クイッシングとは?日本の公的統計に、まだ存在しない攻撃
件数が少ないのではありません。数える枠組みが無いのです。
30秒でわかる「クイッシング」
- QRコードを使って偽サイトへ誘導するフィッシングのことです。QR+phishing で quishing(クイッシング)。
- 危険なのは、読み取るまで行き先が分からないこと。URLと違い、目で見て判断する材料がありません。
- 筆者が確認した範囲では、警察庁・IPA・フィッシング対策協議会のいずれの最新資料にも、QRを区分した統計はありませんでした(第2章)。
- 誤解:「会社のPCで開かないから安全」。QRは私物スマホへ誘導するので、会社の防御をまたぎます(第3章)。
- 今日やること:QRを読み取ったあと、開く前に表示されるURLを見る癖をつける。それだけで大半は防げます。
この記事の地図(全8章)
「QRコードの詐欺が増えている」という話を見て、あるいは駐車場や飲食店のQRを読み取ることに不安を感じて、調べに来られた方が多いと思います。
この記事の中心は第2章と第3章です。クイッシングについて調べると、たくさんの数字が出てきます。しかしその多くには一次資料がありません。この記事では、確認できたことと確認できなかったことを、はっきり分けて書きます。
この記事は2026年8月17日時点の内容です。第2章は、警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』(2026年3月公表)、IPA『情報セキュリティ安心相談窓口の相談状況[2026年第2四半期]』(2026年7月22日公表)、フィッシング対策協議会『2026年7月 フィッシング報告状況』を、筆者が実際に確認した結果です。
第3章の理由と第5章の型は筆者による整理です。公的に定められた分類ではありません。また統計が無いことは、被害が無いことを意味しません。第2章でその点を詳しく扱います。
クイッシングとは(やさしい定義)
手口ではなく、届け方の名前です
QRコードを使って偽のサイトへ誘導し、情報や金銭をだまし取るフィッシングのことです。攻撃の中身は通常のフィッシングと同じで、入口がQRコードになっている点が違います。
フィッシングの家族には、届け方ごとに名前が付いています。
| 呼び名 | 届け方 | 受け取る側の状況 |
|---|---|---|
| フィッシング | メール | PCでもスマホでも。URLは見える |
| スミッシング | SMS | スマホ。URLは見えるが短縮されがち |
| ビッシング | 電話 | 会話の流れで判断させられる |
| クイッシング | QRコード | 読み取るまでURLが見えない |
整理は筆者によるものです。
最終行が、この語に別の名前が必要な理由です
メールでもSMSでも、URLは文字として画面に出ます。怪しければ見て気づけます。QRコードは、白黒の四角にしか見えません。人間には中身が読めない形式に、リンクを埋め込んでいる——これが他の3つと決定的に違う点です。
第1章 おわり — 次は第2章
公的統計に、まだ存在しない
調べた結果を、そのまま書きます
この記事を書くにあたり、日本の主要な一次資料を確認しました。結果はこうです。
| 資料 | 公表 | QRを区分した統計 |
|---|---|---|
| 警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』 | 2026年3月 | なし(本文・資料編を通じてQRの記述を確認できず) |
| IPA『情報セキュリティ安心相談窓口の相談状況[2026年第2四半期]』 | 2026年7月22日 | なし(相談区分にQRの項目なし) |
| フィッシング対策協議会『2026年7月 フィッシング報告状況』 | 2026年8月 | なし(QRを悪用した手口への言及なし) |
2026年8月17日時点で筆者が確認した範囲です。今後の資料で扱われる可能性はあります。
ネット上には「相談が◯倍に増えた」「被害額◯万円」といった数字が多数出回っています。しかし筆者が確認した限り、それらの一次資料にたどり着けませんでした。したがってこの記事では、それらの数字を採用しません。
定義の側にも、QRは入っていません
統計だけの話ではありません。警察庁がフィッシングをどう定義しているかを見てください。
フィッシングとは、実在する組織を装ってメールやSMSのリンクから偽のウェブサイト(フィッシングサイト)へ誘導し、同サイトでアカウント情報やクレジットカード番号等を不正に入手する手口であり、これによって得られた情報はインターネットバンキングに係る不正送金やクレジットカードの不正利用に使われている。
警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』第1部(2)(強調は筆者)「メールやSMSのリンクから」。QRコードは、この定義の外にあります。
これは定義が間違っているという話ではありません。統計の枠組みは定義に沿って作られるので、定義にQRが入っていなければ、集計にも入らない——それだけのことです。しかし結果として、この手口は数字として現れません。
統計が無いことは、被害が無いことではありません
むしろ逆です。数える枠組みが無いから、数字が出てこないと考えるほうが自然です。フィッシングの統計は「報告されたURL」を数えます。ところがQRコードは画像なので、URLとして報告されません。読み取ったあとに開いたURLが報告されれば、それは「フィッシング」として集計され、入口がQRだったことは記録に残りません。
参考までに、確認できた数字を並べておきます。いずれもクイッシングを区分したものではありません。
| 指標 | 数値 | 出どころ |
|---|---|---|
| 2026年7月のフィッシング報告件数 | 66,119件(前月比 約8.6%減) | フィッシング対策協議会 |
| 同月に悪用されたブランド数 | 101件(Amazon 約37.0%、Apple 約11.8%) | 同上 |
| 2025年のフィッシング報告件数 | 245万4,297件 | 警察庁(フィッシング対策協議会の数値を引用) |
| 2026年第2四半期のIPA相談総数 | 3,832件(前年同期比 約30.3%増) | IPA |
出典:フィッシング対策協議会『2026年7月 フィッシング報告状況』、警察庁『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』、IPA『情報セキュリティ安心相談窓口の相談状況[2026年第2四半期]』。
組織のセキュリティ予算は、多くの場合「件数」で説明されます。統計に出ない脅威は、稟議に書けません。だから対策が後回しになります。
クイッシングの本当の危険は、手口の巧妙さよりもこの「見えなさ」にあると筆者は考えます。だからこそ、数字ではなく構造で理解しておく必要があります。それが次章です。
第2章 おわり — 次は第3章
なぜ既存の防御が効かないのか
理由は5つあります
企業はフィッシング対策に投資してきました。メールのフィルタ、URL検査、社員教育。それらがQRの前でどうなるかを、一つずつ見ます。
| # | 効かなくなる理由 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| 1 | URLフィルタの検査対象外 | QRは画像。メールのリンク検査は文字列を見るので、素通りします |
| 2 | 行き先が見えない | PCならリンクにマウスを乗せればURLが出ます。QRにその操作はありません |
| 3 | PCからスマホへ移らせる | 会社の防御の外に出ます。下で詳しく扱います |
| 4 | 物理世界に置ける | 紙のシールを貼るだけ。どんなデジタル防御も届きません |
| 5 | 短縮URLと同じ問題 | 読み取っても、転送先の最終的な行き先までは分かりません |
整理は筆者によるものです。
3番が、この攻撃の設計の核心です
会社のPCには、いろいろな守りが載っています。メールフィルタ、プロキシ、EDR、資産管理。ところがQRコードを読み取るのは、多くの場合、私物のスマートフォンです。
| 守りの仕組み | 会社のPC | 私物スマホ |
|---|---|---|
| メールのURL検査 | 効く | そもそも通らない |
| プロキシ・通信の監視 | 効く | 効かない |
| 端末の管理(MDM等) | 効く | 及ばない |
| ログの記録 | 残る | 残らない |
| 事故が起きたときの調査 | できる | ほぼできない |
一般的な構成での比較です。私物端末の業務利用に関する方針は組織によって異なります。
QRコードは、防御の境界をまたがせる装置です。攻撃者から見れば、会社の中に届いたメールを、社員の手で会社の外へ持ち出させることができます。1枚の画像で。
そして最終行が、あとから効いてきます。私物スマホで起きたことは、記録が残りません。「誰が、いつ、何を入力したか」を調べられないため、被害範囲の特定ができません。
第3章 おわり — 次は第4章
よくある誤解と、似ている用語
「QRコードが危ない」という言い方から離れます
| 誤解 | 実際は |
|---|---|
| 「QRコードそのものが危険」 | QRコードはただの文字列の入れ物です。危険なのは中身と、中身が見えないこと。読み取り自体で感染することは通常ありません |
| 「会社のPCで開かないから安全」 | 第3章のとおり、スマホへ移らせるのが目的です。PCで開かないことは、攻撃者にとって好都合ですらあります |
| 「読み取る前に安全か判別できる」 | 人間の目には判別できません。正規のQRの上に貼られたシールも、見た目では分かりません |
| 「日本ではまだ少ない」 | 第2章のとおり、統計が無いだけで、少ないという根拠もありません |
| 用語 | 意味 | この語との関係 |
|---|---|---|
| クイッシング | QRを入口にしたフィッシング | この記事の主題 |
| フィッシング | 偽サイトへ誘導して入力させる | 上位の概念 |
| ソーシャルエンジニアリング | 人の心理を狙う攻撃の総称 | さらに上位の概念 |
| QR決済の不正利用 | 決済サービス側での不正 | 別物です。ただし入口がクイッシングのことはあります |
| 短縮URL | 長いURLを短くする仕組み | 同じく行き先が見えない問題を持ちます |
QR決済サービス側の安全性と補償条件は QR決済・電子マネー10サービスの安全性 で扱っています。
第4章 おわり — 次は第5章
手口の4つの型
置かれる場所で、警戒の仕方が変わります
| 型 | 置かれる場所 | 見分けるヒント |
|---|---|---|
| 1. 貼り替え | 駐車場、飲食店、掲示板など実物のQRの上 | シールが浮いている、枠がずれている、明らかに後貼り |
| 2. メール添付 | 「認証してください」等のメールに画像として | 本文にURLが1つも無く、QRだけ置かれている |
| 3. 郵便物・チラシ | 請求書、当選通知、公共料金の案内を装う | 差出人に心当たりがない、急かす文言がある |
| 4. 画面表示 | 偽の広告、偽のログイン画面 | 正規サイトからの遷移かどうか |
型の整理は筆者によるものです。実際の手口はこれらを組み合わせます。
2番が組織にとって厄介です。本文にURLが無いので、URL検査を通り抜けます。しかも「多要素認証の再設定をしてください」といった、スマホで操作するのが自然な口実と組み合わされます。第3章の3番が、こうして成立します。
口実の作り方は、既存の手口と同じです
QRはあくまで届け方なので、人を動かす部分は従来のフィッシングと変わりません。組み合わされる口実には、よく使われる型があります。
| 口実 | 文面の例 | なぜスマホへ誘導できるか |
|---|---|---|
| 認証の再設定 | 「多要素認証の再登録が必要です」 | スマホで操作するのが自然なので疑われにくい |
| 配送・不在通知 | 「お荷物のお届けにあがりましたが不在でした」 | 外出先で確認するのが自然 |
| 支払い・請求 | 「お支払いが確認できませんでした」 | 決済アプリはスマホにある |
| 社内手続き | 「勤怠システムの更新手続き」 | 差出人が社内に見えるため警戒が下がる |
口実の型は筆者による整理です。文面は例示であり、実在の文言ではありません。
どれも「スマホで開くのが自然」な用件である点が共通しています。偶然ではなく、第3章の3番を成立させるための設計です。
1番は、デジタルの対策が1つも効きません
誰かがシールを1枚貼るだけで成立します。フィルタも、認証も、暗号も関係ありません。これはソーシャルエンジニアリングの物理版で、防げるのは読み取ったあとにURLを見る習慣だけです。だから第6章の1行目が、この記事でいちばん実用的な対策になります。
第5章 おわり — 次は第6章
個人でできること
1つだけ習慣にするなら、これです
| # | やること | 効く型 |
|---|---|---|
| 1 | 読み取ったあと、開く前にURLを見る。スマホのカメラは通常、開く前にURLを表示します | すべての型 |
| 2 | 駐車場や店のQRは、シールが後から貼られていないか触って確かめる | 1(貼り替え) |
| 3 | 支払いや認証は、QRからではなく公式アプリを自分で開いて行う | 1・2・3 |
| 4 | メールにQRしか無いときは、いったん止まる | 2(メール添付) |
| 5 | パスキーを使えるサービスでは使う | 偽サイトに入力させる手口が原理的に効かなくなります |
実務上の一般的な整理です。端末やアプリによってURLの表示方法は異なります。
1番が本命です。QRを読み取った直後、多くのスマートフォンは「このサイトを開きますか」とURLを表示します。そこを読まずにタップしているだけで、クイッシングは成立します。逆に言えば、そこを読む習慣がつけば、大半は止まります。
いちばん右の「/」より前の、最後の2語を見てください。amazon.co.jp.example.com なら、本当の行き先は example.com です。前半に有名な名前が入っていても意味がありません。練習は フィッシングURLクイズ でできます。
判断力を試す
フィッシング探偵と フィッシングURLクイズ で、実際に見分ける練習ができます。手口の一覧は サイバー犯罪の手口20選 にまとめました。
第6章 おわり — 次は第7章
組織でやること
PCとスマホの境界を、埋める話です
| # | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 「業務の認証をQRから行わない」と決める | 第5章の2番を封じます。ルールにすれば個人の判断が要りません |
| 2 | パスキーを導入する | 偽サイトに入力させる手口が原理的に成立しなくなります |
| 3 | 訓練メールにQR版を混ぜる | URL版だけ訓練しても、QRへの反応は測れません |
| 4 | 自社が掲示しているQRを定期的に現物確認する | 貼り替えられていたら、被害者は自社の顧客になります |
| 5 | 私物スマホで業務認証を行う範囲を把握する | 第3章のとおり、そこは調査できない領域です |
| 6 | 報告窓口を明示し、報告した人を責めない | 私物端末での事故は、言い出しにくいためです |
実務上の一般的な整理です。
4番は見落とされがちです。店舗、駐車場、イベント会場、ポスター——自社が世の中に貼り出しているQRは、貼り替えの対象になります。そして被害に遭うのは自社の顧客で、責任を問われるのは自社です。掲示しているQRの一覧を持っている組織は、ほとんどありません。
3番は、測れないものを測れるようにする手です
第2章のとおり、クイッシングには統計がありません。しかし自社の訓練でQR版を混ぜれば、自社の数字は作れます。「URL版は5%が開いたが、QR版は18%だった」——このような自社データがあれば、対策の稟議は書けます。外の統計を待つ必要はありません。
第7章 おわり — 次は第8章
関連用語と、次に読む記事
この語とセットで覚えると理解が早くなります
| こんな方に | 次に読む記事 |
|---|---|
| QR決済の安全性を知りたい | QR決済・電子マネー10サービスの安全性 |
| 見分ける練習をしたい | フィッシングURLクイズ |
| 親概念から理解したい | ソーシャルエンジニアリングとは? |
| SMS版を知りたい | スミッシングとは? |
| 入力してしまった | やられたときの最初の30分 |
| カードの不正利用が心配 | カード不正利用とQR決済 |
| 手口を一覧で知りたい | サイバー犯罪の手口20選 |
| 用語を一覧で見たい | セキュリティ用語辞典 |
第8章 おわり — 最後にFAQ
クイッシングについてよく聞かれること
検索でよく見かける疑問から
QRコードを読み取っただけで感染しますか?
通常はしません。QRコードは文字列(多くはURL)の入れ物であり、読み取るとその文字列が取り出されるだけです。危険が生じるのは、そのURLを開いて、情報を入力したり、アプリを入れたりしたときです。ですから第6章の1番——開く前にURLを見る——が有効に働きます。ただし、読み取り機能を持つ怪しいアプリを使っている場合は話が別なので、標準のカメラアプリを使ってください。
安全なQRかどうか判別するアプリはありますか?
URLの安全性を判定する機能を持つものはあります。ただし作られたばかりの偽サイトは、まだどの判定にも載っていません。フィッシングサイトは短時間で作られて消えるため、判定が追いつかないのが実情です。アプリに任せきりにせず、第6章の3番——支払いや認証は公式アプリを自分で開いて行う——を組み合わせてください。
会社のPCで開かないので大丈夫ですよね?
いいえ、むしろ逆です。第3章のとおりスマホへ移らせることが攻撃の狙いだからです。会社のPCには防御とログがありますが、私物スマホにはどちらもありません。「会社のPCで開かなかった」は、攻撃者にとって想定どおりの動きです。組織としては第7章の1番(業務の認証をQRから行わない)を決めておくのが確実です。
駐車場や飲食店のQRは使わないほうがいいですか?
使わないという判断も合理的です。ただ現実には便利なので、使うなら第6章の1番と2番——読み取ったらURLを確認し、シールが後貼りでないか触って確かめる——を習慣にしてください。支払いに関しては、公式アプリを自分で開いて店舗を選ぶほうが安全です。金銭が絡む場面ほど、QRを経由しない方法を選んでください。
出典・参考
- フィッシング対策協議会『2026年7月 フィッシング報告状況』 https://www.antiphishing.jp/report/monthly/
- IPA 独立行政法人情報処理推進機構『情報セキュリティ安心相談窓口の相談状況[2026年第2四半期(4月〜6月)]』(2026年7月22日公表) https://www.ipa.go.jp/security/anshin/reports/2026q2outline.html
- 警察庁サイバー警察局『令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について』(2026年3月公表) https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R7/R07_cyber_jousei.pdf
- IPA「ここからセキュリティ! 情報セキュリティ・ポータルサイト」 https://www.ipa.go.jp/security/kokokara/
最終更新:2026年8月17日/次回見直し予定:2026年12月(QRを区分した公的統計が登場していないかを再確認するため、他の語より短い間隔にしています)


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