
ASM/EASMとは?見つけたあとは、ツールの仕事ではありません
EASMとASMは同じ意味です——経産省のガイダンスがそう書いています。
30秒でわかる「ASM/EASM」
- 外部(インターネット)からアクセス可能なIT資産を発見し、それらに存在する脆弱性などのリスクを継続的に検出・評価する一連のプロセスです(経済産業省の定義)。
- EASMはASMと同じ意味です。経産省のガイダンスが「本書ではASMとEASMを同じ意味として取り扱う」と明記しています。
- 3つのプロセスは「発見」「情報収集」「リスク評価」。見つけた問題への「対応」は、ASMに含まれていません。
- 誤解:「脆弱性診断と同じ」。診断は知っている資産を調べ、ASMは知らない資産を見つけます。そしてASMは脆弱性を特定しません(第3章)。
- 今日やること:自社ドメインのサブドメインを一覧にしてみる。ツールを買う前にできます。
この記事の地図(全8章)
ASMを調べていると、ベンダーの製品紹介ばかりが並びます。「見えていない資産を可視化」「攻撃者視点で継続監視」——言っていることは正しいのですが、買う前に知っておくべきことが抜けています。
この記事は、経済産業省の『ASM導入ガイダンス』(32ページ)だけを読んで書いています。中心は第5章と第6章です。国はこのガイダンスで、ASMの限界と法的リスクを、製品紹介よりずっと詳しく書いています。そして事例が示す最大の壁は、意外なところにありました。
この記事は2026年8月19日時点の内容です。定義とプロセスは、経済産業省 商務情報政策局 サイバーセキュリティ課『ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンス』(令和5年5月29日)にもとづきます。
このガイダンスは初版のまま更新されていません。改定履歴には「令和5年5月29日 初版公表」の1行しかありません。そのため本記事では、2026年に出た制度文書と統計で補っています(第4章・第7章)。特定の製品の推奨はしていません。
ASM/EASMとは(やさしい定義)
まず、この2つが同じものだと確認します
ASMは Attack Surface Management、EASMは External Attack Surface Management の略です。「Externalが付くから違うものだろう」と思うところですが、国の定義文書はそう扱っていません。
組織の外部(インターネット)からアクセス可能なIT資産を発見し、それらに存在する脆弱性などのリスクを継続的に検出・評価する一連のプロセス
(中略)外部からアクセス可能であるという点を強調してEASM(External Attack Surface Management)と紹介されることもあるが、本書ではASMとEASMを同じ意味として取り扱う。
経済産業省『ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンス』2.1 ASMの定義ガイダンスは冒頭で「米国を中心にいくつかの企業で定義が行われているが、その定義や範囲などにおいて解釈が分かれるケースがある」と断っています。つまり、言葉が先に広まって、意味が後から追いかけている状態です。日本語の資料を読むときは、まずこの定義に戻るのが安全です。
「攻撃面」という言葉
ASMの中心にあるのが攻撃面(Attack Surface)です。日本語では「攻撃対象領域」と訳されることもありますが、ガイダンスは「攻撃面」で統一しています。
おもしろいのは、経産省が国際的な定義をそのまま使わなかったことです。
| 攻撃面の範囲 | 意味するところ | |
|---|---|---|
| NIST SP800-53 | システムや環境の境界上の、攻撃者が侵入・影響・データ持ち出しを試みうる点の集合 | 組織の外部・内部を区別していない |
| 経産省ガイダンス | 組織の外部(インターネット)からアクセス可能なIT資産 | 外部からのものに絞り込んだ |
ガイダンス 2.1 より。NISTの定義は原文の要旨を日本語にしたものです。
絞り込んだ理由も書かれています。攻撃面は「組織外の攻撃者が容易に発見できるものであり、かつ、組織がセキュリティ上より注視すべきであるもの」だから、というのがガイダンスの説明です。
「攻撃者が先に見ている」という前提の言葉です
ASMのおわりにの章に、この考え方が端的に書かれています。「攻撃者はASMで確認可能な情報を用いてサイバー攻撃の活動を実施する場合が多い。防御側が攻撃者と同じ視点で自社をチェックすることで、これまでのように攻撃被害が発生してからIT資産の課題に気づくのではなく、攻撃被害の発生前にIT資産の課題に気づくことが可能となる。」——つまりASMは、攻撃者がすでに使っている道具を、こちらも使うという発想です。
第1章 おわり — 次は第2章
3つのプロセスと、含まれないもの
ASMは「見つける」までです
ガイダンスは、ASMを3つのプロセスで整理しています。この3つを覚えると、製品説明を読むときに「どこまでやってくれるのか」が判別できるようになります。
| プロセス | やること | アウトプット |
|---|---|---|
| (1) 攻撃面の発見 | 組織名からドメイン名を特定(WHOISなど)→ DNSやツールでIPアドレス・ホスト名の一覧を取得 | IPアドレス・ホスト名のリスト |
| (2) 攻撃面の情報収集 | OS、ソフトウェア、そのバージョン、オープンなポート番号などを収集。通常のアクセスの範囲で行われる | 資産ごとの構成情報 |
| (3) 攻撃面のリスク評価 | 公開されている既知の脆弱性情報と(2)を突合し、脆弱性が存在する可能性を識別 | リスクの一覧 |
| (対応) | ASMのプロセスには含まれていません | — |
ガイダンス 2.2 ASMのプロセス より。(2)が「通常のアクセスの範囲」であることが、第3章と第5章で効いてきます。
4行目が、この記事のいちばん大事な部分です。ガイダンスの原文はこうです。
本書では、評価したリスクへの対応についてはASMのプロセスには含めていない。しかしながら、自社のセキュリティリスクを減らすという目的においては、(3)攻撃面のリスク評価後にリスクへの対応を実施すべきである。
同 2.2 ASMのプロセス「含めていない。しかしながら、実施すべきである」——ここに、ASMを導入した組織が必ずぶつかる問題が凝縮されています。ツールは問題のリストを出しますが、それを直すのは人の仕事です。第6章で、実際にそれが最大の課題になっていることを見ます。
脆弱性管理のどこをカバーするのか
ガイダンスは、IPAの資料をもとに脆弱性管理を6段階に整理し、ASMがどこを担うかを明示しています。
| 脆弱性管理の段階 | 内容 | ASMがカバーするか |
|---|---|---|
| 対象ソフトウェアの把握 | インストールされているソフトウェアの情報を把握・管理する | カバーする |
| 脆弱性関連情報の収集 | 最新バージョンや脆弱性情報などを収集する | カバーする |
| 適用の判断 | リリースノートやCVSS、緊急度を確認し、対応の要否を判断する | カバーする |
| 計画 | 修正作業などを計画する | しない |
| 検証 | 検証環境に適用し、本番適用の可否を判断する | しない |
| 適用 | 修正作業を実行する | しない |
ガイダンス 2.4 表2-1 より。「対象ソフトウェアの把握」にはVPN装置や複合機上で動作するファームウェアも含むと脚注で明記されています。
そしてもう一点、対象範囲そのものが違います。
脆弱性管理は基本的に自社で把握している全てのIT資産を対象とするが、ASMは未把握であるものも含め、外部(インターネット)からアクセス可能なIT資産を発見する。つまり、ASMは未把握のIT資産を発見する、という点において脆弱性管理やIT資産管理を補完する取り組みと捉えることができる。
同 2.4 ASMと脆弱性管理の関係性「補完する取り組み」という位置づけです
ASMは脆弱性管理を置き換えるものではありません。すでに資産管理台帳があり、パッチ適用の運用が回っている組織にとって、ASMは「台帳に載っていないものを見つける」役割です。逆に、台帳も運用もない状態でASMだけ入れると、持ち主も直し方も分からないリストが手元に残ります。順番が大事です。
第2章 おわり — 次は第3章
脆弱性診断との違い
いちばん多い混同です。しかも決定的に違います
ガイダンスは、ASMと脆弱性診断を3つの観点で比べています。表は原文の表1-1を、読みやすく組み直したものです。
| 観点 | ASM | 脆弱性診断 |
|---|---|---|
| 対象 | インターネット上を検索し、発見したものを対象とする(未把握の資産を含む) | 対象をあらかじめ指定する(把握済みの資産) |
| 脆弱性の特定確度 | 通常アクセスの範囲で行うため確度が低い可能性がある | 攻撃を模したパケットを送信し応答を評価するため一定の確度が確保される |
| 対象への影響 | パケットが監視装置に検出されることはほとんどない | 監視装置でアラームを検出したりシステムダウンを誘発したりすることがある |
ガイダンス 表1-1 より。ここでの脆弱性診断はネットワーク・OS・ミドルウェアを対象としたプラットフォーム診断を指します。
2行目を、はっきり言い換えます。
ガイダンスの原文はこうです。「ASMでは、通常のアクセスの範囲で得られた情報をもとに、IT資産に含まれている可能性のある脆弱性情報を提示する。しかし、あくまで可能性のレベルであり、脆弱性を特定しているわけではない。」
つまりASMの画面に赤く出た項目は、「脆弱性がある」ではなく「その版なら脆弱性があるかもしれない」という意味です。ここを取り違えると、社内に無用の緊急対応を発令したり、逆に本当の穴を見落としたりします。詳しい理由は第5章で扱います。
ガイダンス自身も、両者を対立させていません。「ASMと脆弱性診断は異なるものであり、目的に応じて使い分けや併用を検討すべきである」という結論です。実務では、こう組み合わせるのが自然です。
| やりたいこと | 向いている手段 |
|---|---|
| 知らない資産がないか確かめたい | ASM |
| この1台に本当に穴があるか確かめたい | 脆弱性診断 |
| 緊急の脆弱性が出た。自社に該当するか急ぎ知りたい | ASM(簡易調査) |
| 公開前のシステムを検査したい | 脆弱性診断 |
| 買収した会社が何を公開しているか知りたい | ASM |
| 攻撃者が実際に侵入できるか試したい | ペネトレーションテスト(別の手法) |
「緊急性の高い脆弱性情報が公開された際に、自社のIT資産に該当するかを簡易的に調査する」は、ガイダンス 3.1 が挙げるASM導入目的の1つです。
第3章 おわり — 次は第4章
「知らない資産」はどう生まれるか
誰も悪くないのに、台帳から漏れます
ASMの前提は「自社にも、把握していないIT資産がある」ということです。これは管理の怠慢ではなく、ふつうに事業をしていると起きることです。ガイダンスが挙げる活用シーンが、そのまま「知らない資産」の発生源になっています。
| どう生まれるか | 典型的な場面 |
|---|---|
| 情シス以外の部門が作った | キャンペーン活動などに利用するWebサイト。広報や事業部が独自に契約する |
| 設定ミスで公開状態になった | 社内システムのつもりが、外部からアクセス可能になっている |
| 本社が一元管理できない | グループ企業の統制上の課題や、海外拠点などの地理的な要因 |
ガイダンス 2.3「ASMの活用シーン」より。3つとも「攻撃された」話ではなく「増えていった」話である点に注目してください。
実際に起きた事例(事例-A)
ガイダンスは、国内企業へのヒアリングから2つの事例を載せています。1つ目が、上の1行目そのままの話です。
事例-Aの企業は、一般消費財の製造・販売を中心としたビジネスを展開している。ビジネスを展開する際にプロモーションやキャンペーン活動を頻繁に実施しており、それらの活動ごとにドメインやIPアドレスを新しく取得していた。そのため、本社の情報システム部門で把握・管理ができていないドメインやIPアドレスが複数存在していた。一方で非管理ドメインやIPアドレスが原因のインシデントが発生したため、攻撃面の把握と脆弱性管理が急務となった。
ガイダンス 4.1 事例-Aキャンペーンごとに新しいドメインを取る——マーケティングの現場では当たり前の運用です。ところがそのサイトは、キャンペーンが終わったあとも生き続けます。更新されないまま、忘れられたまま、インターネットに向かって開いています。
この企業がやったことは2つでした。
| 課題 | 打ち手 |
|---|---|
| 把握できていないドメイン・IPが国内外に複数ある | 毎日検索を実行。加えて管理者が必要に応じて手動で登録し、より幅広く把握できるようにした |
| キャンペーンサイトの脆弱性を管理できていない | 本社CSIRTメンバーを運用フローに組み込み、ECサイト管理者の対応をサポートする体制にした |
ガイダンス 4.1 より。ツールの自動検索だけでなく「手動登録」を併用している点が実務的です。
そして、この事例がいちばん語っているのは2行目の打ち手です。CSIRTが「なぜ対応しなければならないか」「何をどうしなければいけないか」をサイト管理者に伝える役割を担ったことで、対応が速くなったと書かれています。ツールを入れただけでは、この部分は埋まりません。
スコアには、思わぬ効き目がありました
事例-Aは、ASMツールのスコアリング機能に副次的なメリットがあったと報告しています。①関係者間で対応優先度の共通認識を持てた(導入前は認識の違いから優先度に差が生じていた)②脆弱性の対応によりスコアが上がるため、対応メンバーの意識が高まり対応スピードが向上した ③脆弱性対応に関する上層部への説明が容易になった。——数字が出ると社内の会話が変わる、という話で、これはツールを買う理由として過小評価されがちです。
2026年、これは「やったほうがいい」から「求められること」になりました
ガイダンスは2023年のものですが、この話は古びていません。2026年7月31日に決定された『重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準』(2026年10月1日施行)は、安全基準等に規定されるべき事項として、こう書いています。
3.3.1.1 資産に対する責任
① 情報システム、ソフトウェア、情報等の資産を特定し、各資産の管理責任者や利用制限等を明確化した資産目録を作成・維持管理する。
② 情報システム又はその運用を外部サービスによって代替する場合には、利用する外部サービスの一覧を作成・維持管理する。
④ 未承認の資産がネットワークに接続・運用されていないか監視し、対処する。
④が、ASMがやろうとしていることそのものです。重要インフラ16分野が対象の文書ですが、資産目録・外部サービス一覧・未承認資産の監視という3点セットは、規模を問わず通用する形になっています。制度の全体像は 重要インフラとは? にまとめました。
第4章 おわり — 次は第5章
国が挙げた5つの落とし穴
製品紹介には、まず書かれていない部分です
ガイダンス 3.2.4「注意すべき事項」は、ASMの限界をこれ以上ないほど率直に書いています。ここを読まずにツールを入れると、必ずどれかを踏みます。
① 自社のものではない資産が出てくる
CDNやクラウド上の資産はIPアドレスが変わります。またホスト名で検索した場合、DNSレコードの状態によって自社で管理していないIT資産のIPアドレスが正引きされることがあります。一覧に出たからといって、自社のものとは限りません。
② 偽陽性と偽陰性が、どちらも起きる
ここは理由まで書かれているので、そのまま表にします。
| どういうことか | 起きる理由 | |
|---|---|---|
| 偽陽性 | 脆弱性が存在しないのに、あると表示される | 検索エンジン型でデータベース情報が最新でない/パッチ適用の前後でバージョン番号が変化しない |
| 偽陰性 | 脆弱性が存在するのに、ないと表示される | 対象のIT資産で、脆弱性判定の根拠となるバナー情報を非表示にする設定をしている |
ガイダンス 3.2.4 より。「パッチを当てたのにバージョン番号が変わらない」ケースがあるという指摘は、実務では非常に重要です。
③ 他社の資産を調べると、訴訟になり得る
この記事でいちばん強く伝えたい部分です。ASMツールには2つの型があり、法的な意味がまったく違います。
| 型 | どう情報を集めるか | 他社の資産を対象にするとき |
|---|---|---|
| 検索エンジン型 | 事業者が独自に収集した情報をデータベース化し、利用者はそれを検索・閲覧する | 情報収集は事業者側の責任で行われる |
| オンアクセス型 | 検索を実行したタイミングで、対象へ通信を行って情報を収集する | 事前に確認を行い、承認を得ることを推奨 |
ガイダンス 3.2.2 および 3.2.4 より。
ガイダンスは、想定される法的責任を具体名で挙げています。「承認を得ないまま、他社のシステムで障害を発生させた場合は、民法の不法行為による損害賠償や刑法の電子計算機損壊等業務妨害罪、不正アクセス禁止法等による訴訟に発展する可能性がある。」
背景として、オンアクセス型は情報を収集する際に対象環境に負荷を与え、業務に影響を及ぼす可能性があるとも書かれています。取引先のセキュリティを「調べてあげよう」という善意が、いちばん危険です。不正アクセス禁止法については 不正アクセスとは? をご覧ください。
さらにガイダンスは、調べた結果の使い方についても釘を刺しています。
以下の注意点があるため、ASMツールの評価結果をもとにした評価対象企業への是正措置の強要は控え、セキュリティレベルの評価、公表については慎重に行うべきである。
ガイダンス 3.2.4 不正確な情報の検知取引先をASMツールで採点して、スコアを根拠に改善を迫る——という運用が現実に行われています。国はそれを「控えるべき」としています。理由は①〜②のとおり、そのスコアが実態に即していない可能性があるからです。取引先の管理そのものは必要ですが、手段の選び方は サプライチェーン攻撃 の考え方と合わせて検討してください。
④ リスクスコアを、そのまま優先度にしない
攻撃面のリスク評価がCVSSのハイスコア評価であっても悪用行為が確認されていなければスコア通りの対応優先度とはならないケースも想定される。
ガイダンス 3.2.4 リスク評価指標の活用方法これは ゼロデイ の記事で扱った話と正確に同じです。CISAのKEVカタログに載る「実際に悪用されている脆弱性」1,665件のうち93.4%は、前年以前に公表されたCVEでした。スコアの高さより、本当に使われているかどうかが優先度を決めます。使い分けは CVSS と KEVカタログ の記事へ。
⑤ 画面の情報は「いま」ではない
検索エンジン型の場合、表示されているのは事業者が収集したタイミングの情報です。ガイダンスは「ユーザーが閲覧する情報は検索を行った時点の情報ではない可能性が高い」とし、攻撃面の詳細情報を確認する際は、確認した日時の情報もあわせて見るべきだとしています。
5つに共通しているのは「確度」です
①は資産の帰属が不確か、②は脆弱性の有無が不確か、④は優先度が不確か、⑤は時点が不確か。ASMは「精密な検査」ではなく「広く浅く見渡す」道具だと理解しておくと、これらは欠陥ではなく仕様として扱えます。広く浅く見渡してから、怪しいところを脆弱性診断で精密に見る——これが第3章の「使い分けや併用」の実際の姿です。
第5章 おわり — 次は第6章
見つけたあとに、本当の壁があります
ヒアリングで多くの企業が挙げた課題です
ガイダンス作成のために国内企業へヒアリングをした結果、多くの企業から同じ声が上がりました。ここが、この記事のタイトルにした部分です。
ASMに取り組んでいる企業の多くから、「ASMツールで見つかった資産がどの部門のものであるか特定することが難しい」や「見つかった脆弱性は誰がどのように対応するのか、調整が難しい」という声が聞かれた。特に、海外拠点や海外グループ企業で見つかった脆弱性の対応に課題を抱えている企業が多かった。
ガイダンス 4.2 事例-Bツールは資産を見つけます。しかし「これは誰のものですか」には答えません。そして次のように締めています。
ASMでは、発見されたIT資産の所有者を特定することや発見された脆弱性の是正対応をすることについてはカバーできないものが多い。取組実態調査にてヒアリングした多くの企業では、これらのカバーできない対応について課題を抱えていた。
同事例-Bが選んだ答え:全部やらない
事例-Bは製造業で、世界各国に数百のグループ企業を持っています。本社主導で脆弱性管理をしていましたが、海外拠点では同じレベルにできませんでした。課題は2つでした。
| 課題 | 中身 |
|---|---|
| (1) 情報が集まらない | 本社主導で脆弱性診断を実施するため、海外拠点の各企業から対象となるIT資産の情報を収集しようとしたが、できなかった |
| (2) 直せない | 海外拠点の各企業でセキュリティ人材を確保できていないため、脆弱性診断後の是正対応ができていなかった |
ガイダンス 4.2 事例-B より。この企業はASMツールを導入している事例ではありませんが、ASMにも応用できる体制の例として収録されています。
この会社の打ち手が秀逸です。数百のグループ企業すべてを本社が見るのをやめました。
| 誰が | 何を担うか |
|---|---|
| 本社 | 各地域の橋渡しとなる中核企業20社をピックアップし、協力関係を築く。脆弱性診断実施の連絡から是正方法までを提示する |
| 中核企業20社 | 本社の脆弱性管理の取り組みを、地域のグループ企業に広める |
| 現在の取り組み | 中核企業20社に対して、セキュリティスキルを高めるための教育施策を展開している |
同。数百社を20社に集約し、その20社を育てるという構造です。
規模が小さくても、考え方は同じです
数百のグループ企業がなくても、「見つかった資産の持ち主にたどり着く経路」を先に作っておくという話は同じです。具体的には——①ドメインを取得するときの申請ルートを1本にする ②そのとき「担当部署」と「終了予定日」を記録する ③キャンペーン終了時に閉じる手順を決める。この3つがあれば、ASMが出す一覧の大半は、はじめから持ち主が分かります。ツールを買うより先にやると、買ったあとの効果が変わります。
そして事例-Aが示したとおり、見つけたあとを動かすのは CSIRT の役割です。事例-Aでは本社CSIRTメンバーが運用フローに加わり、「なぜ対応しなければならないか」「何をどうしなければいけないか」をサイト管理者に伝えることで、対応が速くなりました。ASMは、CSIRTがあってはじめて回ります。
第6章 おわり — 次は第7章
製品を買う前にできること
ASMの入口は、無料でも歩けます
ガイダンスは「ツールの利用が実質不可欠」としつつ、「少額の費用で実行できる範囲でPoC(概念実証)を実施することも有用である」とも書いています。そして事前準備として挙げているのは、ツールがなくてもできることです。
組織名をもとに、調査の対象範囲となる組織が管理しているIPアドレスやドメイン名、関連するドメイン名の洗い出しを実施する。洗い出しを実施する際に、WHOISなどを利用して特定する方法も有用である。
ガイダンス 3.2.1 事前準備① 自社が持っているドメイン名を、全部書き出す——請求書と、広報・事業部への聞き取りから始めます。ここで「知らないドメイン」が出てくれば、それがもう成果です。
② それぞれのサブドメインとIPアドレスを一覧にする——DNSの検索や公開ツールでできます。
③ 1行ずつ「担当部署」と「まだ必要か」を書く——ASMツールが答えられない、いちばん価値のある列です(第6章)。
④ 不要なものを閉じる——閉じた資産は、二度と攻撃面になりません。ツールより確実です。
この一覧は、別の場面でもそのまま使えます。2026年10月1日に施行されるサイバー対処能力強化法では、基幹インフラ事業者の届出の中心が、ファイアウォールやVPN装置など「インターネットに面した機器」です。制度の詳細は 能動的サイバー防御とは? に書きました。
検索エンジン型を、自分を調べるために使う
ShodanやCensysのような検索エンジンは、攻撃者が使う道具として紹介されがちですが、第1章で見たとおり、ASMの発想は「攻撃者と同じ視点で自社をチェックする」ことです。自社のIPアドレス・ドメインを対象にする限り、これは自己点検です。
| やってみること | 参考記事 |
|---|---|
| 検索エンジン型で、何が見えているか確かめる | Shodanの使い方 |
| 公開状態の機器が現実にどれだけあるか知る | 公開カメラの実態 |
| もう少し踏み込んだ検索をしたい | Censys入門 |
| 見つけた脆弱性の優先度を決めたい | KEVカタログ/CVSS |
| ソフトウェアの中身まで管理したい | SBOM |
他社のIPアドレスやドメインを対象にする場合は、第5章③の注意が適用されます。必ず承認を得てください。
クラウドは、資産一覧から抜け落ちやすい場所です
国が2026年7月に公表した重要インフラの調査では、回答した2,103事業者のうち89.9%がクラウドサービス等を利用している一方、責任範囲の整理ができているのは約半数にとどまりました。クラウドは契約すればすぐ立ち上がるので、情シスを通らずに増えます。統一基準が「利用する外部サービスの一覧を作成・維持管理する」と書いたのは、ここです(第4章)。
最後に、なぜ継続が定義に入っているのかを確認しておきます。ガイダンスの説明はシンプルです。
自社が持つIT資産に関する状況は時間経過によって変化する。IT資産の増加または変化やIT資産における脆弱性の発見などがそれにあたる。そのため、ASMは継続的に取り組む必要がある。
ガイダンス 3.3 継続的な対応頻度については、「より頻繁に実施したほうサイバー攻撃のリスクを低減できるが、その分業務負荷が高くなる」とし、自社のセキュリティポリシーや業務負荷、サイバー攻撃の流行などから総合的に判断してほしいという書き方です。正解の頻度は示されていません。事例-Aは毎日でした。
第7章 おわり — 次は第8章
関連用語と、次に読む記事
この語とセットで覚えると理解が早くなります
| こんな方に | 次に読む記事 |
|---|---|
| 直す順番を決めたい | ゼロデイとは?/KEVカタログ |
| スコアの読み方を知りたい | CVSSとは? |
| まず何が見えているか確かめたい | Shodanの使い方 |
| ソフトの中身まで管理したい | SBOMとは? |
| 見つけたあとを動かす体制を作りたい | CSIRTとは? |
| 取引先の管理も気になる | サプライチェーン攻撃とは? |
| 制度側の要求を知りたい | 重要インフラとは? |
| 用語を一覧で見たい | セキュリティ用語辞典 |
第8章 おわり — 最後にFAQ
ASM/EASMについてよく聞かれること
検索でよく見かける疑問から
ASMツールは必須ですか?
ガイダンスは「ASMは、全てを手作業で実施することは難しく、ASMの実施を支援する各種のツールを活用するのが一般的である」とし、「実際の攻撃面の調査と評価には、ツールの利用が実質不可欠」としています。ただし事前準備(自社ドメイン・IPの洗い出し)はツールなしでできますし、「少額の費用で実行できる範囲でPoCを実施することも有用」とも書かれています。また、社内に人材や時間の余裕がない場合には、事業者が運用を代行する「ASMサービス」という選択肢も紹介されています。いきなり全社導入を決める必要はありません。
ASMとEASM、結局どちらの言葉を使えばいいですか?
どちらでも構いません。経産省のガイダンスは「本書ではASMとEASMを同じ意味として取り扱う」と明記しています。EASMは「外部からアクセス可能である点を強調して」使われる呼び方だ、という説明です。ただしベンダーによっては、社内資産まで含めた広い意味でASMを使い、外部限定をEASMと呼び分けている場合があります。製品を比較するときは、名前ではなく「対象は外部だけか、社内も含むか」を実際に確認してください。
どのくらいの頻度でやればいいですか?
ガイダンスは具体的な頻度を示していません。「より頻繁に実施したほうサイバー攻撃のリスクを低減できるが、その分業務負荷が高くなる」として、自社のセキュリティポリシー、業務負荷、サイバー攻撃の流行などから総合的に判断するよう求めています。参考までに、ガイダンス収録の事例-Aは毎日検索を実行していました。実務的には、①定期実行は月次や週次で始める ②緊急性の高い脆弱性が公表されたときは臨時で回す——という二段構えが現実的です。②はガイダンスが挙げる導入目的の1つでもあります。
取引先のセキュリティをASMで確認してもいいですか?
慎重に扱ってください。ガイダンスは2点を書いています。第一に、オンアクセス型で他社が管理・運用する攻撃面の情報を収集する前には、事前に確認を行い承認を得ることを推奨——承認を得ずに障害を起こせば、民法の不法行為による損害賠償、刑法の電子計算機損壊等業務妨害罪、不正アクセス禁止法等による訴訟に発展する可能性があるとしています。第二に、「評価対象企業への是正措置の強要は控え、セキュリティレベルの評価、公表については慎重に行うべき」。ASMの結果は確度が低い可能性があるためです。取引先の管理は、契約と質問票で行うのが筋です。
出典・参考
- 経済産業省 商務情報政策局 サイバーセキュリティ課『ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンス~外部から把握出来る情報を用いて自組織のIT資産を発見し管理する~』(令和5年5月29日 初版) https://www.meti.go.jp/press/2023/05/20230529001/20230529001.html
- サイバーセキュリティ戦略本部『重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準』(2026年7月31日決定/2026年10月1日施行) https://www.cyber.go.jp/policy/group/infra/policy.html
- 内閣官房 国家サイバー統括室『重要インフラにおける安全基準等の浸透状況に関する調査について[2025年度]』(2026年7月) https://www.cyber.go.jp/policy/group/infra/policy.html
- IPA 独立行政法人情報処理推進機構『脆弱性対策の効果的な進め方(ツール活用編)』 https://www.ipa.go.jp/
- NIST『Special Publication 800-53 Revision 5』(攻撃面の定義) https://csrc.nist.gov/publications/detail/sp/800-53/rev-5/final
- CISA『Known Exploited Vulnerabilities Catalog』 https://www.cisa.gov/known-exploited-vulnerabilities-catalog
最終更新:2026年8月19日/次回見直し予定:2027年3月(経産省ガイダンスの改定有無と、統一基準にもとづく運用の状況を確認するため)



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