重要インフラとは?基幹インフラとどちらも16分野、なのに中身が違う【2026年版】

2026年7月31日の改定を一次資料から

重要インフラとは?基幹インフラとどちらも16分野、なのに中身が違う

「うちは該当するのか」に、公表資料だけで答えます。

30秒でわかる「重要インフラ」

  1. 止まると国民生活や経済活動に多大な影響が出る事業として、国が分野を指定したものです。事業者が自分で名乗るものではありません。
  2. 2026年7月31日の改定で15分野から16分野になりました。加わったのは「郵便」です。改定は2026年10月1日から施行されます。
  3. まぎらわしい別制度に「基幹インフラ」(経済安全保障推進法)があります。こちらも16分野ですが、分野の中身も、生じる義務も違います。
  4. 誤解:「重要インフラ=基幹インフラ」。根拠法が別です。ただし国は、基幹インフラを原則として重要インフラ防護の範囲に含めると明記しました(第3章)。
  5. 今日やること:主要な取引先に、指定を受けた事業者がいないか確認する。契約の条項が変わり始めています。

「重要インフラ」を調べに来られた方の事情は、たぶん次のどれかです。ニュースで見て気になった。取引先から確認票が届いた。自社が該当するのか判断がつかない。

この記事の中心は第3章と第7章です。第3章では、混同されやすい「基幹インフラ」との違いを、国自身が書いた注記で整理します。第7章では、指定を受けた事業者が実際にどこまでできているかという公表数字を並べます。これは、該当しない会社にとっても使えるものさしになります。

⚠ この記事の前提

この記事は2026年8月19日時点の内容です。制度の枠組みは、サイバーセキュリティ戦略本部『重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画』(2022年6月17日決定/2026年7月31日改定)および『重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準』(2026年7月31日決定)にもとづきます。

改定後の内容は2026年10月1日から施行されます。この記事は改定後の条文で書いていますので、いま現在の運用と一致しない箇所があり得ます。個別の該当性の判断は、必ず所管省庁の窓口にご確認ください。

CHAP1

第1章 / 全8章

重要インフラとは(やさしい定義)

「大事な設備」ではなく「指定された事業」です

まず、国が使っている定義そのものを見ます。行動計画の用語集はこう書いています。

重要インフラ:国民生活及び経済活動の基盤であって、その機能が停止し、又は低下した場合に国民生活又は経済活動に多大な影響を及ぼすおそれが生ずるもの。

サイバーセキュリティ戦略本部『重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画』別紙5 定義・用語集

ここで大事なのは、「重要インフラ」が設備ではなく事業を指していることです。日常語では発電所や通信ケーブルのようなモノを思い浮かべますが、制度上は「電力」「情報通信」といった分野であり、その分野に属する事業者が対象になります。

そしてもう一点、自己申告ではないという特徴があります。用語集の別の項目が、それをはっきり書いています。

重要インフラ事業者:サイバーセキュリティ基本法第3条第1項に規定する重要社会基盤事業者をいう。具体的には、重要インフラ分野に属する事業を行う者のうち、重要インフラ統一基準に基づき重要インフラ所管省庁において特定するもの(地方公共団体を除く)。

同 別紙5 定義・用語集(2026年7月31日改定後)

「所管省庁が特定する」——つまり、自社が該当するかどうかは国が決めます。そしてその所管省庁は5つに限られています。

区分省庁役割
重要インフラ所管省庁金融庁、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省事業者の特定と、分野ごとの基準づくり
司令塔内閣官房 国家サイバー統括室(NCO)統一基準にもとづく実施計画、情報の集約と提供
事案対処省庁警察庁、消防庁、海上保安庁、防衛省実際に事案が起きたときの対処

行動計画 別紙5 の定義にもとづきます。NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)は2025年7月1日に改組され、現在は国家サイバー統括室(NCO)です。2025年6月以前の資料はNISC名義になっています。

💡

「重要インフラだから罰する」制度ではありません

この行動計画には、事業者への罰則も、直接の命令もありません。目的は、分野ごとにバラバラだった安全基準の水準をそろえ、事故の情報を共有する土台をつくることです。法的な義務が生じるのは、次章以降で扱う別の法律のほうです。ここが混同の元になっています。

第1章 おわり — 次は第2章

CHAP2

第2章 / 全8章

16分野の一覧と、うちが該当するか

2026年7月31日に「郵便」が加わりました

行動計画は2022年6月17日に決定され、2024年3月8日、2025年6月27日、そして2026年7月31日に改定されています。直近の改定で、分野が15から16に増えました。

 改定前改定後(2026年10月1日〜)
分野の数15分野16分野
加わった分野郵便
名称が変わった分野政府・行政サービス行政サービス(地方公共団体を含む)
分野を定める文書行動計画そのもの重要インフラ統一基準(第4章)

『「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」の一部改定について』(2026年7月31日 サイバーセキュリティ戦略本部決定)の新旧対照にもとづきます。

16分野の全体像と、国が例として挙げている事業者・システムは次のとおりです。「重要システムの例」は、その分野で何が止まると困ると国が見ているかを示していて、読み物としても有用です。

分野対象となる事業者の例重要システムの例
情報通信主要な電気通信事業者、地上基幹放送事業者、ケーブルテレビ事業者ネットワークシステム、編成・運行システム
金融銀行等、生命保険、損害保険、証券、資金決済(資金移動業者等)勘定系システム、証券取引システム、清算システム
航空主たる定期航空運送事業者運航システム、予約・搭乗システム、整備システム
空港主要な空港・空港ビル事業者フライトインフォメーション、バゲージハンドリング
鉄道JR各社および大手民間鉄道事業者等列車運行管理システム、座席予約システム
電力一般送配電事業者、主要な発電事業者等電力制御システム、スマートメーターシステム
ガス主要なガス事業者プラント制御システム、遠隔監視・制御システム
行政サービス地方公共団体地方公共団体の情報システム
医療医療機関(小規模なものを除く)診療録等管理システム、地域医療支援システム
水道水道事業者・水道用水供給事業者(小規模なものを除く)監視システム、水道施設の制御システム
物流大手物流事業者集配管理システム、貨物追跡システム、倉庫管理システム
化学主要な石油化学事業者プラント制御システム
クレジット主要なクレジットカード会社、決済代行業者、指定信用情報機関等決済システム、信用情報提供・収集システム
石油主要な石油精製・元売事業者受発注システム、生産管理システム
港湾主要な港湾運送事業者・港湾管理者等ターミナルオペレーションシステム(TOS)
郵便(追加)郵便事業を営む者配達総合情報システム

行動計画 別紙1 より。ここに挙がっているのは「類型の例示」であり、具体的な事業者は所管省庁が特定します。緑は今回追加された分野、または次章で見る基幹インフラ側に無い分野です。

「主要な」「大手」「小規模なものを除く」を、自分では判断できません

一覧を見ると、ほとんどの分野に「主要な」「大手」という限定が付いています。これは意図的な書き方で、どこからが「主要」かは別に決まります。物流業を営んでいても「大手物流事業者」でなければ対象外ですし、医療機関でも「小規模なもの」は除かれます。該当性を自己判断しないでください。気になる場合は所管省庁に問い合わせるのが唯一の確実な方法です。

第2章 おわり — 次は第3章

CHAP3

第3章 / 全8章

基幹インフラとの違い

どちらも16分野。数が同じなので、よけいに紛らわしい

実務でいちばん多い取り違えが、これです。「重要インフラ」と「基幹インフラ」は別の制度です。根拠法も、対象事業者も、生じる義務も違います。

やっかいなのは、2026年8月現在、どちらも16分野だということです。数が一致しているため、「同じものを別の言い方で呼んでいる」と思われがちですが、中身の分け方が違います。

 重要インフラ基幹インフラ
根拠サイバーセキュリティ基本法/行動計画・重要インフラ統一基準経済安全保障推進法 第3章
正式な呼び方重要社会基盤事業者特定社会基盤事業者
分野の数16分野(2026年7月31日〜)16分野(医療は施行待ち)
事業者への義務直接の義務はない(自主的な取組の促進)設備の導入・委託前の届出と審査
指定された数公表されていない258者(2026年7月1日時点)
審査なし届出から30日間(延長・短縮あり)、勧告・命令あり
ねらいサービスを止めないこと(防護と復旧)外国からの妨害行為に使われないこと(供給網の安全)
所管国家サイバー統括室+所管5省庁内閣府+事業所管大臣

重要インフラ側は行動計画・統一基準、基幹インフラ側は内閣府『経済安全保障推進法の特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度の概要』(2026年7月時点)にもとづきます。

そして分野の中身です。並べると、ずれているところがはっきり見えます。

重要インフラ(16分野)基幹インフラ(16分野)関係
情報通信電気通信/放送基幹インフラ側は2つに分かれる
電力電気呼び方が違うだけ
ガス/石油/水道/鉄道/航空/空港ガス/石油/水道/鉄道/航空/空港対応する
金融/クレジット金融/クレジットカード対応する
港湾港湾運送対応する
郵便郵便対応する
医療医療基幹インフラ側は施行待ち
物流貨物自動車運送/外航貨物基幹インフラ側は2つに分かれる
行政サービス重要インフラだけ
化学重要インフラだけ

両制度の分野名を突き合わせたものです。この対応づけは公的な整理ではなく、筆者が両制度の一覧を並べて作ったものです。個別の該当性は各制度の所管に確認してください。基幹インフラ側の医療は2026年6月17日に改正法が公布され、公布から1年6月以内の政令で定める日から施行されます。

つまり、地方公共団体と石油化学は重要インフラだが基幹インフラではない、逆に基幹インフラ側は物流を2つに分けて細かく規制している——というずれ方をしています。

国自身が「差異があり得る」と注記しました

ここまで来ると「結局、どういう関係なのか」が知りたくなります。2026年7月31日に決定された重要インフラ統一基準は、その問いに脚注で正面から答えています。

重要インフラ事業者等と基幹インフラ事業者は、法律の趣旨の下に対象範囲(分野・事業者)が定められており、それらの間には差異があり得る。そうした中、基幹インフラ事業者は、(中略)サイバーセキュリティ確保の重要性が増大していることから、基幹インフラの対象範囲については、原則として、重要インフラ防護の範囲に含める。

『重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準』(2026年7月31日 サイバーセキュリティ戦略本部決定)脚注9

読み替えるとこうなります。「別の制度なので範囲は一致しない。ただし基幹インフラに指定された事業者は、原則として重要インフラとしても守る対象に入れる」。

💡

基幹インフラに指定されたら、重要インフラの側も見ることになります

この脚注の実務的な意味は、「基幹インフラの届出さえ出せば終わり」ではなくなったということです。統一基準は続けて、届出やインシデント報告に当たって前提となるサイバーセキュリティ対策を含め、分野・事業者横断的に講ずべき基本的な対策の徹底を図るとしています。届出制度は入口で、その下に日常の対策が要るという構図です。

なお基幹インフラ制度は、すでに実際に動いています。2025年度の事前届出は1,200件(うち設備の導入167件、重要維持管理等の委託1,033件)、事後報告は799件でした。前年度は届出972件・報告195件でしたから、報告は4倍を超えています。

内閣府『2025年度 事前届出件数及び事後報告件数』(2026年7月1日時点)より。制度の詳しい流れは 能動的サイバー防御とは? の第5章でも扱っています。

第3章 おわり — 次は第4章

CHAP4

第4章 / 全8章

2026年10月1日に変わること

「安全基準等策定指針」が役目を終えます

2026年10月1日は、この分野にとって節目の日です。3つのことが同じ日に動きます。

2026年10月1日に施行されるもの根拠誰に効くか
重要インフラ統一基準2026年7月31日 サイバーセキュリティ戦略本部決定政府機関(施策の基準)
行動計画の改定(16分野化)同上関係主体すべて
サイバー対処能力強化法(能動的サイバー防御)令和7年法律第42号基幹インフラ事業者ほか

統一基準・行動計画改定の施行日は各決定の附則に、能動的サイバー防御は 別記事 で扱っています。

ここで注意したいのが、「重要インフラ統一基準」の宛先です。名前から「事業者が守るべき基準」に読めますが、そうではありません。

統一基準は、政府機関を対象としており、重要インフラ事業者等が分野・事業者横断的に講ずべき対策を促進するための政府機関の施策について、PDCAサイクルを実施し、重要インフラにおけるサイバーセキュリティ強化の実効性を確保するためのスキームである。

『重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準』1.1(3)

つまり「国が仕事をしたかを測る基準」です。国は実施計画を作り、事業者の実施状況を調べ、サイバーセキュリティ戦略本部がその施策を評価して改善する——というPDCAが回ります。第7章で見る調査は、このPDCAの「把握・分析」にあたるものです。

「安全基準等策定指針」を探しても、これからは見つかりません

この改定で、文書の体系が組み替えられました。これまで分野横断の対策集だった『安全基準等策定指針』は、統一基準の第3部と、新しい『安全基準等策定ガイドライン』に引き継がれます。

 これまで2026年10月1日から
分野横断の対策を書いた文書安全基準等策定指針+手引書+ガイダンス統一基準 第3部+安全基準等策定ガイドライン
「安全基準等」の意味強制基準・推奨基準・ガイドライン・業界標準・内規などの総称変わりません
用語集の注記「ただし、安全基準等策定指針は含まない」この一文が削除されます

行動計画の新旧対照(IV.2および別紙5)より。古い検索結果やベンダー記事は「安全基準等策定指針」で解説しているものが多いので、日付を確認してください。

統一基準 第3部は、安全基準等に書かれるべき事項を6つのまとまりで示しています。並びに見覚えのある方も多いはずです。

統一基準 第3部の区分ここで問われること
3.2 組織統治経営層が責任を持つ体制になっているか
3.3 識別何を持っていて、どこにリスクがあるか把握しているか
3.4 防御入られない・広げられないための対策
3.5 検知起きたことに気づけるか
3.6 対応及び復旧止めて、直して、戻せるか
3.7 技術・脅威の動向等を踏まえた対策AI等の悪用による攻撃の高速化・大規模化など、新しい動きへの対応

統一基準 第3部の節構成より。「識別・防御・検知・対応・復旧」という並びは国際的な枠組みと共通で、国内の他のガイドラインとも突き合わせやすくなっています。

そして第3部には、制御システムを持つ組織に向けた、かなり踏み込んだ一文があります。

重要インフラを標的とするサイバー脅威のリスクが顕在化する中、これまでの考え方にとらわれることなく、サイバー脅威の動向等を踏まえた対策が必要となっている。例えば、「閉域網だから安全」といった過信により、サイバー攻撃の被害に遭う危険性が高まることを改めて認識する必要がある。

同 3.1(3)対象範囲
🚨 経営層の法的責任が、基準の本文に書かれました

統一基準 3.1(2)は、経営層は、組織の意思決定機関が決定したサイバーセキュリティ体制が当該組織の規模や業務内容に鑑みて不十分なことに起因して組織や第三者に損害が生じた場合、善管注意義務違反や任務懈怠に基づく損害賠償責任を問われ得ると書いています。

「担当者に任せてある」では済まない、という趣旨です。体制が「組織の規模や業務内容に鑑みて」十分かどうかが問われる以上、何を検討して、なぜその体制にしたのかを残しておくことに意味が出てきます。

第4章 おわり — 次は第5章

CHAP5

第5章 / 全8章

「止まった」は数字で決まっています

サービス維持レベルという、あまり知られていない別紙

行動計画の別紙2は、ほとんど話題にならないのにいちばん具体的な部分です。分野ごとに「ここまで止まったら重大」というしきい値が、法令にひもづけて書かれています。

分野サービス維持レベル(この事故が生じないこと)
情報通信(電気通信)設備の故障により、役務提供の停止・品質の低下が3万以上の利用者に対し2時間以上継続する事故
情報通信(放送)基幹放送設備の故障により、放送の停止が15分以上継続する事故
情報通信(ケーブルテレビ)停止を受けた利用者が3万以上、かつ停止時間が2時間以上の事故
電力システムの不具合により、供給支障電力が10万キロワット以上で、支障時間が10分以上の供給支障事故
ガスシステムの不具合により、供給支障戸数が100以上の供給支障事故

行動計画 別紙2 より抜粋。すべての分野に数値があるわけではなく、金融のように監督指針を参照する形の分野もあります。

この表の効きどころは「時間」です。放送は15分、電力は10分気づいてから対応を始めるのでは、まず間に合わない時間です。

💡

該当しない会社にも、考え方は使えます

自社サービスについて「何が、どのくらい、どれだけの人に止まったら重大なのか」を数字で決めておく——これは重要インフラでなくてもできることです。数字が決まっていないと、事故のときに「重大かどうか」を、いちばん混乱している最中に議論することになります。止める判断と報告の判断を誰がするかは CSIRT の話につながります。

よくある誤解と、似ている用語

よく聞く言い方実際は
「重要インフラ=基幹インフラ」別制度です。どちらも16分野ですが中身が違い、義務も違います(第3章)
「重要インフラに指定されると罰則がある」行動計画に罰則はありません。届出と審査があるのは基幹インフラ制度のほうです
「うちは中小だから無関係」分野に属していれば「大手」でなくても業界基準は及びますし、取引先経由でも影響します(第7章)
「制御システムは閉域だから安全」統一基準が名指しで「過信」と書きました(第4章)
「セプターって何?」分野ごとの情報共有・分析の組織です。CEPTOARの略。国と事業者の間で情報をやりとりする窓口にあたります
「任務保証って何?」自らが遂行すべき業務やサービスを「任務」と捉え、それを果たすために必要な能力と資産を確保するという考え方です

任務保証の定義は『サイバーセキュリティ戦略』(2025年12月23日 閣議決定)にもとづき、統一基準の脚注が引用しています。

第5章 おわり — 次は第6章

CHAP6

第6章 / 全8章

起きているのは攻撃より「管理不良」

行動計画が、いちばん率直に書いている部分です

「重要インフラ」と聞くと、国家を背景にした高度な攻撃の話を想像します。行動計画も確かにそれを警戒していますが、実際に起きている障害の原因については、まったく違うことを書いています。

重要インフラサービス障害の原因の多くは管理不良となっており、外部からの攻撃のみならず、システム調達、設計及び運用についても、より適切に管理する必要がある。

行動計画 III. 重要インフラを取り巻く環境変化と行動計画に関する基本的な考え方

別の箇所では、さらに踏み込んでいます。「管理を適切にすれば防げた類似障害が繰り返し発生している」。同じ失敗が繰り返されている、という認識です。

これは数字でも確かめられます。重要インフラ事業者等から国へ寄せられた情報連絡の件数です。

年度事業者等から国への情報連絡
FY2022302件
FY2023272件
FY2024338件
FY2025499件
FY2026 第1四半期185件

『重要インフラにおける情報共有件数について(2026年度第1四半期)』より。2026年度から集計方法が変わり、事象や原因が類型化されていない報告も対象になっています。そのため第1四半期の185件を単純に前年度と比べることはできません。

そして、FY2025の499件を原因別に見ると、こうなります(複数選択のため合計は一致しません)。

原因FY2025FY2022からの変化
不明124件62 → 51 → 67 → 124
機器等の故障97件43 → 38 → 36 → 97
外部委託先の管理ミス76件49 → 50 → 62 → 76
情報の不正取得34件10 → 10 → 22 → 34
システムの脆弱性31件12 → 35 → 19 → 31
DDoS攻撃等の大量アクセス29件28 → 32 → 52 → 29
ユーザの操作ミス/管理ミス20件/20件いずれも増加傾向
不審メール等の受信17件39 → 7 → 3 → 17
適切なシステム等運用の未実施12件8 → 7 → 11 → 12
内部不正1件1 → 2 → 3 → 1

同資料「2.原因別類型(複数選択)」より、FY2025の件数が多い順に抜粋。変化欄はFY2022→FY2023→FY2024→FY2025です。

目を引くのは、上位3つがどれも「攻撃」ではないことです。不明、機器の故障、そして外部委託先の管理ミス。この3つで、原因の記録の相当部分を占めています。

🚨

外部委託先の管理ミスは、4年連続で増え続けています

49 → 50 → 62 → 76件。他の原因が年によって上下するなかで、これだけが単調に増えています。委託先が増え、クラウドが増え、自社の管理が及ばない範囲が広がったことの反映と読めます。ここは サプライチェーン攻撃 と地続きですが、攻撃されたのではなく、管理が届かなかったという点が違います。

もうひとつ、事象別の内訳も見ておきます。FY2025の499件のうち、「システム等の利用困難」が284件——半分以上です。情報の漏えいは41件、システム等への侵入は48件でした。重要インフラで問題になるのは、まず「止まること」だと数字が言っています。

第6章 おわり — 次は第7章

CHAP7

第7章 / 全8章

指定事業者の実施率を、自社のものさしにする

該当しない会社にこそ使える数字です

ここがこの記事でいちばん実用的な部分です。国は毎年、重要インフラ事業者等に「どこまでやっているか」を調査し、結果を公表しています。2025年度調査は15分野・2,103事業者から回答を得ました(回答率54.2%、基準日2025年9月30日、公表は2026年7月)。

つまりこの数字は、国が「特に守るべき」と指定した事業者たちの水準です。自社の対策が進んでいるのか遅れているのかを測る、日本でいちばん手に入りやすいものさしになります。

項目実施率読み方
担当部署・従業員が決まり、責任と権限も明確78.6%体制の形はおおむね整っている
基本方針等の見直しを行っている82%見直しの習慣はある
リスクアセスメントの実施64.9%3社に1社は未実施
事業継続計画の見直し36.8%見直しの中心は基本方針に偏っている
コンティンジェンシープランの見直し28.6%同上
リスク対応計画の見直し25.9%同上
利用者アクセス権の定期的なレビュー約3割不要な権限が残り続ける
管理者アカウントへの多要素認証約2割特権IDの奪取は致命的な被害に直結
外部公開アプリケーションへの多要素認証約2割外から狙われる面が守られていない
委託先との責任分界点の明確化19.9%第6章の「外部委託先の管理ミス76件」と対応
委託先との契約事項の合意16.9%対策の起点がいちばん低い
クラウド利用時のアップデート時の社内レビュー体制16.6%クラウドは89.9%が利用している
クラウドのデータ消失に備えた自組織でのバックアップ24.4%事業者任せになっている
人材・予算が共に十分に配分されている11.6%いずれかが十分な場合を足しても22.3%

国家サイバー統括室『重要インフラにおける安全基準等の浸透状況に関する調査について[2025年度]』(2026年7月)より。「約3割」「約2割」は資料本文の表現をそのまま用いています。金融分野の一部は外部調査の読み替えです。

この表の読み方を、はっきり書きます。

国が指定した事業者でも、管理者アカウントの多要素認証は約2割です

資料は「特権IDの奪取は致命的な被害に直結する」と書き添えています。それでも約2割。これは「重要インフラですらこの水準だから、うちはやらなくていい」という話ではありません。逆です。ここを埋めるだけで、国が指定した事業者の8割より前に出られるということです。しかも管理者アカウントの多要素認証は、ほとんどの場合、追加費用なしで今日設定できます。

もうひとつ、委託先との「契約事項の合意」16.9%も見逃せません。第6章で見たとおり、実際の障害原因では外部委託先の管理ミスが76件で増え続けているのに、その入口である契約は2割を切っています。起きていることと、手当てされていることが噛み合っていません。

該当しない会社に、何が起きるか

「うちは16分野のどれでもない」という会社にも、経路は3つあります。

経路何が起きるか
1. 取引先が指定事業者契約に報告期限や責任分界点の条項が入り始めます。第7章の16.9%が上がるということは、その相手として確認票が回ってくるということです
2. 自社がサプライチェーンの一部行動計画は、システムの設計・構築・運用・保守を行う事業者やクラウド事業者を「サイバー空間関連事業者」として位置づけ、責任ある行動を求めています
3. 巻き込まれるFY2025には「他分野の障害からの波及」が9件記録されています。止まったのは自社ではなくても、業務は止まります

行動計画 III.2 および用語集、情報共有件数資料より。「サイバー空間関連事業者」はサイバーセキュリティ基本法第7条の責務にひもづけられています。

💡

能動的サイバー防御の「協議会フレンズ」とつながります

2026年10月1日に施行されるサイバー対処能力強化法では、基幹インフラ事業者などが構成員となる協議会が設けられ、構成員以外にも情報をプッシュ型で提供する枠が検討されています。その例として挙げられているのが「基幹インフラのサプライチェーン等」です。指定を受けていなくても、情報を受け取る側になり得ます。詳しくは 能動的サイバー防御とは? の第6章へ。

✅ 今日からできる4つ

管理者アカウントに多要素認証をかける——指定事業者の実施率は約2割。ここを埋めるだけで上位に立てます。
主要な取引先に指定事業者がいるか確認する——基幹インフラ側は事業所管大臣が指定・告示しており、公表資料で確認できます。
「どこまで止まったら重大か」を数字で決める——第5章のサービス維持レベルの考え方を、自社サービスに当てはめます。
委託契約に、事故時の連絡期限と責任分界点を書く——実施率16.9%と19.9%、つまり最も手つかずで、最も原因になっているところです。

第7章 おわり — 次は第8章

CHAP8

第8章 / 全8章

関連用語と、次に読む記事

この語とセットで覚えると理解が早くなります

能動的サイバー防御 サプライチェーン攻撃 DDoS攻撃 CSIRT 内部不正 セプター(準備中) 机上演習(準備中)
こんな方に次に読む記事
10月1日に何が始まるか知りたい能動的サイバー防御とは?
委託先の管理ミスが気になるサプライチェーン攻撃とは?
「止まる」攻撃の実際を見たいDDoS攻撃とは?
誰が止める判断をするか決めたいCSIRTとは?
監視体制の作り方を知りたいSOCとは?
内側からのリスクも見たい内部不正とは?
報告義務の期限を確認したい二重恐喝とは?(報告義務の章)
用語を一覧で見たいセキュリティ用語辞典

第8章 おわり — 最後にFAQ

FAQ?

よくある質問

重要インフラについてよく聞かれること

検索でよく見かける疑問から

うちが重要インフラ事業者かどうかは、どこで分かりますか?

自己判断できません。行動計画は「重要インフラ所管省庁は、各重要インフラ分野における重要インフラ事業者等を特定し、自らが重要インフラ事業者等であることを認識できるようにする」としています。つまり国が特定して知らせる建て付けです。第2章の一覧で自社の分野が入っていて、かつ「主要な」「大手」に当たりそうなら、所管省庁(金融庁・総務省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省のいずれか)に確認するのが確実です。なお基幹インフラ制度のほうは、事業所管大臣が指定して告示しており、指定された事業者の一覧が内閣府から公表されています(2026年7月1日時点で258者)。

該当しないなら、まったく無関係ですか?

いいえ。第7章の3つの経路があります。とくに現実的なのは取引先経由です。基幹インフラ事業者には設備の導入・委託の事前届出義務があり、2025年度だけで事前届出1,200件・事後報告799件が動いています。その相手方や再委託先になれば、情報を出すことを契約で求められます。また統一基準は、重要インフラ事業者の「委託先との契約事項の合意」がまだ16.9%だと指摘しており、これから上がるということは、確認票が増えるということです。

「安全基準等策定指針」を探していますが、見つかりません

2026年7月31日の改定で、役割が『重要インフラ統一基準』第3部と『安全基準等策定ガイドライン』に引き継がれました(2026年10月1日施行)。行動計画の用語集からも、指針に関する記述が整理されています。検索で出てくる解説記事の多くは改定前のものなので、日付を必ず確認してください。なお「安全基準等」という言葉自体は残っており、強制基準・推奨基準・ガイドライン・業界標準・内規などの総称という意味は変わっていません。

中小企業が今から真似できることはありますか?

あります。第7章の実施率の表を、そのままチェックリストとして使ってください。指定事業者ですら管理者アカウントの多要素認証が約2割、アクセス権の定期レビューが約3割という水準です。この2つは費用をほとんどかけずにできて、しかも効果が大きい——だから最初に手を付ける価値があります。逆に、リスクアセスメントや監査のようにコストと知識が要るものは後回しでかまいません。資料自身も、実施率が低い理由を「コスト負担や必要な知識の不足」と分析しています。

出典・参考

最終更新:2026年8月19日/次回見直し予定:2026年11月(2026年10月1日の施行と、統一基準にもとづく運用の開始を反映するため)

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