ノーウェアランサムとは?暗号化しない脅迫が、かえって厄介な理由【2026年版】

警察庁の一次資料で確認(2026年8月時点)

ノーウェアランサムとは?暗号化しない脅迫が、かえって厄介な理由

画面はいつもどおり動いています。それなのに、情報だけが外に出ています。

30秒でわかる「ノーウェアランサム」

  1. 暗号化を一切せず、データを盗むだけ盗んで「公開されたくなければ払え」と要求する手口です。
  2. 暗号化は目立つうえ、バックアップから復旧されてしまいます。盗むだけなら気づかれにくく、攻撃側の手間も少なくて済みます
  3. 警察庁は2023年(令和5年)上半期からこの手口を分けて集計しており、2025年の資料でも「暗号化することなく…対価を要求する手口も発生している」と記載しています。
  4. 誤解:「画面が普通に使えているから被害はない」。実際は被害の中心が、目に見えないところへ移っただけです。
  5. 今日やること:外向きの大量通信に気づける仕組みがあるかを確認する。暗号化という「無料の警報」がもう鳴りません。

「ノーウェアランサム」という、少し不思議な名前の手口があります。ランサムウェアの一種として語られるのに、ランサムウェア(暗号化するプログラム)を使いません。この記事は、その矛盾に見える名前の意味と、それがなぜ従来の対策の想定から外れるのかを説明します。

結論を先に言うと、ノーウェアランサムの厄介さは「気づけない」という一点に集約されます。暗号化されれば嫌でも気づきますが、この手口では何も壊れません。ですから第3章と第6章では、何をもって気づくのかを具体的に整理しました。

⚠ この記事の前提

この記事は2026年8月16日時点の内容です。国内の状況は警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』(2026年3月公表)にもとづきます。

「ノーウェアランサム」は日本で警察庁の資料をきっかけに広まった呼び方です。同じ語が英語圏でそのまま一般的に使われているかは確認できませんでした。海外の資料を探す際は、暗号化を伴わない情報窃取型の恐喝という内容で探すほうが見つかりやすいと思われます。

CHAP1

第1章 / 全8章

ノーウェアランサムとは(やさしい定義)

「ランサムウェアを使わないランサム攻撃」という名前の意味

のーうぇあらんさむ no-ware ransom

データを暗号化せずに盗み出し、「対価を支払わなければ機密情報を公開する」と予告して金銭を要求する手口です。ランサムウェア(暗号化するプログラム)を使わないのが特徴です。

分類
ランサム攻撃における「脅し方」の名前(マルウェアの名前ではありません)
名前の由来
ransom(身代金)は残り、ware(=ソフトウェア)が no(無い)。つまり「道具を使わない身代金要求」
統計上の扱い
警察庁は2023年(令和5年)上半期からこの手口を分けて集計しています
関係する立場
企業・団体が中心。個人ではクラウドやNASの乗っ取りが該当し得ます

まず名前の話から。「ランサムウェア」はransom(身代金)+ software の合成語です。ノーウェアランサムはそこから ware(ソフトウェア)を no(無く)した、という組み立てになっています。「身代金は要求するが、そのための専用プログラムは使わない」という意味です。

ではどうやって脅すのか。盗んだデータそのものが人質になります。暗号化して手元のデータを使えなくする必要はありません。「これを公開されて困るのはあなたですよね」という一点で交渉が成立するからです。

警察庁の資料は、この手口について次のように触れています。

また、ランサムウェアで暗号化することなく、データを窃取した上で機密情報等の公開を予告して対価を要求する手口も発生している。

出典:警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』(2026年3月)

短い記述ですが、統計編ではこの手口を従来型のランサムウェアとは分けて集計しており、その集計は2023年(令和5年)上半期から始まっています。数年前まで統計の区分にすら存在しなかった手口だ、ということです。

💡

「ランサムウェアに感染していないので大丈夫です」は答えになっていない

ノーウェアランサムでは、そもそもランサムウェアが使われません。ウイルス対策ソフトのスキャン結果が「異常なし」でも、この手口の否定にはならない、ということです。

第1章 おわり — 次は第2章

CHAP2

第2章 / 全8章

なぜ暗号化をやめたほうが得なのか

攻撃者の側から見ると、暗号化は割に合わなくなっています

暗号化は攻撃者にとって強力な武器のはずでした。それをあえて省く理由は何でしょうか。攻撃者の立場に立って並べてみると、理由がはっきりします。

攻撃者から見た項目暗号化する場合暗号化しない場合(ノーウェアランサム)
被害者が気づくまでの時間即座に気づかれる(画面が使えなくなる)気づかれないことがある
必要な作業暗号化プログラムを持ち込み、実行し、検知を避けるデータを持ち出すだけ。侵入の技術だけで完結する
セキュリティ製品に引っかかるか暗号化という特徴的な振る舞いで検知されやすい正規の通信に見えることがある
バックアップで無効化されるかされるまったく無関係
被害組織の業務止まる(=大ごとになり、公表・捜査が始まりやすい)止まらない(=内々に処理されることを狙える)
交渉材料の強さ復旧+公開公開のみ

攻撃者側の合理性を筆者が整理したものです。公式な分析ではありません。

並べてみると、最後の行以外はすべて「暗号化しない」側が有利です。攻撃者は交渉材料を1つ手放す代わりに、手間・検知リスク・発覚リスクのすべてを下げています。

もう1点、見落とされやすい理由があります。暗号化は被害組織を追い詰めすぎるのです。業務が完全に止まれば、その組織は公表せざるを得ず、警察も動き、報道もされます。金を払う余裕すら失うかもしれません。業務が止まらないほうが、静かに交渉が進む可能性が高い、という計算が働き得ます。

暗号化は、意図せず「無料の警報装置」として働いていた

従来型のランサムウェアでは、暗号化された瞬間に必ず誰かが気づきました。皮肉なことに、攻撃者が仕掛けた最後の一手が、被害の発覚を保証していたのです。その警報が鳴らなくなったのがノーウェアランサムです。だから検知は、自分たちで用意するしかありません。

第2章 おわり — 次は第3章

CHAP3

第3章 / 全8章

気づく手がかりが、すべてログ側に移る

「見えるサイン」がひとつも無くなります

ノーウェアランサムの進み方は、二重恐喝の攻撃から最後の暗号化だけを抜いたものだと考えるとわかりやすいです。侵入し、権限を取り、内部を探索し、データを持ち出す。ここまでは同じで、その先がありません。

問題は、その「ありません」が意味することです。段階ごとに、何を手がかりに気づけるのかを並べてみます。

段階攻撃者がすること人が目で気づけるかログを見れば気づけるか
1 侵入VPN機器の脆弱性や盗んだ認証情報で入り込む気づけない気づける(見慣れないログイン、深夜・海外からの接続)
2 権限の奪取管理者権限を取り、セキュリティ機能を無効化するまれに気づく(対策ソフトが止まる)気づける(管理者アカウントの追加、設定変更の記録)
3 内部の探索重要データの場所を探す気づけない気づける(普段アクセスしない共有フォルダへの大量アクセス)
4 データの窃取データを外部へアップロードする気づけない気づける(外向きの大量通信)=最後の機会
5 撤収ログや使ったツールの痕跡を消す気づけない気づけない(消されている)
6 脅迫「公開されたくなければ払え」と連絡してくるここで初めて分かる

警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』の攻撃の流れの記述をもとに、筆者が「目で気づけるか/ログで気づけるか」の2軸で整理しました。公式な分類ではありません。

「人が目で気づけるか」の列を上から下まで見てください。ほぼすべて「気づけない」です。従来型のランサムウェアなら、この列の最後に「ファイルが開けなくなる」という決定的なサインが入りました。それが無いのがノーウェアランサムです。

一方で「ログを見れば気づけるか」の列は、段階4まですべて「気づける」です。つまりこの手口は、ログを見ている組織には見えていて、見ていない組織にはまったく見えないという性質を持ちます。

段階5で、証拠のほうが先に消える

攻撃者は撤収時にログや使用したツールの痕跡を消します。脅迫の連絡が来て初めて調査を始めても、そのときには手がかりが消えていることになります。ログを別の場所へ退避しておくことが、この手口では特に重要になります。

第3章 おわり — 次は第4章

CHAP4

第4章 / 全8章

よくある誤解と、似ている用語

「被害が軽い」という誤解が、いちばん危険です

🚨 いちばん危ない誤解:「壊れていないから被害は軽い」

ノーウェアランサムでは、システムは正常に動き続けます。業務も止まりません。復旧作業も要りません。そのため「大した被害ではない」と受け取られがちです。

しかし被害の中身を見ると、逆のことが起きています。個人情報や機密情報が外部に出たという点では、二重恐喝とまったく同じ状態です。個人データが含まれていれば、報告義務が発生し得る点も同じです。

違うのは「復旧作業が要らない」ことだけで、情報漏えいとしての重さは何ひとつ軽くなっていません。むしろ発覚が遅れるぶん、対応の開始が遅れます。

混同されやすい言葉を整理します。ノーウェアランサムは、隣にある3つの言葉と1点ずつ違います。

用語暗号化窃取金銭要求ノーウェアランサムとの違い
ノーウェアランサムしないするする
二重恐喝するするする暗号化する点だけが違う
従来型ランサムウェアするしないする窃取しない。復旧できれば終わる
情報漏えい(一般)しないするしない金銭要求を伴わない。事故や誤送信も含む
不正アクセス入られたこと自体を指す。ノーウェアランサムはその後に何をされたかの話

分類は警察庁資料の記述をもとに筆者が整理したものです。

この表の使いどころは、社内で説明するときです。「暗号化されていないから二重恐喝ではない」「金銭を要求されているから単なる情報漏えいではない」というふうに、1列ずつ確認していけば呼び名が決まります。呼び名が決まれば、参照すべき対応手順も決まります。

第4章 おわり — 次は第5章

CHAP5

第5章 / 全8章

個人・家庭でやる対策

個人版の「ノーウェアランサム」はアカウント乗っ取りです

個人が組織と同じ形でノーウェアランサムの標的になることは、一般的ではありません。ただし構造がそっくりな出来事は個人にも起きます。クラウドストレージやSNSのアカウントを乗っ取られ、保存していた写真やファイルを盗まれ、「ばらまかれたくなければ払え」と要求される、という形です。

共通しているのは「何も壊されないので気づきにくい」という点です。乗っ取られてもログインはできますし、ファイルもそのまま残っています。

優先やること時間なぜ効くか
1主要アカウントのログイン履歴・接続中の端末を確認する(見覚えのない端末があればサインアウトさせる)10分個人にとっての「ログを見る」がこれにあたる
2ログイン通知を有効にする5分侵入の段階で気づける唯一の常設アラート
3多要素認証、できればパスキーを設定する10分パスワードが漏れても入られない
4クラウドに置いたままの「外に出たら困るファイル」を棚卸しする30分盗まれて困るものが少なければ、脅しの材料も少ない
5脅迫の連絡が来ても支払わず、相手とやり取りせず、証拠を保存して相談する支払っても削除の保証はなく、支払える相手だと認識されます

優先順位は筆者の整理です。

💡

「言うとおりにすれば消してもらえる」と思わせるのが手口です

脅迫を受けると、相手の要求に応じることが最短の解決に見えます。しかし相手は犯罪者であり、削除を確認する方法はありません。一人で判断せず、警察やIPAの相談窓口を使ってください。相談したことで責められることはありません。

第5章 おわり — 次は第6章

CHAP6

第6章 / 全8章

会社・組織でやる対策(検知の話)

止める対策より、気づく対策の比重が上がります

ノーウェアランサムに対する備えは、従来型のランサムウェア対策と7割は同じで、3割が違います。同じなのは入口対策です。違うのは、バックアップの比重が下がり、検知とログの比重が上がることです。

対策従来型ランサムウェアへの効果ノーウェアランサムへの効果
VPN機器など入口の更新・多要素認証高い高い(変わらず最優先)
オフラインバックアップ高いほぼ効かない(壊されないため)
ログの取得と外部への退避中(原因究明に効く)非常に高い(唯一の手がかり)
外向き通信の監視非常に高い(窃取の段階で気づける)
EDRなど侵入後の検知高い高い
重要データの所在の把握高い(何が出たかを即答するために必要)
ウイルス対策ソフト中(暗号化の振る舞いを検知し得る)限定的(そもそもマルウェアを使わない場合がある)

効果の評価は、警察庁資料が示す攻撃の流れをもとにした筆者の整理です。製品や環境によって結果は異なります。

この表で最も重要なのは2行目です。オフラインバックアップは、ノーウェアランサムにはほとんど効きません。バックアップは今も必要な備えですが、それだけを根拠に「うちは大丈夫」と言えなくなった、という理解が必要です。

代わりに3行目と4行目が最上位に来ます。とくに外向きの大量通信は、この手口で唯一と言っていい能動的な検知ポイントです。夜間や休日に、普段は外部と通信しないサーバーから大量のデータが出ていく。そこに気づけるかどうかがすべてになります。

ログの保存期間が短いと、そもそも調べられない

攻撃者が侵入してから脅迫の連絡が来るまでには時間が空きます。その間にログの保存期間を過ぎてしまうと、「いつ、何が持ち出されたか」を再現できません。機器の既定の保存期間は想像より短いことが多いので、一度確認しておくことをおすすめします。

ログの実務を掘り下げる

日本企業のログ管理の実態と改善策は なぜ「ログは取っているのに守れない」のか?、実際の調査手順は Windows/Linuxのログ調査ガイド にまとめています。

第6章 おわり — 次は第7章

CHAP7

第7章 / 全8章

もし起きたら:最初の10分

「壊れていない」ことが、初動を遅らせます

ノーウェアランサムの被害は、たいてい攻撃者からの連絡で発覚します。メールが届く、あるいはリークサイトに社名が載る。そこで初めて分かります。

このとき起きがちなのが、「本当かどうか確かめてから動こう」という判断で時間を失うことです。システムは正常に動いているので、緊急事態という実感が湧きません。しかし、実際にはすでに情報が外に出ています。

やることやってはいけないこと理由
1脅迫のメール・画面・リークサイトの表示をそのまま保存する(写真・PDF・ヘッダー情報)削除する・転送しまくる後の調査と警察への相談で必要になります
2ログの保全を最優先で行う(消される・上書きされる前に)先に犯人を特定しようとするログは時間とともに自動で消えます。取り返しがつきません
3攻撃者が示した「証拠」のデータを確認し、本物かどうかを検証する相手に質問を返して確かめようとするやり取りは交渉の開始とみなされます。窓口は一本化してください
4侵入経路になり得るアカウント・機器を確認し、まだ入られていないかを見る「もう盗まれた後だから」と放置する撤収せず居座っている場合があります
5警察・関係機関へ通報する。個人データが関わるなら報告義務の要否を確認する全容が判明するまで待つ報告の期限は「発覚日」から数え始めます

警察庁資料の「ランサムウェア被害後の対応策」および実務上の整理にもとづく筆者のまとめです。個別の判断は専門家にご確認ください。

相談先(公的機関)

  • 都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口(緊急性が高い場合は110番)
  • 警察相談専用電話 #9110
  • IPA 情報セキュリティ安心相談窓口
  • JPCERT/CC(組織としてのインシデント報告)
  • 個人データが関わる場合:個人情報保護委員会
✅ ここまでできていれば

脅迫の記録が残り、ログが保全され、外部の支援先につながっている状態です。ノーウェアランサムでは復旧作業がないぶん、「何が出たかを説明できるか」だけが問われます。その材料が手元にあるなら、対応は前に進みます。

第7章 おわり — 次は第8章

CHAP8

第8章 / 全8章

関連用語と、次に読む記事

この語とセットで覚えると理解が早くなります

ランサムウェア 二重恐喝 RaaS(準備中) ログ管理(準備中) EDR(準備中) リークサイト
こんな方に次に読む記事
そもそもランサムウェアから知りたいランサムウェアとは?意味・最新の手口・対策・初動
暗号化する側の手口と比べたい二重恐喝とは?なぜバックアップでは防げないのか
ログの問題を実務レベルで知りたいなぜ「ログは取っているのに守れない」のか?
盗まれた情報のその後を知りたい個人情報はなぜ売られる?
いま被害に遭っているやられたときの最初の30分(早見表)

第8章 おわり — 最後にFAQ

FAQ?

よくある質問

ノーウェアランサムについてよく聞かれること

検索でよく見かける疑問から

暗号化されていないなら、被害としては軽いのでは?

復旧作業が不要という点だけが軽く、情報漏えいとしての重さは変わりません。個人データが含まれていれば報告義務が発生し得る点も、二重恐喝と同じです。むしろ発覚が遅れるため、対応の開始が遅くなるという不利があります。

ウイルス対策ソフトで検知できますか?

期待しないほうが安全です。ノーウェアランサムでは暗号化プログラムを使わず、盗んだ正規の認証情報でログインしてデータを持ち出す場合があります。この場合、端末上には「悪意のあるファイル」が存在しないため、検知の手がかりがありません。検知の主役は通信とログの監視になります。

中小企業でも検知する仕組みを持てますか?

高価な製品がなくても、できることはあります。第一にログの保存期間を延ばすこと。第二に管理者アカウントの追加やセキュリティ設定の変更を通知させること。第三にクラウドサービス側の監査ログを有効にすることです。いずれも追加費用が小さい割に、後から調べられる範囲が大きく変わります。

「ノーウェアランサム」は海外でも通じる言葉ですか?

日本では警察庁の資料をきっかけに広まった呼び方です。同じ語が英語圏でそのまま一般的に使われているかは確認できませんでした。海外の資料を探す場合は、暗号化を伴わない情報窃取型の恐喝という内容で探すほうが確実です。

出典・参考

最終更新:2026年8月16日/次回見直し予定:2027年3月(警察庁の年次資料の公表に合わせて)

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