなる」ではなく「すでに何日、修理してもらえない状態が続いているか」です。半年後にこの記事を読んだ方の画面には、もっと大きな数字が表示されます。時間が経つほど状況が悪化する種類のリスクであることを、数字で確認しておいてください。
| バージョン | サポート状況 | パッチ | AMSIボディスキャン | machineKey 既定で暗号化 | 鍵の自動 ローテーション |
|---|---|---|---|---|---|
| Subscription Edition | 🟢 継続提供 | ○ | ○(25H1以降) | ○ | ○ |
| SharePoint 2019 | 🔴 2026-07-14 終了 | ✕ 今後なし | ✕ | ✕ | ○(2025年9月更新以降) |
| SharePoint 2016 | 🔴 2026-07-14 終了 | ✕ 今後なし | ✕ | ✕ | ○(2025年9月更新以降) |
| SharePoint 2013 以前 | 🔴 2023-04-11 終了 | ✕ | ✕ | ✕ | ✕ |
この表を見ると、Subscription Edition だけが全ての防御機能を備えていることが分かります。特に「machineKey が既定で暗号化されている」は今回の攻撃に直接効く保護であり、2019 / 2016 には存在しません。移行を検討する技術的な根拠になります。
SharePoint 2013 以前を使っている場合、状況はさらに深刻です
2013以前は今回のCVEの調査対象にすら含まれていません。これは「パッチが出ない」より一段悪い状態です。同じ種類の脆弱性が存在していても、危険かどうかすら公表されないということです。さらに、AMSIによる緩和も署名鍵のローテーションも機能自体が存在しないため、今回CISAが示した対策のほとんどが技術的に実行できません。
この場合の現実的な打ち手は3つです。① 直ちにインターネットから切り離す(社内限定/VPN内/認証付きプロキシの背後へ)② Subscription Edition または SharePoint Online への移行計画を今すぐ立てる ③ 移行が終わるまでは、ネットワーク分離とWAFで時間を稼ぎ、侵害されている前提で調査する。
第8章 おわり — 次は第9章
❓ よくある質問(FAQ)
問い合わせが多い順に並べました
Microsoft 365 を使っています。何かしないといけませんか?
今回の脆弱性の影響を受ける製品として公表されているのは、SharePoint Server Subscription Edition / 2019 / 2016 の3つ(すべてオンプレミス版)だけです。Microsoft 365 の SharePoint Online はこのリストに含まれておらず、パッチ適用は Microsoft 側で行われます。利用者側の作業は不要です。
ただし1つだけ確認をおすすめします。社内にオンプレミスの SharePoint が1台も残っていないかです。Microsoft 365 へ移行済みの組織でも、旧システムや部門サーバーとして古い SharePoint が生き残っているケースは珍しくありません。その1台が対象になります。
SharePoint Online も危険だと聞きました。本当ですか?
今回の6件のCVEに関しては、SharePoint Online は影響製品リストに含まれていません。「危険」という情報を見かけた場合、オンプレミス版の話が混同されている可能性が高いです。
なお正確に申し上げると、「SharePoint Online は影響を受けない」と2026年のこれらのCVEについて明言した Microsoft の公式文そのものは確認できませんでした。根拠は「影響を受ける製品リストに含まれていないこと」です。
ただし補強となる前例があります。2025年7月の SharePoint 脆弱性(CVE-2025-53770)についての Microsoft の顧客向けガイダンスには、「これらの脆弱性はオンプレミスの SharePoint Server にのみ該当し、Microsoft 365 の SharePoint Online は影響を受けない」と明記されていました。今回も CISA のアラートが一貫して「オンプレミス」と限定していることを合わせると、実務上は「対象外」と判断して差し支えありません。
とはいえ、「クラウドだから何があっても安全」という一般論として受け取るのは間違いです。今回はたまたまオンプレミス側だけが対象だった、という限定的な話です。
Windows Update を当てれば直りますか?
それだけでは終わりません。SharePoint Server の修正は製品固有の累積更新プログラム(CU)として提供され、適用後に製品構成ウィザードの実行が必要になる場合があります。OSの更新だけを見て「当たっている」と判断すると、実際には修正が反映されていないことがあります。
CISAが「パッチを適用し、インストールが成功したことを検証せよ」とわざわざ書いているのは、この工程でつまずく組織が実際に多いためです。適用後にビルド番号を確認してください。
パッチを当てました。これで対応は完了ですか?
いいえ。今回の件で最も危険な誤解がこれです。攻撃者はサーバーの署名鍵(IIS machine key)を盗んでいる可能性があります。鍵を盗まれている場合、脆弱性を修正しても、正規の署名が付いたリクエストとして侵入され続けます(第3章の図)。
必要なのは「パッチ適用 → AMSI確認 → 侵害調査と駆除 → 署名鍵のローテーション」までのセットです。しかもこの順番でなければなりません。詳しくは第7章をご覧ください。
中小企業も対象になりますか?
規模ではなく構成で決まります。従業員数が少なくても、自社サーバーで SharePoint Server を動かしていれば対象です。逆に大企業でも SharePoint Online だけなら対象外です。
むしろ中小企業のほうが注意が必要な面もあります。専任のセキュリティ担当者がいない組織では、パッチ適用そのものが後回しになり、ログも監視されていないことが多いためです。Shadowserver の観測では、露出しているサーバーのうち800台以上が CVE-2026-32201 と CVE-2026-45659 に対して未パッチのままでした(この2件は4月・5月に公開されたもので、7月時点でも放置されていたことになります)。
CVSS が 5.3 と低いのに、なぜ緊急なのですか?
CVE-2026-56164 のことですね。Microsoft の採点が 5.3、NVD(米国標準技術研究所)の採点が 9.8 で、同じ脆弱性に2つの点数が付いています(第4章)。加えて、Microsoft 自身がこれを「悪用を検出済み」に分類し、CISA は公開当日にKEVへ登録して3日以内の修正を要求しました。
CVSSは「当たったらどれだけ痛いか」の指標で、「実際に狙われているか」は表していません。優先順位は KEV(悪用されているか)→ EPSS(狙われやすいか)→ CVSS(深刻度)の順で見てください。
SharePoint Server 2019 を使っています。次のパッチはいつ出ますか?
出ません。SharePoint Server 2019 および 2016 の延長サポートは2026年7月14日に終了しました(Microsoft 公式のライフサイクル情報)。今回配布された更新プログラムが、この2バージョンにとって最後のセキュリティ更新です。有償の延長セキュリティ更新(ESU)も提供されていません。
したがって、これから取るべき行動は「次のパッチを待つ」ではなく、「インターネットからの露出を止める」と「Subscription Edition または SharePoint Online への移行を計画する」になります。
攻撃されたかどうか、自分で確認できますか?
ある程度は可能です。第7章のステップ4に、確認すべきログの場所と探すべきパターンをまとめています。特に確認しやすいのはw3wp.exe が cmd.exe や powershell.exe を起動していないかという点です。SharePointの通常運用でこれが起きることはほぼありません。
ただし注意点があります。特定のファイル名を探すだけでは不十分です。ネット上で見かける spinstall0.aspx というファイル名は2025年の別キャンペーンのものであり、2026年7月の攻撃については「公開されているネットワークベースのIOCは存在しない」とされています。ファイル名ではなく振る舞いで探してください。
ハイブリッド構成の場合はどうなりますか?
オンプレミス側のサーバーは対象です。ハイブリッド構成とは、オンプレミスの SharePoint Server と SharePoint Online を連携させて使う構成です。オンプレミスのサーバーが存在する以上、そのサーバーは上記と同じ対応が必要になります。
なお、ハイブリッド構成に固有の追加影響について、2026年のこれらのCVEに関する Microsoft の明確な言及は確認できませんでした。現時点では「オンプレ側は通常のオンプレと同じ扱い」と考えて対応するのが妥当です。
インターネットに公開していないので安全ですよね?
危険度は大きく下がりますが、安全とは言えません。CISAの推奨は「インターネットへの直接公開を避ける」ですが、これは万能の免罪符ではありません。社内の別の端末が侵害された場合、そこを起点にSharePointへ到達される可能性があります。むしろ「強い権限を持ち、パッチが後回しにされている社内サーバー」は、内部からの横展開において格好の中継地点です。
第9章 おわり — 次は第10章
✅ まとめと理解度チェック
持ち帰っていただきたいことを整理します
✔ SharePoint Server(オンプレミス)は現在攻撃されています。KEV登録は5件(2026年4月〜7月の累計)、うち7月公開分の2件はゼロデイ、1件は公開PoCあり
✔ SharePoint Online(Microsoft 365)だけなら影響製品リストに含まれません。ただし社内にオンプレミス版が1台も残っていないかの棚卸しはしてください
✔ パッチは最優先。ただしパッチだけでは終わりません。署名鍵を盗まれていれば、修正後も侵入は続きます
✔ 正しい順序は「パッチ → AMSI確認 → 侵害調査・駆除 → 鍵のローテーション」。鍵を先に替えても、駆除していなければ即座に再窃取されます
✔ CVSSの数字だけで優先順位を決めてはいけません。今回は5.3が2番目に急ぎ、9.1が最下位でした
✔ SharePoint 2019 / 2016 は2026年7月14日にサポート終了しました。今回のパッチが最後です。移行の検討を始めてください
🧩 理解度チェック(全3問)
この記事の内容が身についたか、3問だけ確認してみてください。答えをクリックすると解説が開きます。
Q1. CVSS 9.1 の脆弱性Aと、CVSS 5.3 だがKEVに登録済みの脆弱性B。先に対処すべきなのはどちら?
答え:B(CVSS 5.3 のほう)
KEVに載っているということは、実際にその脆弱性を使った攻撃が観測されているという意味です。一方、CVSS 9.1 は「悪用された場合に深刻」という予測にすぎません。今回の実例では、CVSS 5.3 の CVE-2026-56164 は公開当日にKEV登録され3日以内の修正を求められた一方、CVSS 9.1 の CVE-2026-55040 は本記事執筆時点(2026年7月27日)で悪用が確認されておらず、EPSSも 0.013 と極めて低い値でした。「点数の高いものから直す」運用は、最も危険なものを後回しにします。
※ CVE-2026-55040 は今後KEVに追加される可能性があります。この問題の要点は特定のCVEではなく、「悪用が確認されている脆弱性」を「スコアが高い脆弱性」より先に直すという考え方そのものです。
Q2. パッチを適用しました。次にやるべきことは? ①署名鍵をローテーションする ②侵害の痕跡を調査して駆除する ③サーバーを再起動する
答え:②(侵害の痕跡を調査して駆除する)
署名鍵のローテーションは必要な作業ですが、順番が先だと無意味になります。攻撃者が「鍵を収集するツール」を仕込んだままだと、新しく生成した鍵もその場で盗まれてしまうためです。CISAは「侵害痕跡(鍵収集ツールを含む)を捜索・駆除してから鍵をローテーションせよ」と、明確に順序を指定しています。掃除をしてから鍵を替える、が正解です。
Q3. SharePoint Server 2019 を使っています。次のセキュリティパッチはいつ出ますか?
答え:出ません(2026年7月14日で延長サポート終了)
SharePoint Server 2019 と 2016 の延長サポートは、今回の Patch Tuesday とまったく同じ2026年7月14日に終了しました。今回配布された更新プログラムが、この2バージョンにとって最後のセキュリティ更新です。有償の延長セキュリティ更新(ESU)も提供されていません。これから新しい脆弱性が見つかっても、修正されることはありません。取るべき行動は「待つ」ではなく「露出を止める」と「移行を計画する」です。
📋 最後に:明日までにやる3つのこと
- 棚卸し:社内にオンプレミスの SharePoint Server が何台あるか、バージョンは何か、外から見えるかを1枚の表にする
- 適用の検証:2026年7月のCUが全サーバーに適用され、構成ウィザードまで完了しているかをビルド番号で確認する
- 調査の起票:「パッチ適用済み=安全」で終わらせず、侵害調査と署名鍵ローテーションをタスクとして誰かに割り当てる
今回のような脆弱性を「自分で調べられる」ようになりたい方へ
KEVの引き方、自組織の露出確認、ログ調査、攻撃者の手口の体系的な理解。この記事で触れた調査手法は、当サイトの解析ツール解説群にまとめてあります。ツールの選び方から実際の使い方まで、カテゴリ別にたどれます。
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第10章 おわり — この記事は以上です
📖 主な出典(すべて2026年7月27日時点で確認)
- CISA「Known Exploited Vulnerabilities Catalog」 — https://www.cisa.gov/known-exploited-vulnerabilities-catalog(KEV追加日・是正期限)
- CISA「BOD 26-04: Prioritizing Security Updates Based on Risk」(2026-06-10発出/是正期限を3日・14日・60日に区分) — https://www.cisa.gov/news-events/directives/bod-26-04-prioritizing-security-updates-based-risk
- CISA「CISA Urges SharePoint Hardening After New Exploitations」(2026-07-14) — https://www.cisa.gov/news-events/alerts/2026/07/14/…
- NIST NVD 各CVEのレコード(CVSS・CWE・影響製品) — https://nvd.nist.gov/
- Microsoft セキュリティ更新ガイド 各CVEのページ — https://msrc.microsoft.com/update-guide
- FIRST「EPSS」API(2026年7月25日基準値) — https://www.first.org/epss/
- Microsoft「SharePoint Server 2019 / 2016 ライフサイクル」 — https://learn.microsoft.com/ja-jp/lifecycle/products/sharepoint-server-2019
- Microsoft Learn「Improved ASP.NET view state security and key management」(鍵ローテーション手順) — https://learn.microsoft.com/en-us/sharepoint/security-for-sharepoint-server/improved-asp-net-view-state-security-key-management
- Microsoft Learn「Configure AMSI integration with SharePoint Server」 — https://learn.microsoft.com/en-us/sharepoint/security-for-sharepoint-server/configure-amsi-integration
- JPCERT/CC「2026年7月マイクロソフトセキュリティ更新プログラムに関する注意喚起」(2026-07-15) — https://www.jpcert.or.jp/at/2026/at260020.html
- JPCERT/CC「2026年4月マイクロソフトセキュリティ更新プログラムに関する注意喚起」(CVE-2026-32201 を悪用確認済みとして掲載) — https://www.jpcert.or.jp/at/2026/at260010.html
- IPA「Microsoft製品の脆弱性対策について(2026年7月)」(2026-07-15) — https://www.ipa.go.jp/security/security-alert/2026/0715-ms.html
- Censys「Microsoft SharePoint Server RCE Advisory」(2026-07-17/露出台数・クエリ) — https://censys.com/advisory/cve-2026-50522-cve-2026-58644/
- Rapid7「CVE-2026-58644 Exploited in the Wild」(検知名・IOCの状況) — https://www.rapid7.com/blog/post/etr-cve-2026-58644-…
- Tenable「SharePoint Server Exploitation FAQ」(CVSS乖離・修正ビルド) — https://www.tenable.com/blog/cve-2026-32201-cve-2026-45659-cve-2026-56164-faq-sharepoint-server-exploitation
- BleepingComputer「CISA warns admins to patch actively exploited SharePoint flaws」(2026-07-15/Shadowserver の露出・未パッチ台数の出典) — https://www.bleepingcomputer.com/news/security/cisa-warns-admins-to-patch-actively-exploited-sharepoint-flaws/
- Help Net Security「Another SharePoint RCE exploited: Patch, then rotate your machine keys」(2026-07-22/watchTowr・Defused の観測日と認証要件) — https://www.helpnetsecurity.com/2026/07/22/sharepoint-cve-2026-50522-exploited/
- SecurityWeek「Fourth SharePoint Vulnerability Exploited in Past Months’ Wave of Attacks」(認証要件について本記事と異なる見解を示している報道) — https://www.securityweek.com/fourth-sharepoint-vulnerability-exploited-in-past-months-wave-of-attacks/
- Microsoft「Customer guidance for SharePoint vulnerability CVE-2025-53770」(2025年/「SharePoint Online は影響を受けない」の明言) — https://www.microsoft.com/en-us/msrc/blog/2025/07/customer-guidance-for-sharepoint-vulnerability-cve-2025-53770
- MITRE ATT&CK「SharePoint ToolShell Exploitation, Campaign C0058」(2025年の攻撃) — https://attack.mitre.org/campaigns/C0058/
- Microsoft Security Blog「Disrupting active exploitation of on-premises SharePoint vulnerabilities」(2025-07-22) — https://www.microsoft.com/en-us/security/blog/2025/07/22/…




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