机上演習とは?うまくいった演習ほど、価値がありません【2026年版】

JPCERT/CCと国の演習資料を一次資料から

机上演習とは?うまくいった演習ほど、価値がありません

見つけるのは「できること」ではなく「決まっていないこと」です。

30秒でわかる「机上演習」

  1. 実際にシステムを操作せず、机の上でインシデント対応を模擬する訓練です。テーブルトップ演習とも呼ばれます。
  2. JPCERT/CCは、演習の形として「マニュアルどおりに連絡が取れるかといったコミュニケーションチェックのみ」でもよいとしています。
  3. 国の全分野一斉演習は2025年11月で20回目900を超える組織が参加し、形式は机上演習・オンラインです。
  4. 誤解:「大がかりな準備が要る」。電話が通じるか確かめるだけでも、演習として成立します。
  5. 今日やること:「夜間に事故が起きた」と仮定して、最初に電話する人に実際にかけてみる
⚠ 「演習」という言葉について

当サイトには情報処理安全確保支援士試験の「午後演習」記事CTFの演習記事が多数あります。この記事で扱う「机上演習」は、それらとは別のもの——組織がインシデント対応の体制を確かめるために行う訓練です。

試験対策をお探しの方は 支援士試験 午後II演習 のシリーズへどうぞ。この記事は2026年8月19日時点の内容で、JPCERT/CC『CSIRTガイド』、国家サイバー統括室の演習資料および調査、サイバーセキュリティ戦略本部『重要インフラ統一基準』(2026年7月31日決定)にもとづきます。

机上演習は、セキュリティ対策の中でいちばん「後回しにされやすい」ものです。理由ははっきりしています。やらなくても、今日は何も困らないからです。

この記事の中心は第2章と第7章です。机上演習の目的を取り違えていると、時間をかけたのに何も得られない——その取り違えがどこで起きるかを、国の文書から示します。第6章には、当サイトの記事から題材を引いたシナリオのテンプレート5本を置きました。

CHAP1

第1章 / 全8章

机上演習とは(やさしい定義)

「机の上でやる」ことに、ちゃんと意味があります

机上演習(きじょうえんしゅう)は、英語のTabletop Exerciseにあたる言葉で、テーブルトップ演習とも呼ばれます。実際のシステムを操作せず、関係者が集まって「こういう事故が起きた」という想定で、判断と連絡を口頭で進めていく形式です。

JPCERT/CCの『CSIRTガイド』は、演習の位置づけをこう説明しています。

インシデント発生時に備えて、異常を速やかに検知する仕組み(装置および体制)を導入し、インシデント検知後の対応マニュアルを整備しておくことが重要です。そして、一連の対応手順が有効に機能することを確かめる目的で、演習を定期的に行うことが推奨されます。これは、防災訓練のように実際に作業を行うようなスタイルもあれば、マニュアルどおりに連絡が取れるかといったコミュニケーションチェックのみを行う場合もあります。

JPCERT/CC『CSIRTガイド』4.2 CSIRTの活動

ここに、この記事でいちばん伝えたい安心材料があります。「コミュニケーションチェックのみを行う場合もあります」。

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電話をかけるだけでも、演習です

机上演習というと、シナリオを作り、進行役を立て、会議室を半日押さえて……という絵を想像します。JPCERT/CCはそこまで求めていません。「マニュアルどおりに連絡が取れるか」を確かめるだけでもよい、と書いてあります。やらない理由が「準備が大変だから」なら、いちばん小さい形から始められます。第3章で3段階に分けます。

似ている訓練との違い

「演習」「訓練」「テスト」は現場では混ざって使われます。実際に操作するかどうかで整理すると分かりやすくなります。

種類やることシステムを触るか
机上演習想定を読み上げ、判断と連絡を口頭で進める触らない
実機演習(ハンズオン)検証環境などで実際に手を動かす触る
標的型メール訓練擬似的な攻撃メールを送り、開封や報告の状況を見る受信者が実際に操作する
連絡訓練連絡網どおりに情報が伝わるかを確かめる触らない
復旧テストバックアップから実際に戻せるか試す触る

分類は筆者によるものです。名称は組織によって揺れます。国の調査資料でも、同じ演習に「机上演習・オンライン」「実機演習・机上演習」のように複数の形式が併記されています(第4章)。

机上演習の強みは、止められないシステムを止めずに済むことです。本番環境を触る訓練は、それ自体が事故になり得ます。机の上でやる限り、何を想定しても安全です。だから「ランサムウェアで基幹システムが全滅した」のような、実機では絶対に試せない想定を扱えます。

第1章 おわり — 次は第2章

CHAP2

第2章 / 全8章

目的は「できること」の確認ではありません

この記事の核です

机上演習でいちばん多い失敗は、準備不足でも進行のまずさでもありません。目的の取り違えです。

「手順どおりにできるか確かめよう」——そう考えて演習をすると、手順どおりにできた時点で「成功」になります。参加者は満足し、報告書には「問題なく完遂」と書かれ、次の年も同じことをします。そして本番で、手順に書かれていなかったことが起きます。

国の文書は、目的をはっきり書いています。2026年7月31日に決定された『重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準』(2026年10月1日施行)です。

3.4.2.2 演習・訓練
① リスクマネジメントによる事前対応と、危機管理の両面から、体制や取組の有効性を検証するため、実践的な演習・訓練を定期的に実施し、課題の抽出及び改善を行う。

サイバーセキュリティ戦略本部『重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準』3.4 防御

「課題の抽出及び改善」——目的は課題を出すことです。JPCERT/CCも同じ立場です。

演習により問題が見つかった場合は、対応マニュアルなど、一連の対応手順を修正します。

JPCERT/CC『CSIRTガイド』4.2 CSIRTの活動

2つの文書が同じことを言っています。演習の成果物は「問題なく完遂しました」という報告ではなく、修正されたマニュアルです。

🚨 何も問題が出なかった演習は、失敗です

厳しい言い方ですが、そう考えたほうが実務に合います。本番のインシデントで、想定外のことが1つも起きないということはありません。演習で何も出なかったということは、①想定が易しすぎた ②参加者が「正解」を演じた ③そもそも詰まる可能性のある部分を通っていない——このどれかです。

演習後に「課題ゼロ」と書きそうになったら、設計を疑ってください。第7章で、出やすくする方法を扱います。

国の全分野一斉演習も、同じことを狙っています

国家サイバー統括室が実施する全分野一斉演習の説明も、能力の披露ではなく把握と改善に置かれています。

全15分野の重要インフラ事業者等、所管省庁及びサイバーセキュリティ関係機関から過去最多の900を超える組織が参加し、自社の障害対応体制を確認するとともに、自社の意思決定や組織内のコミュニケーションの特性把握及び改善を促す取組を実施しました。

国家サイバー統括室『重要インフラ15分野を対象に 2025年度「全分野一斉演習」を実施』(2025年11月13日)

「自社の意思決定や組織内のコミュニケーションの特性把握」——狙っているのは技術力ではなく、その組織の癖です。誰に情報が集まりすぎるか、どこで判断が止まるか、誰が抜けるか。これは机の上でしか見えません。

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演習は、経営層と話すための口実になります

『重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画』は、演習参加のメリットとして「事前準備、事後の改善の場面を通じて経営層との対話の機会としても有効に活用できる」点を挙げ、国がその説明資料を作成・公表するとしています。「予算をください」より「演習でこの部分が止まりました」のほうが、話が通ります。体制の話は CSIRT の記事へ。

第2章 おわり — 次は第3章

CHAP3

第3章 / 全8章

規模は3段階から選べます

いちばん小さい形は、電話1本です

JPCERT/CCが「コミュニケーションチェックのみ」でもよいとしている以上、いきなり大きく始める必要はありません。3段階に分けて、今の自組織に合うものから始めるのが現実的です。

段階所要時間・人数やること分かること
Lv.1 連絡確認15分/2〜3名「夜間に事故が起きた」と仮定し、連絡網の順に実際に電話をかけてみる番号が古い/出ない/その人が担当ではない
Lv.2 机上演習1時間/5〜8名1つのシナリオを読み上げ、各自が「自分は次に何をするか」を口頭で述べる判断の止まる場所、抜ける部署、決まっていない基準
Lv.3 全社演習半日/経営層を含む全部門時間経過とともに状況を追加し、広報・法務・経営判断まで通す公表するかの判断、止める判断、対外説明の担い手

段階の分け方は筆者によるものです。Lv.1は、JPCERT/CCの言う「コミュニケーションチェックのみ」にあたります。

Lv.1を軽く見ないでください。ここでいちばん多く問題が出ます。ありがちな結果を挙げます。

Lv.1でよく出てくることなぜ本番で効くか
連絡網の番号が、退職者や旧部署のもの深夜に気づくと、そこで止まります
連絡先の一覧が社内のファイルサーバにしかないランサムウェアで暗号化されると、開けません
誰に最初に報告するかが、人によって違う報告が二重になる、あるいは誰にも届きません
外部の相談先(支援事業者・保険・警察)の番号がない探すところから始まります
休日・夜間に誰が出るのかが決まっていない事故は営業時間を選びません

実務でよく見られる例です。連絡網や初動の作り方は インシデント対応プレイブック最初の30分 にまとめています。

連絡先の置き場所は、それ自体が演習の論点です

ランサムウェアの被害では、共有フォルダにあった手順書や連絡網ごと暗号化されることがあります。演習でここに気づくと、「紙に印刷して各拠点に置く」「別系統のクラウドに置く」といった具体的な改善に直結します。実際の被害と復旧の流れは 大規模ランサムウェア被害の事例 をご覧ください。

第3章 おわり — 次は第4章

CHAP4

第4章 / 全8章

国はどんな演習をやっているか

参加できるものが、思ったより多くあります

机上演習は自前で企画するものだと思われがちですが、公的機関が提供している演習に参加するという道があります。しかもかなりの数があります。

全分野一斉演習(20回目・900組織超)

国家サイバー統括室が主催する、いちばん大きな演習です。2025年11月12日に実施されました。

項目2025年度の実績
実施日2025年11月12日(ハイブリッド方式)
回数20回目
参加組織過去最多の900を超える組織(全15分野の重要インフラ事業者等、所管省庁、関係機関)
形式机上演習・オンライン/部門横断
2025年度の新しい試み集合会場において初の試みとなる一体的なシナリオで、他組織の障害が自社に影響が及ぶ際の対応も検証

国家サイバー統括室の実施報告(2025年11月13日)および『重要インフラにおける安全基準等の浸透状況に関する調査[2025年度]』より。この演習は旧称を「分野横断的演習」といいます。

2025年度の新しい試みに注目してください。「他組織の障害が自社に影響が及ぶ際の対応」——自社は無事なのに、取引先やインフラが止まって業務が動かなくなる、という想定です。これは机上演習でしか扱えません。実機では他社を止められないからです。関連する考え方は サプライチェーン攻撃 にあります。

そして、この演習は参加して終わりではありません。行動計画は、参加者側の宿題まで書いています。

重要インフラ事業者等においては、演習への備えとして自組織におけるリスク等の把握に努め、演習に参加し、その事後においては、洗い出された課題の分析・検証を通じて、自組織の体制や内規、リスクマネジメント等が有効に機能しているかの見直しとその改善に取り組む必要がある。

『重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画』5.1 障害対応体制の有効性検証

また、国は「全分野一斉演習の一部を疑似的に体験できる演習プログラム等の提供に取り組む」としています。対象事業者でなくても、教材が公開される方向だということです。

公的な演習の一覧

2025年度の調査では、回答した事業者が実際に参加している演習が実名で挙がっています。形式の欄が、この記事にとって重要です。

演習・訓練名実施主体形式内容
全分野一斉演習NCO(国家サイバー統括室)机上演習・オンライン重要インフラ含む障害対応体制検証
金融業界横断演習(Delta Wall)金融庁机上演習・オンライン金融業界でのサイバー攻撃対応演習
金融ISAC演習(FIRE)金融ISAC実機演習・机上演習マルウェア感染等を想定した対応
実践的サイバー防御演習(CYDER)総務省・NICT実機演習インシデント対応に必要な知識・スキルの習得
インシデント発生時CSIRT対応訓練J-LISオンラインシナリオに基づくCSIRT対応
セプター訓練NCO・セプター事務局メール連絡緊急時の情報疎通確認
標的型攻撃メール対応訓練自治体・県警等メール配信擬似メール送信による対応確認
個人情報インシデント対応訓練個人情報保護委員会オンライン個人情報漏えい時の対応手順確認
制御システム演習(CSSC演習)CSSC・電力ISAC等実機演習制御系対象のハンズオン演習

『重要インフラにおける安全基準等の浸透状況に関する調査について[2025年度]』設問30の自由記述(主な記載)より。参加資格や開催時期は主体ごとに異なりますので、参加を検討する場合は各主体の案内をご確認ください。この他にIPAが CyberSPEX・CyberSTIX・CyberREX を実施しています。

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「机上演習」は、国の演習の主要な形式です

この表で確かめてほしいのは、いちばん規模の大きい全分野一斉演習も、金融業界横断のDelta Wallも、形式は「机上演習」だということです。机上演習は簡易版ではありません。部門をまたいだ意思決定を検証するには、むしろ机上のほうが適しているからそうなっています。

第4章 おわり — 次は第5章

CHAP5

第5章 / 全8章

実施率の現実

国が指定した事業者でも、この水準です

では実際、どれくらいの組織が演習をしているのか。重要インフラ15分野の2,103事業者に聞いた結果があります(2025年度調査、回答率54.2%)。

実施・参加しているもの(複数回答)割合
政府機関や公的機関が提供している演習・訓練に参加している(全分野一斉演習以外)39.9%
自組織で企画して実施している24.8%
NCO主催の全分野一斉演習に参加している22.4%
政府機関や公的機関以外が提供している演習・訓練に参加している16.6%
特に実施・参加しているものはない14.5%
他の重要インフラ事業者やサプライチェーン・関係主体と合同で企画して実施している4.3%
その他1.0%

『重要インフラにおける安全基準等の浸透状況に関する調査について[2025年度]』設問29より。金融分野を含みます。複数回答のため合計は100%を超えません。

3つ、読み取れることがあります。

読み取れること意味
自分で企画しているのは4社に1社(24.8%)多くは外部が用意した演習に参加する形で済ませています。裏を返せば、自社の事情に合わせた課題は出にくいということです
合同演習は4.3%第4章で見たとおり、国は「他組織の障害が自社に及ぶ」想定に踏み込み始めました。しかし民間側の合同演習は、まだほとんど行われていません
14.5%は何もしていない国が特に守るべきとして指定した分野の事業者でも、7社に1社は演習・訓練をしていません

解釈は筆者によるものです。調査は事業者の自己申告にもとづきます。

そして、演習と表裏一体の数字がもう1つあります。警察庁の資料です。

ランサムウェア被害にあった企業・団体にアンケート調査を行った結果、BCPを策定済の組織の割合は約18%であった。ランサムウェアによるデータの暗号化は地震等の物理的災害とは被害の状況が異なり、調査・復旧作業や広報の在り方も、物理的災害時とは異なる対応が求められるため、サイバー攻撃を想定したBCPを事前に準備しておく必要がある。

警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』特集Ⅱ

同じ資料は、被害の抑制に有効な取組として「ランサムウェア攻撃を受けた際の対応に関する訓練」を、オフラインバックアップやログの取得と並べて挙げています。

🚨 地震のBCPは、ランサムウェアには効きません

警察庁が指摘しているのはここです。地震では建物と人が被害を受けますが、データは残っています。ランサムウェアでは建物も人も無事なのに、データだけが読めなくなります。「全員出社できるのに、何もできない」という状態です。

災害用のBCPがあるから大丈夫、とは言えません。そして、その違いに気づく最も安い方法が机上演習です。「サーバが全部暗号化された。明日の出荷はどうする?」と1時間話すだけで、既存のBCPが答えを持っていないことが分かります。被害の全体像は ランサムウェアとは? をご覧ください。

第5章 おわり — 次は第6章

CHAP6

第6章 / 全8章

題材のテンプレート5本

そのまま読み上げて使えます

ここからは筆者が作ったテンプレートです。公的な雛形ではありませんが、どれも当サイトで一次資料から書いた記事が題材の裏づけになっています。

使い方は共通です。①最初の状況を読み上げる ②各自が「自分は次に何をするか」を口頭で述べる ③追加の状況を出す ④また述べる——これを2〜3回繰り返します。司会は答えを持っていなくて構いません。止まった場所を書き留めるのが仕事です。

① ランサムウェア(Lv.2/1時間)

時点読み上げる状況出やすい課題
最初金曜21時。共有サーバのファイルが開けないと、宿直から電話があった誰が一次受けするか。この時間に誰を起こすか
15分後複数拠点で同じ症状。身代金を要求する文面が置かれていたネットワークを切る判断を、誰がしていいのか
30分後バックアップサーバも同じネットワークにいたことが分かった復旧の見込みが立たないときの、業務の代替手段
45分後取引先から「御社からのメールが届かない」と問い合わせが来たいつ、誰が、何を外部に言うか

初動の手順は 最初の30分、報告義務の期限は 二重恐喝とは? の報告義務の章にまとめています。

② BEC・送金してしまった(Lv.2/45分)

時点読み上げる状況出やすい課題
最初取引先から「振込先口座を変更した」というメールが来て、経理が対応済み。金額は3,200万円気づくきっかけが、そもそも社内にあるか
10分後取引先に電話したところ「そんなメールは出していない」銀行への組戻し依頼を、誰が何分以内にやるか
25分後過去のメールのやりとりが、攻撃者に読まれていた形跡があるメールアカウントの侵害範囲を、どう調べるか

手口と見分け方は BECとヘッダの確認 にあります。この演習は経理・財務部門を必ず入れてください。

③ 取引先からの被害連絡(Lv.2/45分)

時点読み上げる状況出やすい課題
最初委託先から「弊社がランサムウェア被害に遭いました」と連絡があったその委託先に、自社のどのデータを預けていたか即答できるか
20分後預けていた個人データが含まれる可能性があると言われた個人情報保護委員会への報告は誰の責任か
35分後復旧の見込みは「未定」と回答されたその業務を、自社で代替できるか

1行目で詰まる組織が非常に多い題材です。委託先の管理は サプライチェーン攻撃 へ。

④ 元従業員による持ち出し(Lv.2/45分)

時点読み上げる状況出やすい課題
最初先月退職した社員が、競合他社で自社の顧客リストを使っているらしいと営業から報告があった誰が調査を始めるか。人事か、情シスか、法務か
15分後その社員のアカウントが、退職後も有効だったことが分かったログが残っている期間はどのくらいか
30分後法務から「証拠として使えるように調べてほしい」と言われた調べ方を誤ると証拠にならないことを、誰が知っているか

対策の枠組みは 内部不正とは?、証拠の扱いは デジタルフォレンジック へ。事案の形で深く考えたい方は 支援士試験の午後II演習 も題材になります。

⑤ 他社が止まって、自社が動かない(Lv.3/半日)

時点読み上げる状況出やすい課題
最初利用しているクラウドサービスが、大規模障害で停止した。自社のシステムは無事「自社のせいではない」ときの、社内の指揮系統
1時間後復旧の見込みが発表されない。顧客からの問い合わせが増え始めた何を、どの時点で顧客に言うか
3時間後物流の委託先も同じサービスを使っており、出荷が止まった同じ事業者に依存している範囲を把握しているか
終了時翌朝までに復旧しなかった場合、何を止めて何を続けるか決める優先して守る業務の順位が、決まっているか

これは第4章で見た、国が2025年度に初めて取り入れた「他組織の障害が自社に影響が及ぶ際の対応」と同じ発想の題材です。

「正解」を用意しないでください

シナリオに模範解答を添えると、演習は答え合わせになります。そうなると参加者は正解を言おうとし、「実は分かりません」が出てこなくなります。司会が持つべきなのは正解ではなく、「では、それは誰が決めますか」「その番号はどこに書いてありますか」と聞き返す構えです。答えられなかったところが、そのまま成果物になります。

第6章 おわり — 次は第7章

CHAP7

第7章 / 全8章

「うまくいった演習」を疑う

出るべき問題が、出ていないだけかもしれません

第2章で、演習の目的は「課題の抽出及び改善」だと確認しました。では、課題が出なかったときに何を見直せばいいのか。設計の側にある、よくある原因を挙げます。

症状おそらくの原因次回の直し方
全員がすらすら答えたシナリオを事前に配っていた/毎年同じ題材当日まで内容を伏せる。題材を変える
情シス部門だけで完結した技術的な想定に寄りすぎている広報・法務・経理・経営を入れる想定を混ぜる(第6章②③⑤)
「対応します」で話が進んだ具体を詰めていない「誰が」「何分以内に」「どこに書いてある手順で」まで聞き返す
結論が「体制を強化する」だった課題が抽象のまま終わった課題を1つの文書名・1つの担当者名まで落とす
経営層が出席しなかった現場の訓練として案内した公表・止める・支払うなど経営でしか決められない論点を入れて再度案内する

整理は筆者によるものです。3行目は特に効きます。「対応します」を許すと、演習は一気に形骸化します。

記録は3つの列だけで足ります

立派な報告書は要りません。次につながる記録は、次の3列があれば成立します。

書くこと
止まった場所議論が詰まった瞬間を、そのまま書く「ネットワークを切る判断を誰がするかで3分止まった」
直すもの修正する文書やしくみを1つ挙げる「インシデント対応手順書に、切断の決裁者を明記する」
誰が・いつまでに名前と期限「情シス〇〇/9月末」

JPCERT/CCが「演習により問題が見つかった場合は、対応マニュアルなど、一連の対応手順を修正します」としているとおり、記録のゴールは文書の修正です。

✅ 今日からできる4つ

連絡網の1番目の人に、実際に電話をかけてみる——これがLv.1の演習です。15分で終わります。
連絡網が「暗号化されたら開けない場所」にないか確かめる——共有フォルダだけに置いていないか。
第6章のシナリオを1本選び、1時間の予定を入れる——参加者は5〜8名で十分です。
次回の演習日を、今日カレンダーに入れる——年1回でも、決まっていなければ実施されません。

最後に、頻度について。JPCERT/CCも統一基準も「定期的に」としか書いていません。具体的な回数は示されていないので、まずは年1回を暦に固定し、大きな制度変更や組織変更があったときに臨時で回す——という運用が現実的です。正解の頻度より、決まった日付があることのほうが効きます。

第7章 おわり — 次は第8章

CHAP8

第8章 / 全8章

関連用語と、次に読む記事

この語とセットで覚えると理解が早くなります

CSIRT SOC デジタルフォレンジック 重要インフラ 内部不正 BCP(準備中) セプター(準備中)
こんな方に次に読む記事
演習で使う手順書を先に作りたいインシデント対応プレイブック
最初の30分に何をするか知りたいインシデント発生 最初の30分
誰が判断するか決めたいCSIRTとは?
実際の被害と復旧の流れを見たい大規模ランサムウェア被害の事例
報告義務の期限を確認したい二重恐喝とは?(報告義務の章)
制度側の要求を知りたい重要インフラとは?
試験対策の演習問題を解きたい支援士試験 午後II演習
用語を一覧で見たいセキュリティ用語辞典

第8章 おわり — 最後にFAQ

FAQ?

よくある質問

机上演習についてよく聞かれること

検索でよく見かける疑問から

何人いれば成立しますか?

2〜3人から成立します。JPCERT/CCは「CSIRTメンバーだけで行う演習や、サービス対象者も参加して組織全体の対応を確認する演習など、目的とスコープに応じたさまざまなやり方が考えられます」としています。人数は目的で決まります。連絡網を確かめたいなら2〜3人、判断の詰まりを見たいなら5〜8人、公表や事業判断まで通したいなら経営層を含む全部門——第3章の3段階です。「全員そろわないからできない」は、やらない理由になりません。

どのくらいの頻度でやるべきですか?

公的文書は具体的な回数を示していません。JPCERT/CCは「定期的に行うことが推奨されます」、統一基準は「実践的な演習・訓練を定期的に実施し、課題の抽出及び改善を行う」とするのみです。実務的には①年1回を暦に固定する ②組織変更・システム更改・制度改正があったら臨時で回すの二段構えをおすすめします。国の全分野一斉演習は年1回・2025年で20回目という頻度で続いています。

経営層は参加すべきですか?

Lv.3の演習では必須です。公表するか、事業を止めるか、支払いに応じるか——これらは現場では決められません。経営層が不在の演習は、いちばん詰まる論点を飛ばして進むことになります。なお『重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画』は、演習が「事前準備、事後の改善の場面を通じて経営層との対話の機会としても有効に活用できる」としています。参加してもらえない場合でも、結果報告は必ず上げてください。統一基準は経営層が善管注意義務違反等の責任を問われ得ることにも触れています。

外部の事業者に頼むべきですか?

最初は不要だと考えます。第3章のLv.1・Lv.2は自前でできますし、自組織の癖を見つけるのが目的なので、外注してもその部分は代わってもらえません。外部に頼む価値が出るのは、①シナリオの質を上げたいとき ②進行役を中立にしたいとき ③業界横断で他社と合同でやりたいときです。③については、第4章のとおり公的機関や業界団体が実施する演習に参加するという選択肢があり、費用面でも現実的です。ただし2025年度調査では、合同で企画して実施している事業者はまだ4.3%にとどまっています。

出典・参考

最終更新:2026年8月19日/次回見直し予定:2027年3月(全分野一斉演習の実施報告および浸透状況調査の更新に合わせて)

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